11月10日 夢

霜月十日

 周りはたくさんの、楽しげな人で溢れていた。彼らも私も、巨大な水の流れの中にいた。
 温い水の中で私たちは流れに身を任せ、隣り合う人と浮わついた気持ちで話し合ったり、時に足のつかない深みに嬉しい悲鳴をあげたりした。流れる人のざわめきは、遥か上にある鼠色の天井で反響し、増幅してまた降ってきた。
 水は灰がかった青色で、川の水のように透けていた。においはなく、目を開けても痛くはない。ただ温かくも冷たくもなかった。
 私はそこで一人の女性と仲良くなった。彼女は、流れの中に時おり現れる深みの上を流れる際、顔をこわばらせて恐怖していた。私は彼女が深みへと行かないように泳ぎ、手を引いた。

 しばらくすると人々は、プールサイドのように整えられた陸へと上がり始めた。私もそれに習った。彼女もそうしたような気がしたが、人混みに紛れてしまった。
 人々は流れと同じ方向へ、今度は陸を歩きながら進んだ。私もそれに習った。岩壁をくり貫いて作られたような短いトンネルをいくつかくぐる。

 やがて気がつくと溢れ返っていた人の声は消え、歩いているのは私一人になった。
 私は一人であることに恐れ、誰かを探さなければと焦った。またトンネルをくぐる。

 いつの間にか外へ出ていた。ぬけるような青い空。まぶしいほど白い砂浜。藍色の海は、空と果てで結ばれていた。私は砂浜の上に建つ、岩礁をならしたような道を進む。波の音も人の囁き声もなかった。
 恐ろしいほど虚しい夏の景色が鮮烈に広がっていた。
 私は戦慄した。絶叫しながら岩礁の上を走った。私は泣いていたが、それは悲しみの涙だったように思う。
 叫び声は空に吸い込まれる、海にとける。応えるものはなかった。
 誰もいない砂浜を尻目に走った。私の叫び声だけが聞こえた。

夢の覚書
 

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