『カメラを止めるな!』(2018/8/26於イオンシネマ松本)

ネタバレさせたくない・したくない人が多いようなので一応お断りしています。作品の展開に関するネタバレを含む記事です。


行ってきたよ行ってきたよ~。話題のあの映画に。

夫も見たい私も見たい、ということで、夫が見ている間は私が子と過ごし、次の回は私が見て、夫が子と・・・というスイッチ鑑賞。ありがとうイオンモール。ありがとう息子。



鑑賞中どこかで三谷幸喜氏の作品を次々を思い返していました。
これは私が90年代演劇に観るほうも作るほうにも傾倒していて、三谷氏の作品もまずまず観てきたので、どうしてもその懐かしい手触りに引っ張られてしまうというところもあるのですが。
冒頭のワンカット撮影では『12人の優しい日本人』から『大空港』とか、後半は『ショウマストゴーオン』や『ラジオの時間』とかね。
つまり、ワンカットの緊張感や、いわゆるバックステージものとして作り手が面白おかしく右往左往して伏線の回収自体を物語のメインに設えるような喜劇としては、この作品があまりにも斬新というほどでもなく、ネタバレ厳禁!みたいな風潮が広がっていたけれど、そこまでか?という感じもしないでもないです。ネタバレしたって絶対楽しめる!という意味でね。

ただ、この映画の大きな特徴として
①結果→②因子→③方法論の構造をはっきり見せるところで、とても解り易くしていて、①で薄い不信感を募らせておいてからの、ギャップ萌え熱量が上がってくる展開。
③で後半に伏線の回収を集中させて、なるほど!こういうことか!よし!がんばれ!と膝を打ちつつ、切迫感にハラハラしつつ、ハプニングに笑いが止まらないこの感じ。
ピタゴラスイッチ大解説スペシャル的壮大なコントのようでいて、ものづくりへ注ぐエネルギーが存分に伝わってきて、かといって作り手の自己満足的なメッセージや過剰な説明みたいな無駄は無い爽快さ。作り手と作品の関係性と熱量を、ここまでメタ的にここまで緻密に描いた脚本って今までなかった、ということなんだろうなぁ。

ものづくりって完成作品こそが評価対象と思われがちだけど、作り手が次なる作品への情熱を傾け続けられるのは、現場でしか得られないあの快感。自分とは違う人に出会える面白さとか、労をどう乗り越えたかという経験値とかハプニングが起こす奇跡とか、最後までやり遂げたときのたまらない安堵感とかだったりする。
完成品に触れる人だって、やっぱりそんな葛藤や奇跡が垣間見えていて、だから心打たれるんだよね。そういうところにただただ忠実な作品でもあったと思います。

ちょっと余談にもなるけど、製作がENBUゼミナールということですが、かつて『演劇ぶっく』という会社があって演劇界唯一の定期誌を出していました(いまは名を変えメディアを増やすなどして展開していると思うのだけどよく知らない)。その会社がやっている演劇学校がENBUゼミ。その潮流のプロジェクトということであれば、ものづくりへの妥協ない姿勢と観る側への信頼を持つ器があって、そこから生まれる魅力が詰まった作品であることも納得です。

汗かいて走っている姿って清清しくも、よく観ると必死の形相だったりしてね、やっぱり滑稽。それでもっと好きになる、それが人間味。