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日本の中の北朝鮮#47

先日、知人のおすすめでNHKの「こころの時代〜宗教・人生〜 オモニの島 わたしの故郷〜映画監督・ヤンヨンヒ〜」という番組を観ました。
(※以下、ネタバレ情報を含みます。未視聴の方はご注意ください💦)

番組の情報を教えてもらってすぐに、NHKオンデマンドを開いてポチッとレンタル。

子育てやら仕事やらで時間に追われているのはいつものことですが、いろいろと後回しにしてでも観たいと思ったのです。
来日する前から私が抱えていた疑問に対する答えを探すために…

私がずっと抱えていた疑問とは何か?
それは

”民主主義で政治が行われ、情報へのアクセスがオープンな日本において、なぜ朝鮮総連(以下、総連と記載します)のような、北朝鮮を崇拝し国体の維持に努める組織が存在するのか”

ということでした。

(参考情報として総連の公式HPを載せるつもりでしたが、セキュリティ上の問題からWikipediaのリンクを埋め込みしています)

ご存知ない方は驚かれると思いますが、47都道府県すべてに本部とその下部組織である支部が存在しているのです。
公安調査庁から”破壊活動防止法に基づく調査対象団体”に指定されている怖〜い団体です😎

総連はかつて北朝鮮の命令で「地上の楽園」と嘘をつき、約10万人の在日朝鮮人を北朝鮮に送ることに尽力しました。(詳細は以下の記事を参照)

総連で活動した人の中には、共に北朝鮮へ渡った人もいれば、日本に残って拉致に加担したり、北朝鮮の宣伝をしたりしながら、今も堂々と暮らし続けている人もいます。

(北朝鮮で暮らしていたときに、縁があって総連元幹部の家族が暮らす帰国者だけの街に住んでいたことがあります。機会があれば彼らの生活についてもご紹介したいと思っています)

今回、こころの時代を観たことで、先ほど触れた疑問についてはある程度、解消することができたといえます。

ヤンヨンヒ監督は番組で、北朝鮮に忠誠を誓った父とその犠牲になった3人の兄、そして、とにかく祖国を持ちたかった母について、とても率直に話をされていました。そのような家族の中で自由を求め、もがいて、苦しんで、向き合って、また失望して、を繰り返す様子が赤裸々に表現されています。

さすが、表現する人は違います!画面に引き寄せられるものがありました。

ヤンヨンヒ監督とは「かぞくのくに」という作品の試写会で初めてお会いしました。その後、在日コリアンの集まりなどで3回ほど会いましたが、美しく、とても素敵な方です。

この映画を観ることになったきっかけは、当時お付き合いしていた恋人(在日韓国人)の勧めでした。
映画のあらすじを聞いたとき、総連に関して私が抱えていた疑問について、答えを得られるのではないかと淡い期待を抱いたのを覚えています。
しかし、当時の私は若く、考えも未熟だったためか、そこから納得のいく答えを導き出すことはできませんでした。

今回のこころの時代で、ヤンヨンヒ監督が「かぞくのくに」を撮影した時の心情や葛藤について触れるパートがあり、当時観た映画の内容が蘇ってきました。

「かぞくのくに」はソンホという10代の息子を北朝鮮に帰国させた総連幹部の家庭の話です。ソンホにはリエという朝鮮学校で教師をする妹がいます。
その息子が病気になり数年に渡る両親の訴えが実り、治療のために3ヶ月間だけ日本へ帰国することが許されます。彼が帰国して25年後のことでした。
しかし、彼が日本に来ることを許されたのは国からの別の指令があったからです。
ある日、ソンホはリエに国のために人々を監視し報告するスパイの仕事はできないかと持ちかけます。それに対するリエの答えは「あなたにそういう指令をした人に妹は私たちの敵だとと伝えて」と泣きながら叫び、家の外に飛び出します。
そして、北朝鮮からついてきた見張り係のヤンに「あなたも、あなたの国も大嫌い!」と声を荒げます。それに対してヤンの反応は「あなたが嫌いなその国で、お兄さんも私も死ぬまで生きるんだ」と静かに応えます。ヤンもまた北に妻や子を持つ身でした。
リエの発言は北朝鮮に家族を持つ人にとっては勇気のいる言葉ではありましたが、まだ未熟であるからこそ言える発言でありました。リエの発言に対する北朝鮮の反応は残酷なものでした。
続きは映画をご覧ください。

「かぞくのくに」はヤンヨンヒ監督の実体験を基に作られています。
この映画では兄は1人という設定ですが、実際は兄は3人いて、全員が北朝鮮に帰国したのです。
一番上の兄はクラシック好きのとても優秀な方で、金日成の誕生日に「人間プレゼント」として帰国を余儀なくされたようでした。

ヤンヨンヒ監督はインタビューの中で、北朝鮮にいる家族を危険に晒すリスクや罪の意識に苛まれることを甘んじて受け入れ、”それでも映画を撮り続ける”覚悟について語っています。

家族を人質に取られることで、当事者たちは口をつぐみ、北朝鮮の実態はベールに包まれたままになる。それこそ北朝鮮を牛耳る人々の思う壺ではないか。

そんな想いを語る彼女に深く賛同しつつも、実際に行動を起こすのは並大抵のことではないと感じる自分がいたのです。

彼女の存在が、作ってくれた作品が、心の底からありがたいと思いました。私は番組を観ながら、少しだけ(いや結構)泣いてしまいました…

北朝鮮に忠誠を誓い、さまざまな工作や宣伝活動に動員される総連の人々。
彼らの多くもまた、家族を人質に取られる身であり、北朝鮮という国家が行う人権侵害の被害者であると理解することができました。

情報はオープンに公開され、スマホの画面上で指を少し動かすだけで世界情勢について知ることができる。その気になれば、パスポートを入手して違う国へだって行ける。いつでも行けるのです。
それが日本という民主主義国家に生まれた人の特権です。

観る映画、聴く音楽、着る洋服、すべて自分の好きなものを選ぶことができます。そして、それなりに働いていれば、旅行に行ったり、子どもを大学に行かせたりすることだってできるのです。

日本で暮らす人たちにとっては、当たり前のことでしょうか?

私が生まれ育った北朝鮮では、そういったことは何一つ自由になりませんでした。日本だって少し時代を遡れば違う状況があったはずです。

幸せというものは無くしてから、初めて気がつくものです。

国連が発表した「世界幸福度報告書」2024年版で、日本は51位という低い順位に位置しています。

日本はもっと欧米諸国を見習うべきだとか、現代の日本人はあまりにも満たされすぎているだとか、様々なご意見があると思います。

そういった主張の是非は別として、個人が思った意見を自由に表現することができる状況が日本にはあります。それすらも民主主義国家だから成立していることなのです。

日本という国で暮らすことができて、私はとても幸せだと思います。


最後にちょっとだけ脱線させてください😆
「かぞくのくに」で安藤サクラさんを初めて知った私は、彼女の演技に魅了されました。

それから時々、彼女の作品をチェックしているのですが、先日は「ブラッシュアップライフ」というドラマをNetflixで視聴しました。とてもおもしろかったです。

交通事故で死亡した女性は死後の世界に送られるが、生前の人生を最初からやり直すチャンスをつかみ取る。 来世のために徳を積むべく、彼女の2周目の人生が幕を開ける。

Netflixより

みなさんはこれまでの人生をやり直せるとしたらどうしますか?

私は正直なところ、どんなに素晴らしい未来が待っているとしても、あの脱北時の恐怖や失敗した場合のリスクを考えると、もう一度同じことができるとは思えません😭

一歩間違えば、今ごろ死んでいてもおかしくなかったでしょうし、日本に来た後も悪夢にうなされ、未来は見えず、苦労の絶えない日々でした。

脱北のような大勝負にはある種の勢いとか、後先を考えない若さとか、そういった通常はマイナスに働くような”無謀さ”が不可欠なのではないかと、今の私は感じるところがあります。

ドラマを観ながら(安藤サクラさんの演技に心酔しつつ💓)、とんでもない幸運に恵まれて、いろいろなものを乗り越えて、今の生活があるのだなと考えると感慨深いものがありました。

日々の生活を、そして、周囲の人々をもっと大切にしないといけませんね。

ではまた👋



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