第4話/グレート・ギャツビー・ショーンK

ホラッチョ川上。またはエイプリルフールK、それがショーンKの高校時代のあだ名だった。つまりホラ吹きである。しかし今から考えれば、間違っていたのは同級生の方だったのだ。

というのは、そのホラとは「将来は東京で、ラジオとテレビの仕事をする」という、実際に未来で彼が実現することだったからである。しかし当時の熊本の同級生からすれば夢物語であり、ホラとしか思えなかったのである。

そもそも、ホラ吹きと呼ばれたことが無い偉人はいるだろうか。新大陸を発見したコロンブスのあだ名もホラ吹きだが、まさにそう呼ばれている時にもアメリカ大陸は存在していたのだ。まるでショーンKの未来と同じように。

「将来どうなるかなんて、あんた達にも分かんないじゃない!」

川上をバカにする同級生の前に、一人の少女が立ちふさがった。

「百合、いいんだ」ショーンKは手をふって彼女に微笑んだ。

「だって…まだ高校生なのに人の夢を笑うって、もう始まる前から終わってない?」

「嘘も夢もホラも、なにも違いはないさ。それが果たしてなんだったかは、あとになってから分かるのだから。

一生熊本を出ない彼らに、熊本の未来以外の何が見える。俺は熊本を出る。そして生みの親のマクアードルを探して…」

パーン!

突然百合はショーンKの頬を平手打ちにした。

「いくらなんでもマクアードル父さんの話は言い過ぎよ!」

百合はとても勝気な性格だった。叩かれて一瞬呆然としたショーンKだが、自分を律することにたけた彼は、「そうだね」と言ってまたいつもの微笑に戻った。自分の微笑はひとの好意をひくということに、彼は気づいていたに違いない。

熊本の夜。くる夜もくる夜も、まどろみの銀幕が、さまざまと眼に見える情景を静かにかき消してしまうまで、空想の東京模様がおりなされてゆく。一時は、こうした幻想が、若きショーンKの想像力のはけ口をなしていた。

それは現実の非現実性を快く暗示してくれる。高卒には動かし難い巨石のごとく見える未来も、実は妖精の翼の上にのっていることを保証してくれるものであった。熊本城の天守閣に登った彼の心に映るものは、六本木の高層ビルから見渡す眩いばかりの夜景だったのである。(続く


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※参考:新潮社「グレート。ギャツビー」フィツジェラルド 野崎考訳
※この記事はパロディでフィクションです。


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