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現金派のボクが大パニックにおちいりながらも、猿から人間への進化に立ち会えてクソワロタのでレポしたい。

財布から逃げている。

泥棒のように言い放ってしまい
申し訳ないが、

実のところ‘’逃げた‘’、もしくは‘’逃げている‘’
というのが正確な表現なのだ。

さかのぼること数週間前の月曜日

出張で神戸空港から羽田へと飛び立つ直前。
戦戦慄慄せんせんりつりつ大惨事だいさんじに気がついた。

‘’あれ?財布がない…‘’

ん?どこだ…

コートのポケット、
スーツのポケット、
パンツ…

ない。あれ?おかしい。

カバンの底まで手を入れて探る。
ない。うそだろよ。

全部取り出す。

ないないない。

ない!

ないのだ。

……えぇっと。
……

……

んむ、はっ!!

はあああああ、、思い出したあああ!!

そういえば休日に別のカバンに入れて持ち歩いた。その後、ビジネスバッグに入れ替えたという記憶がない。

うわ、きっつ。
んだ。

財布には現金だけじゃない。
クレジットも、免許証も入れてある。

まさに神に見捨てられたような気の落ち込みようだった。ありきたりな日常ではこんなこともたまにはあるが、さすがに泊りがけの出張ではない。

午後からしくじりの許されない大事な商談が待っている。だから一便いちびん遅らせて自宅に取りに帰る、ってわけにもいかない。

はぁぁ⤵

うんうん。
でもでも。あぁん。
こうなった以上、仕方がない。
落ち着いて冷静に考えよう。

スマホはある、
PayPayは使える、
Suicaも使える、
宿泊先は予約の段階で支払済み、
タクシーには乗るがレンタカーには乗らない。

んむむむ??

あれ、あれ、あれ、あれれれれ。
意外と、ない。

もしかしてスマホさえあれば
どうにかなっちゃったりする?

ボクの脳内では、瞬時にNO財布で不都合な場面が思い浮かばなかった

が、が、が、

これから三日間、これまで生活のお供だった相棒不在で果たして過ごせるのだろうか。

そんな理由なき押し寄せる不安がまとわりついて一向に離れない。

イロイロ考え、悩み、不安をかかえ。

そうこうしていると、
あっという間に、フライトの時間になった。

分からないけどこの暗闇を
薄暗い世界を、
己を信じて突き進むしかない。

そう腹をくくった。

猿から人間への進化に立ち会った

実はこの出張中、   
東京在住の大学時代の友人に会う予定があった。その友人は昔から
‘’お金があれば女にモテる‘’
を座右の銘にしており、

ときにコトバどおりに
金遣いも豪快に粗く、

でも一方で、
資金がショートし電気を止められた、ガバーっと頭を下げて泊まりにくる。

そんなこともフツーにあった。

日々の手持ちのキャッシュに高低がありすぎて、都度都度つどつどでキャラが変わりまくる。

そんな調子のりぃの
‘’こち亀、両さん‘’キャラの彼がボクは大好きで、こいつの胡散臭うさんくさい話を聞きながらバカ笑いするのが学生時代の大好物であった。


ボクと両さん。

二人は、新橋にあるシャレ乙なレストランで再会した。なんと会うのは卒業式以来で、かれこれ20年ぶりである。だってこいつ、ことごとく友人の結婚式に呼ばれても参席しないんだもん(きっと資金ショートのターンだった)。

太っとるやんけ、おまえ。
ゲラゲラ笑

対面した瞬間に懐かしすぎて、
お互い顔を見合わせて、我を忘れてテンション高めに盛り上がった。

会うなりたがいの近況を確認しあう流れに入るわけだが、
その前に、と。
ボクはことわりをいれることにした。

‘’ごめん、今日は財布を忘れて現金がないのよ。だから今日はオレがPayPayで……‘’

ボクがPayPayで一括払いをして、
割り勘分の現金を頂戴ね、
と言おうとしたその瞬間、

1ミクロンの間髪かんぱつも入れずに、

‘’今日は地元民のオレにおごらせんとアカンやろ。最初からそのつもりやったわ。仮想通貨でボロ儲けして勝ち逃げしとんねん。やめてやお前、オレに恥かかせんといてや‘’

と言い放ったのだ。

ワロタ。くそワロタ。

コテコテの関西弁野郎が、
‘’はなみやこ 大東京‘’を地元と言うのにはガッツリとした違和感いわかんがあったが、
それよりも、その予測通りに以前と変わらぬ感がそこにあって、それがやけに嬉しかった。

テーブルに着席するなり、
冒頭の話の続きが始まった。

現金派だからダメやねん、
の説法である。

‘’銀行へ金を預けているだけの人は猿だよ‘’
意気揚々いきようようとした両さんは、
途中から「猿」というフレーズをドヤ顔で付け足し始めた。

さ、さる??猿やと?
お前なんて、銀行に金すら入ってなかったやんけ。

猿から人間へ。

ボクは進化の瞬間に立ち合っているような気がした。

オレはジェリーだ!

‘’オレはキャッシュレスの良さを知り尽くしている‘’

料理が運ばれてきても、酒を飲んでも
両さんは、この圧倒的スタンスを崩すことなくゴリ押ししまくった。

「もう現金なんて時代遅れやねん。おまえはすでに乗り遅れとんねん。オレかて、まぁ今でも現金の受け取りはするよ。でもな、オレから能動的に現金にはタッチしない。それだけは言いきれる。分かりやすく言うとやで。ジェリーがオレ。現金はトム。追われることはあっても追うことはない」

…なんのこっちゃ。

と思ったが、

あぁ、トムとジェリーのことね。

酒が入ってることを差し引いてみても、
意味はよくわからなかったが、
無駄に格好よかった。

そして、このタイミングで切り出してきた。
「いまは低空飛行やけどなぁ、やっぱりこれからは仮想通貨やで」

きた。
ようやく冒頭であった胡散臭うさんくさい勝ち逃げもうけ話が聞けるのか。

ボクは彼の顔をじっと見た。

不敵に笑っていた。
面影おもかげが残っている。
金遣いが豪快なサイクルの頃にしていた
あの顔だ。

仮想通貨は、
‘’金融の概念を根底から覆した‘’
‘’世界の国々の垣根を越える扉‘’、
‘’マネー版、時代の寵児ちょうじ‘’

黙食もくしょくの場所でなくてよかった。
自信満々でそう語り続けて、その勢いは止まらないのだ。

でもボクは心底感動した。

手持ちの金がなく、電気も止められたオトコが今や仮想通貨、資産運用、銀行である。
そして泊めてくれ、とガバーっと頭を下げて懇願こんがんした相手のボクに、

いまやマネーの勉強会の講師をしているのだ。

思った。
負けたのはボクだったのだ。
おそらく。

楽しかった時間はあっという間。いざお会計へ。

3時間くらい経過しただろうか。

明日は早い。
いやあ、ほんとに楽しかったなあ。
そろそろお開きにしようか、

そう余韻にひたっていると、

伝票をギュッとにぎりしめ、
両さんは、ここはオレに任せろと言わんばかりにスッと立ち上がった。

そして肩を揺らしながら颯爽さっそう
レジへと向かっていった。
おぉぉぉぉ。
嫌味いやみもなく、その姿は実にスマートだった。
今日はおごってもらうのだ。ボクは彼の部下のように、ひょこひょことあとに付いて行った。


レジは大学生くらいで、
マスクごしではあったが北川景子に似ているかといえばそんな雰囲気をもった清楚系の女性だった。

伝票をピッと読み込み
レジに金額を表示させると
‘’お支払い方法は…?‘’
ときかれた。

彼は、一瞬の迷いもなかった。

手慣れた感じで
「ビットコで」
と言った。

は?
えええ??

ボクはあ然とした。

華の都、大東京では、
仮想通貨が街中の店舗で使える時代がすでに到来していたのか。
そしてこいつ。ビットコインを「ビットコ」呼ばわり。前触れ無き、唐突なマブダチ感。
もはやさすがとしか言いようがない。

悪かった。
もう地元民として認定する。
感動した。あとでびを入れてそれを伝えよう。そう誓った、そのときだった。

‘’え?ヒョットコ?……ですか?‘’

レジの女性が眉間みけんにシワを寄せて困惑して聞き返してきた。

両さんは、フフっと少し鼻で笑って
「ビ、ット、コ、イ、ン、です」
今度は誰にでもわかるトーンで、ゆっくりと、ハッキリと言った。

声は店内に響いた。

‘’使えないです‘’

店員さんが、じっと彼の顔をみながら無表情で静かなトーンで返してきた。冷やかしと思ったのだろうか、むしろ怒っているようにも見えた。

お、おぅ…

ビットコインで支払おうとするおっさんA、

そのコインでイソイソおごられようとするおっさんB、

淡々と仕事を完結させたい若い女性C、

この不協和音のトライアングルが不条理にも完成し、
そこには気まずい空気が一様に流れ、
あたり一体が静寂せいじゃくとなった。

5秒くらいか。

この気まずすぎる状況に耐えきれなくなったボクは、おそるおそる彼の横顔をみた。

完全にコトバに詰まってる。
あれだけさっきまで、
意気揚々いきようようとしゃべりまくっていた両さんが

じっーと、真顔で黙ってるではないか。

身体中から変な汗が噴き出しているだろう彼が、軽やかに追い詰められているのが見てとれた。

しかし絶対に引き下がることは出来ない。
こんなとんでもない状況で中途半端にドロップしようものなら、自己破産はまぬがれれない。
何もかもを失ってしまう。
そんな意地にも似た決意で、両さんは続けた。

「使えなくても貯まります?」
「貯まりません」
「近くのあそこでは使えたけど」
「当店では使えません」

アラフォーおっさんの意味不明の悪あがき。
最後っ屁。
そんな店員とのやり取りを見せられ、
ボクはただただ悲しかった。

一通り、その後味あとあじの悪い茶番が終わると、
最後は財布を取り出して
能動的に現金を取り出して払ったのだ。

あーあ。
あーあ。
もう、なにもかもがめちゃくちゃ。

なぜなの、どうしてなの、何なのコイツ。

店を出て、顔を見合わせたボクと両さんの間に、最大級の重苦しい羊たちの沈黙が流れた。

財布から逃げている

三日間の出張。
結局、なに1つ不自由なく財布なしで過ごせた。できるものなのだ。

それからというもの、イロイロと考えて、
「とりあえず財布をやめてみよう」
と思った。

そして買ったのが2つ。
10枚入りのカードケース、
名刺入れみたいな薄さの小銭入れ

これでしばらくやってみようか。
一旦やめてみて、
不便だと思ったらまた持ち歩けばいい。

ということで、
財布とサヨナラしちゃいました。

あ、ちゃうか。

オレはジェリーや。
財布はトム。
オレは財布から逃げることにしたのだ。

あれから2週間経過したが、

未だにボクは、
トムから逃亡中である。

◇あとがき◇
noteしていると教えたら、
本気でお前のアカウントを探す、言うてたので、いつかこのnoteを見つけられそうだから念のために言うとこうか。

本当に記事ネタにしちゃったわ。

両さん、
再会でマヌケなところみたけどやな、やっぱりオレはそういうところが好きやで。
そうやで、そこやで😄

2人ともおっさんなったけどやな笑

仲良しだった両さん(左)とボク(大学卒業式)


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