作品:天命反転墓地

小平照恩寺での個展「Wave of Light」は土曜日26日までです。
ご来場をお待ちしています。作品紹介をしたいと思います。

〓天命反転墓地〓
今回の展示では、写真や絵画の展示もあります。しかし、基本的には Installation Artという空間作品を基調としており、お寺の建築構造や地理的・歴史的文脈を踏まえて一連の作品群を展開しています。

私の作家性として「その場所で作品を展示する意味」を重要視しています。ですので、一般的に行われている白い壁によって掲載されたギャラリー(White cube)に、目線の高さに絵画や写真を展示する手法は選択しません。展示空間の建築構造や、展示会場の地理的位置・歴史的文脈を考慮した上で作品を制作し、配置しています。ですので、来場者の空間内での移動経路も含めて作品が寺の内部に置かれています。

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今回、小平霊園近くの照恩寺というお寺で展示をする運びになりました。土地の歴史を考えた上で、場所固有性のあるその場のための作品(Site-specific Art )を制作しました。小平霊園が近くにあること、また会場が浄土真宗のお寺であることは、展示作品と切っても切れない関係にあります。生と死、仏教、人間存在、そして反転という考え方をを軸に考察を含めた形で制作は進行しました。

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小平霊園、といえば、墓地です。墓地は死後を扱いますが、こちらの作品および展示全体では「反転」をテーマに据えています。人がこの世に生まれ、そして死ぬ。墓地はその死後を扱うものです。私は今回、人が生まれる前。つまり、生命の生前を扱ったものを作りたいと思いました。それは偏に、私がまだ死んだことがないからであり、生まれてきた。そのことに圧倒的な不思議を抱えているからです。

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ですので、死後ではなく生前を扱い、これからこの世に生まれてくる生命に対して「祝」を行いたい。そして「安産」というひとつの祈願を選択しました。安産と書かれた半紙は布団に見立てられた座布団の上に並べられています。鏡を挟みこむように6枚つづの座布団が敷かれ、それが部屋の中心を挟んで、鏡像の関係にあり、計24の座布団が並んでいます。6という数字は六道輪廻の六を表しており、仏教において衆生がその業の結果として輪廻転生する6種の世界のことをさします。

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釈迦は摩耶夫人の右脇から生まれたとされていますが、生後その直後に七歩歩いて右手で天を指し、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と言葉を残したと言われています。この7歩という数字が非常に重要なものであり、7は6の次の数字です。つまり、6の向こう側の世界が釈迦の世界であり、6以前は人間の世界であると私は解釈をしました。

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この6という数字に意味を感じ、6枚と6枚の座布団によって鏡を挟み込み、鏡はその向こう側の世界を表しています。部屋をまたぐとこの6枚と6枚の座布団の構造が鏡構造になっており、座布団の上に置かれた安産という書は全て、ひっくり返っています。これは、最初にあげた「反転」というテーマによるものです。鏡の上には2種類の果物が乗っています。鑑賞者が先に入る部屋の鏡の上には柘榴(ざくろ)が置かれており、鑑賞者が部屋をまたぐことで入るもう一つの部屋の鏡の上には林檎が置かれています。

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柘榴は古来より「豊穣、繫栄、子宝」といった意味を込められこれまで様々な絵画にその象徴として描かれて来ました。これは人間の繁栄や安産を祝うものとして第一の部屋に置かれています。林檎は禁断の果実としての意味が有名ですが、まさにその意味でも用いています。また、柘榴は女性器、林檎は男性器のメタファーとして用いられることが多くあります。鏡像関係にある二部屋をまたぐようにこれらの二つの果実を配置することで、生命の誕生、ひいては「生まれてくるとは何か」という問いを提示しています。


いただいたサポートは、これまでためらっていた写真のプリントなど、制作の補助に使わせていただきます。本当に感謝しています。