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読書メモ【1984年】20230730

ジョージ・オーウェルが1949年に発表したディストピアSF小説。
世界的に評価が高く、ストーリーとしては、全体主義を掲げる政府のもとを生きる主人公の恋とその顛末を描いた小説となります。

正直読むのをためらっていたSF小説でした。
SF小説好き(ガチ勢の方、見逃してください)としてはその知名度や評価の高さ、そして後世の作品への影響力などの側面から読んでおきたい一冊でありつつ、でも正直名作のSF小説って思想強めで一般人的にはストーリー展開に面白味を感じにくいところあるよなあ……と。

そして、今回読了した感想としては警戒していた通り、思想激強でしたね。
しかしこの本が発表された当時の時代背景や、この本を通じてオーウェルが伝えたかったこと、また隠された最後の仕掛けなどを知り、読んでよかったと思える読書体験となりました。


小説が刊行された際の時代背景

共産主義国家の脅威

まずこの本が発表された1949年の時代背景からご説明します。
この当時、第二次世界大戦の終結後西側諸国の中では国内外での共産主義に対する警戒心が非常に高まっていたそうです。
関連する出来事を並べると、
・中華人民共和国の成立
・NATOの成立
・ソ連による核実験の成功
などと各国家間が現代にもまして緊張状態にあったことが伺えます。

特にアメリカをはじめとする西側諸国では「赤狩り」という、共産主義的な思想を持っている人々を様々な職業から追放し、国内における共産主義の影響力をそぐような運動さえ公的に推進されていたほどでした。

このような時代背景から、全体主義政党が一手に国内を支配するディストピアを舞台とした「1984年」が発表され、そして高い評価を得ていくこととなります。そりゃ思想強くなりますよね。
もちろんオーウェルがどこまで社会情勢を念頭に置いていたのかは私には追いきれませんでしたし、単純に共産主義を危険視・排除するだけの意図で書かれていただけとは思いませんが、ある程度の作中への背景投影はあったものではないかと推測しています。

イギリス政府への危機感

また、巻末に記載されているトマス・ピンチョンの解説によると1984年は必ずしもそうした国外の環境を念頭に置いたものではなく、当時のイギリスにおいてその影響力を強めていた英国労働党‐労働者のためを謳い活動しながら実態は自らの権力拡大に腐心していたようにオーウェルからは見えていた‐に対する批判としての側面もあったようです。
特に戦後イギリスでは英国労働党が選挙にて政権の座を得ることになりますが、戦時下にて圧倒的な影響力を持っていて、戦争のためとはいえ国民の権利の制限を強力に実行していた保守主義政府に追従していた英国労働党が本当に国民のための政策を実行できるのか?自らの権力維持が第一目的にはなってしまわないか?と。

実際その後のイギリス社会を見ていくとオーウェルの憂慮は現実のものとなり、その官僚主義や金権主義は彼を絶望させることになります。
そうした状況下で権力の維持そのものを目的とする政府による統治の絶望と国民への注意喚起を図ったことがこの小説の骨子になるようです。

キーポイント

ストーリー展開としては、党の指導内容に疑問を持ちながらも、「真理省記録局」に勤め、党にとって都合が悪い/公式発表と相反する記録を日々改ざんしていく業務にあたっている主人公があるきっかけをもとに、党の指導内容に反するような行動をとっていき……
と現代の日本や民主主義国家で暮らすおおよその私たちが持っているであろう個人主義的な思想と全体主義的思想が衝突していく様子を描いています。

”二重思考”

作品内で特に印象に残っているのが、ビッグ・ブラザー率いる全体主義政党が掲げるスローガン
戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり

でした。

普通に読むとめっちゃ矛盾してるし意味わからんってなりますよね。
この現代日本で暮らす大体の人間が理解できないであろうスローガンを理解するために必要な心構えが、作中にて重要な思想として登場する”二重思考(doublethink)”であり、この”二重思考”こそビッグ・ブラザー率いる党が作中の人々を支配するにあたってのキーポイントとなります。

では”二重思考”とは何か?をご説明すると、『矛盾する二つの事柄を同等に等しく信じられるようになる。』(作中p488,トマス・ピンチョンの解説より引用)ことを目標とした思考方法です。
こちらは「認知的不協和」といわれるもので社会心理学の中では古くから使われてきた実際に存在する概念であるようです。

実際にそんな思考をするか?と私も読んでいる際には思いましたが、よくよく考えてみれば法の支配を標榜する日本において行われる裁判が、実際はより資産が多い人間や組織が優位に立てる仕組み(優秀な弁護士を選任し、長期間の訴訟に耐えうる)であることや、強力なサービスを持つ一部の企業が私たちの個人情報を一手に握り、ほぼ生殺与奪の権すら持っているような状況にあまり危機感や違和感を持っていないなと思い返すところはありました。(というこの文章すらMicrosoftのsurfaceを使い、Googleアカウントとの紐付きで投稿してます……(笑))

最後の仕掛け

徹頭徹尾絶望的に思える「1984年」ですが、実はただただ救いがないわけではないようです。
もし「1984年」をお手に取られた方がいらっしゃいましたら、本編だけでなくどうか巻末の附録と解説まで確認してみて下さい。
私は本編だけではどうしても辛かったのですが、附録を解説を読みハッと少し救われる気持ちで読了することができました。

まとめ

「1984年」が出版された時代から社会情勢は大きく変わりましたが、生成AIの登場など私たちの生活が変容するスピードは格段に早くなっているように思えます。
処世術としての二重思考は現代では必要悪として存在しうると特に考えていますが、少なくともその思考に自覚的でありたいと思いますし、改めて日々の生活を注意深く点検していく必要がある。と特にこの本を通じ痛感しました。

以上「1984年」を読む際の参考や骨子のみ知りたい方への参考となれば幸いです。お読み頂きありがとうございます。



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