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画家の名前、どこまで載せるか問題

いよいよ来月に発売を控えました『小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画』。担当編集いそ貝が、編集作業を振り返りながら、本書のポイントを紹介していきます。
前回の「絵画の作品データ、どう載せるか問題」に引き続き「画家の名前、どこまで載せるか問題」という地味なネタではございますが、これこそが「NEOアート」の特徴だったりしますので、最後までどうぞお付き合いください!

ピカソの本名、ご存知ですか?

20世紀最大の芸術家ピカソの本名は、とても長いことで知られています。
「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」というそうです。長いですね~。
美術の本や展覧会のキャプションに載っているのは、本名をぐっと短くした「パブロ・ピカソ」。「パブロ」がファーストネーム(名)で、「ピカソ」がファミリーネーム(姓)です。
でも、私たちが圧倒的に耳にもするし口にもするのは「ピカソ」というファミリーネームの部分だけ。
さて、「NEOアート」ではどこまで載せるべきでしょうか?
結論は割と早く出ました。

「ファミリーネームだけを載せる。」

なぜならば、この本において画家の名前や絵のタイトルは重要ではないからです。
前回の投稿で作品データ調査の苦労話を長々と語っておきながら重要ではないとはどういうことなのか。本書の巻頭口絵1ページ目で説明しています。

この図鑑は、絵の鑑賞を通じて、絵について学ぶための図鑑です。
自分自 身の目で絵を見るという経験をするために、できるだけ多くの絵を、できるだけ大きなサイズの図版でのせています。
絵を描いた人の名前や絵の題名を気にせずに絵を見ることができるように、名前や題名はわざと小さくのせています。
この図鑑で絵を見ることのすばらしさを味わってください!

「小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画」巻頭口絵より

展覧会などでつい先にキャプションに目が行ってしまう経験、ありませんか?でも、絵画を前にして、作品データよりも何よりも、まずは自分の目でしっかりと見ることが大切なんです。子どもはそれが大人よりも当たり前にできるはず。だからこそ、「はじめての絵画」と題したこの本では画家の名前も必要最低限の情報で十分である、と考えました。

画家の本名は巻末資料へ

とは言っても、この本で絵画に興味を持ってくれた読者に向けて、もう少し詳しいデータをまとめておくべきではないだろうかーーそう考えた結果、巻末資料として画家の生没年や出生国、ファーストネームやファミリーネームを含む名前をリストにして載せることにしました。この本で興味を持ってくれた読者がさらにくわしい情報を求めてインターネットや本で調べたりしたときに、よく使われている名前表記を載せておきたいと思ったのも理由のひとつです。
さぁ、ここからが「画家の名前どこまで載せるか問題」の始まりです!

ピカソの場合

ピカソの本名は前述の通りですが、一般向け美術書や展覧会などで用いられているパブロ・ピカソと掲載することにしました。

フラ・アンジェリコの場合

15世紀イタリアの画家フラ・アンジェリコはじつは本名ではなくニックネーム。天使のような修道士、という意味なのだそうです。本名のグイード・ディ・ピエトロを掲載することに。

カラヴァッジョの場合

16~17世紀の画家カラヴァッジョも、本名ではなくニックネーム。本名はミケランジェロ・メリージ。でも、幼少期を過ごした「カラヴァッジョ村出身の」という言葉がくっついて、ミケランジェロ・メリージ・ディ・カラヴァッジョと呼ばれるように。
厳密に言えば「ディ・カラヴァッジョ」の部分は名前ではないのですが、通例に従い、そのまま掲載。

レオナルド・ダ・ヴィンチの場合

レオナルド・ダ・ヴィンチの場合はちょっと特殊。図版ページの作品データも巻末資料もレオナルド・ダ・ヴィンチと載せました。「ダ・ヴィンチ」も、カラヴァッジョと同じように「ヴィンチ村出身の」という意味。しかしながら、カラヴァッジョに比べて「ダ・ヴィンチ」と呼ぶのは一般的ではないし、かと言って「レオナルド」と呼ぶと誰のことかいまいちピンとこない・・ということで、レオナルド・ダ・ヴィンチはずっとレオナルド・ダ・ヴィンチで通すことにしました。

ロートレックの場合

19世紀末のパリの華やかな世界を書いた画家ロートレック。フルネームはアンリ・マリー・レイモン・ド・トゥールーズ=ロートレック=モンファ。長い上にダブルハイフンという記号(=)も含まれています。この本を読む子どもたちにとって、どこまでが必要な情報であるか編集部で話し合い、まずは「=」はすべて「・」に置き換えることに決定。そして、ロートレックの作品図版をお借りした美術館で用いられている表記にあわせて、アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックとすることにしました。

ここまで読んでいただいてわかる通り、全員に適用できるルールというものはなく、どれもケースバイケース。この本に載っている画家120人以上の名前をひとりずつ調べて、どう載せるかを検討することになりました。
さらに出生国は、今はもうない国もあるため、世界地図で探して現在の国名を確認。
フランドルという中世に反映した地域出身の画家ヤン・ファン・エイクだけは、生まれた都市が断定できず「ベルギーまたはオランダ」という表記になりました。

リスト、完成!

図版を大きく、データは小さく

「作品データ、どう載せるか問題」「画家の名前、どこまで載せるか問題」を通して、本書の特徴がはっきりと浮かび上がってきました。
図版をなるべく大きく載せて、データは小さく載せる。
小さく載せる=重要視していない、ということではありません。だってここまで時間をかけてじっくりと調べているんです!

図版を大きく、データは小さく

ちなみにこの画家リストの編集作業は、専任の編集スタッフが時間をかけて作成しました。誌面の編集作業とは別進行です。
本書はこうした専任の編集スタッフに支えられながら作られています。編集スタッフについても、本書では面白い試みを行っていますので、それもまた改めて紹介させてください!

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絵画にはじめて触れる子どもたちに向けて、絵の見方をわかりやすく、楽しくひもときます。
◆定価2970円(税込)
◆発売日2023.02.06
◆判型/頁 A4変型判/280頁
予約はこちら https://www.shogakukan.co.jp/books/09217266


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