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いつものカフェ

#10分間の恋愛小説 とは、大体10分以内で読める恋愛小説です。
こちらのツイートが元ネタとなっています。

朝晩の通勤のお供に、寝る前の読書に、ちょっと暇だなぁと思った時に気軽に読める小説です。今回のお話は「カフェで始まる恋の話」です。ぜひ読んでみてください。

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自宅から電車で30分、東京駅のほど近くのビルに私が勤めるオフィスがある。30回を超える高層ビルはちょっとした食事ができたり、手土産が帰るような商業ビルと併設されている。その商業ビルの一角に私のお気に入りのカフェがあるのだ。東京駅のレトロな駅舎と忙しそうに歩く人々を窓の向こうに眺めながら、私はここで朝ごはんを食べ、出社前のメールチェックを済ませる。一通り返信を打ったらそろそろあの人がやってくる時間だ。入口の方に顔を向ければ丁度あの人が到着したタイミングだった。いつも通りホットのブラックコーヒーを片手にさっそうと歩いてくる。

「おはようございます。」
「おはようございます。」

隣の席に置いておいたカバンをどけるとカウンターの隣の席に彼が座る。グレーのスーツにブルーのシャツがとてもさわやかだ。彼はいつも通り分厚い参考書を取り出して、挨拶もそこそこにお互いまた作業に戻る。こうして隣に座って話すようになったのは実は最近のこと。でも知り合った、知り合ったというより一方的に知っていたのはこのカフェに通い始めたころだった。

最初の一週間は何とも思わなかったけれど、時間が経てば同じ時間に訪れる人の顔も覚えるようになってくる。初めのうち彼のことは同い年ぐらいでいつもなんだか熱心に勉強している人がいるなあと思うくらいぼんやりした印象だった。そんな彼が群衆の中の一人から良く話す名前は知らない顔見知りになったのは、綺麗な模様が彫られたシルバーのボールペンを拾ったことがきっかけだった。

コロコロと足元に転がってきたそれを拾うと困ったように辺りを見渡す彼が目に入った。参考書やノートをパタパタとひっくり返しては、狭いカウンター席で隣の人にぶつからないようにきょろきょろと椅子の下をのぞいていた。

「もしかしてこれ、探してますか?」
「そうです!ありがとうございます!」

パッと顔を輝かせて彼が笑った。思わず心にキューピットの矢が刺さるくらいいい笑顔だ。いや、落ち着け私。

「就職祝いに両親からもらったんです。なくしたらどうしようかと思いました。」

もう一度爽やかにお礼を言って彼は勉強の世界へと戻って行った。次に話したのは珍しくカフェが混んでてほとんど席が埋まっていた日。私を見付けた彼が、もしよかったらとカバンを置いていた席を譲ってくれた。何度かそういう日があって、なんとなくお互いがお互いの為に席を取り合う不思議な関係になった。別に何か話をするわけでもなく、淡々とお互いに作業するだけ。それでもなんとなく居心地がよかった。

お気に入りのカフェで朝ごはんを食べ、出社前のメールチェックと業務チェックをこなし、彼が来たらおはようございますと挨拶して、出社間際には会釈して別れる。これが最近の朝のルーティーンだ。今日もいつも通り会釈して私はオフィスへと向かった。

外回りが多い部署ではなく、どちらかというとパソコンに向かって作業することが多い仕事だ。毎日たまる書類の山を半分まで減らしたところでお昼休みだ。ぐぐーっと背中や腕を伸ばして、同僚にお昼行ってきますと声をかける。気分的には背中伸ばしたいくらいだけどオフィスだしやめておこう。お財布と携帯を片手にエレベーターに乗り込む。珍しく一つ下の階にエレベーターが止まると見知った顔が乗り込んできた。カフェの彼だ。

「あっ、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。同じビルだったんですね。」
「しかもフロア一つ違いです。今まで全然会いませんでしたよね。これからどこか行かれるんですか?」
「これから得意先に営業に行ってきます。お昼ですか?」
「そうです。外回り頑張ってきてくださいね。」
「ありがとうございます。」

ポーンと音を立ててエレベーターが1階に到着する。

「それじゃーー」
「あの!」
「ヒャいっ」

変な声出してしまった恥ずかしい…。

「驚かせちゃってすいません。あの…もしよかったら、今晩仕事終わったあと食事にでも行きませんか?近くの美味しいワインがある店知ってるんですけど。」
「あ、いいですね。ワイン好きです。行きます行きます。」
「よかった、じゃあいつものカフェに7時でいいですか?」
「はーい、大丈夫です。頑張って仕事早く終わらせます。」

ボールペンを拾ったときのような明るい笑顔で、彼はまたあとでと告げて軽快に営業へと旅立っていった。

コンビニで買ったカップスープにお湯を注ぎながらはたと気がつく。さっき気軽にOKしちゃったけど、あれってデートのお誘いだったのでは?名前も連絡先も知らないけど、え、私大丈夫?ノリ軽すぎない?いやでもデートとか思って意識してるの私だけだったりしない?それはそれで恥ずかしいやつじゃん…。どっちなんだ?これはどういうことなんだ?
久しくレンアイなんてしていなかったから急な展開に頭が付いてかない。それでもあの笑顔がもう一度見れるなら、ディナーに行くのも悪くないかなと思うのだ。カバンの中に口紅入ってたかしらなんてぼんやり考えながらオフィスへと戻った。

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