見出し画像

推しと仲間と英雄を同時に失った話(ある方の急逝に寄せて)

初めまして。ちからと申します。歌声合成ソフトにアカペラ合唱を歌わせてるものです。

Twitterでフォローいただいてる方はご存知かと思いますが、先日大変ショックな出来事があり、自分の感情の整理と意思表明のために、本記事を起こします。ずいぶん時間がかかってしまいましたが。

私は先日、推しの作家様と、大切な創作仲間と、私の人生を変えてくれた英雄を同時に失いました。

みとう。さんといいます。
以下、「みとう。さん」とか「先生」と呼びます。

※本稿は、ご遺族の許可を得て投稿しております。


みとう。さんってすごいんですよ

みとう。さんはアニメーション作家であり、イラストレーターで、ボカロ曲のMV制作に多数携わってこられました。

ご生前のMV代表作はどれかと聞かれたら、↑か、

↑かなあと思います。何度観てもすさまじい熱量。

ご覧いただけばわかると思うのですが、作風を説明するのがとても難しいです。可愛いとよく言われますが、端々に凄まじい陰の暗さがあり、デフォルメしまくってるかと思えば重苦しい描き込みや生々しい動きを見せつけてきます。

先生と私の共作歴

私はみとう。さんと、生前、リメイクを含めると七作の動画でコラボしています。

【NEUTRINO】『地図がない』【オリジナル】【アカペラ】

【アニメMV】『象少年』ちから feat. No.7、東北きりたん・ずん子・イタコ、めろう、ナクモ(NEUTRINO)、波音リツ(VOICEVOX)【アカペラ】

【四国めたん(NEUTRINO)】『地図がない』ちから feat. Vocal Group "NEUTRINO"

【ずんだもん生誕祭2022】『かりうどのうた』Live Session by Vocal Group "NEUTRINO"

『聖夜じゃない』ちから feat. Vocal Group "NEUTRINO" & 青山龍星 from VOICEVOX

『優しい嘘をついてあげる』知声、めろう、ナクモ

『日の終わり』ちから feat. 重音テト(SynthesizerV)ナクモ(NEUTRINO)

全部に思い出があるので、語りたいのですがまたの機会にしようと思います。

イラスト・ループアニメを作成いただいたのが4つ、フルアニメでMVを作成いただいたのが3つになります。

もともと、私のオリジナル曲やカバー作品をみとう。さんが見てくれたことをきっかけに相互フォローになり、ボカコレ用MVのループアニメ制作を私から依頼したことから、共作するようになりました。

どの作品も真摯に制作いただいていましたが、特にフルアニメーション3作品はそれぞれに特色があり、細部までこだわりを詰め込んで作ってくださいました。
私の作りたい世界観をきちんと汲み取ってくださった上で、それをみとう。さんフィルターを通して濃縮し、毒と耽美と優しさ、可愛さに満ちた、独自の作品に仕上がったと思います。

「先生」


私自身、みとう。さんと共作する過程で、自分の創作イメージや手法が広がっていくのを感じました。みとう。さんは、私からすると、いちファンとしても、クライアントとしても、創作仲間としても「先生」でした。私は先生にお金を払って依頼する立場でしたが、勉強させてもらう、あるいは一緒に創作で遊んでもらうような感覚で共作していました。

ボーマスなどのイベントに伺い(私も同人誌に寄稿させてもらいました)、個展にも伺って、先生の創作への熱意に何度も触れました。先生は私より遥かに年下でしたが、刺激を何度ももらい、尊敬の念を持つようになりました。

先生にもっと本気をぶつけたい。
先生の本気を引き出したい。
特に去年の秋以降は、そんなふうに思いながら制作をすることが多くなりました。もっとあり体に言うと、みとう。さんの協力を前提に作品を創るようになりました。

先生が心の病に苦しんでおられたことは知っており、そのことも上記の傾向に拍車をかけました。私はメッセージを重視して曲を書く人間です。気休めに縋るのは嫌いですが、それでも人間の、尊さや強さを、それらへのなけなしの救いを、信じていたい人間です。
私はいつしか、歌を通じて心を癒したい、その手を取りたいと思う人々の最前列に、先生を据えるようになっていました。

今から思えば、私は何様のつもりだったんでしょう。

今年の春先、先生はフルアニメーションMVの受注をやめてしまいました。私はボカコレ夏に向けて先生にアニメMVを頼もうと思っていたので、正直困ってしまいましたが、曲を変えてイラストの発注をしようと目論み、曲の検討を始めました。

そしてその曲の構想が煮詰まり、先生に連絡を取ろうとしていた矢先、先生が亡くなりました。

ご連絡に接して

ご家族から訃報が公表される数日前の時点で、私は既に先生が亡くなられていたことを知っていました。
先生の消息について、FFの方数名と情報収集していた最中に知ることとなりました。

深夜に連絡に気づいて眠れなくなり、思い起こしたのは以下の一節でした。

お別れを言いに

ご遺族にご相談し、先生とお別れをしないといけないとすぐに思いました。
数日のうちに先生の訃報は公表される。多くの人がどこか現実味をなくしたまま先生の死を悼み、よくわからないまま憶測を交わし、やがて先生の存在を忘れていくだろう。それは耐え難いことだと思いました。
誰か一人でも、創作者やファンとして関わったものが、先生の死を現実として全身で受け止めなければならない。私にはその責任がある。傲慢にもそう思いました。

ご遺族にお願いをし、お別れに伺いました(冷静に考えると、全く見ず知らずの私をよく受け入れてくださったなと思います。ありがとうございました)。
途中で買った供花は、道すがらでどんどん重くなるように感じました。これを手向けたら、いよいよ全てを受け入れざるを得なくなる。決めたはずの覚悟が何度も揺らぎました。

お家にお邪魔して遺影の前に座り、真っ先に思ったのは、「こんな人だったのか」ということでした。
私は、先生とは何度かお会いしていましたが、実際に対面でお話しした時間は、たぶん合計でも30分くらいだと思います。しかもお互いずっとマスクをしていたので。先生も、私がどんな人間だったかは覚えてらっしゃらなかったと思います。お互い人の顔を覚えるのが苦手だったので、会うたびにちゃんと名乗っていました。

ご家族には、先生の偉大さを私目線でひたすらお伝えしました。供花もお受け取りいただき、またありがたい言葉をたくさんいただきました。

ですが。
私はどうすればよかったんだろう。帰り道、逆方向の電車に乗ったことにすら気づかないまま、そんなことをずっと考えていました。当然結論は出ませんでした。
ただ、みとう。さんにたくさん成長させてもらったのに、実績もチャンスも何も返せなかった。死を止める以前にその生死に、苦しみに関わることもできなかった。私が歌で苦しみを癒し、助け合いたいと思っていた人々の、その最前列にいた人すら救えなかった。私はあの人のことを、当然ながら何もわかっていなかった、という事実だけが残りました。
もう夜が迫っていました。真っ暗な重たい幕を引きずって、どうにか家に帰りました。

帰りがけに、歌を書きました。詩は、先生の訃報に接してから書き始め、すでに出来上がっていました。Piaproに上がっていた先生の作品をお借りして(テーマもタイトルも借りて)、MVを作りました。

変わらない feat. 東北きりたん・ナクモ

間の悪いことに、私はそこそこ長くメンタルの不調で苦しんでおり、先生が亡くなった時期は仕事や家事の環境変化でもともと弱っていたところでした。予期せぬ訃報に追い討ちを喰らい、常に不安に苛まれ、寝ても深夜に瞼がばね仕掛けみたいに開いて眠れなくなる日が続きました。
本当に、何のために生きているのかわからなくなりました。
私が最も私らしくいられる創作の時間の中で、面白いネタが浮かんだ時に真っ先に相談したい相手がもういない、作った曲を聴いて一番に感想をくれたり好きになってくれる人がいない、という変えられない事実が夜を無限に長くしました。この現実とかいう狭い部屋の壁に、共に穴を穿ってくれる、大切な仲間はもういないのでした。

決意

全てを投げ出して逃げたい。消えてなくなりたい。
何度もそう思いましたが、同時にどうしても諦めきれないという想いも強くありました。

作家としての先生を、もっと世間に知らしめたい。その死を拒絶するーーというと大袈裟ですが、終わりにしない、という抵抗を試みたくなったのです。つまり、共作を続けるということです。

そこにはジレンマもあります。到底正当化できない、でも私は確かに憧れていた先生の生き方と死に方を、希望を歌う私は否定しなければならず、他者を肯定する私は受け入れなければいけません。もうこの世にいない先生と作品を創るなら、必ずそこで自己矛盾に陥ります。
ただ私は、歌は確定的にフィクションである(だからこそ強い)と思っているので、その矛盾を併存しうる地点はどこかにあるはずだと信じました。

そして歌を、先生にMVイラストをお願いしようと思っていた歌を、またPiaproからイラストをお借りして、完成させることにしました。

それはもともと、真っ新な希望の歌でした。
そこに、もういない人に手向ける言葉を加えて再構成し、完成させようと思ったのです。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm42543560

8/5 0:00、その歌『新生』を公開します。
私の試みが成功したかは、聴いて下さった方の判断に委ねようと思います。

それが成功しようとしまいと、所詮は私のエゴですが。うまくいかなければ、またきっと同じように私は創るのだと思います。

終わりに


みとう。さん。
あなたがいた、はるかに遠く暗い場所に辿り着くまで、私は生きて戦わなければいけないと思います。
そして、みんなや私が、あなたのようにまた全部間違える日のために、歌を創ります。
私が押し付けた約束をあなたは守らなかったけど、私は約束してしまったから。

きっともう、あなたのような人には二度と会えないでしょう。
さようなら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?