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移ろい菊。白菊から赤紫へ

母が庭に植えてくれた白い小菊が、今年はたくさん花を咲かせてくれました。

見慣れているはずの花ですが、庭に咲く花を毎日眺めているうちに、花の色がだんだん変わっていくことに気づきました。

赤紫に変わっていく花の色。
花びらの裏のほうが、色が濃い。

みんな、菊の花の色が変わることを知っているのかな、と思い、まず母に聞いてみたところ、
「赤くなるよねー」
と、あっさりした答えでした。
菊を育てている人にとっては、当たり前のことなのかもしれません。

続いて、白い菊が花盛りのときに庭の写真を撮っていた娘に聞くと、
「えー!あの時の白い菊?」
と少なからず驚いた様子でした。

色が変わるのは白い菊だけなのかと気になり、黄色い菊も見てみました。

うっすらと赤みを帯びている花を発見。

白菊ほど鮮やかな発色ではありませんでしたが、なんとも控えめで可愛らしい花色でした。


菊についてあれこれ調べているうちに、「移ろい菊」という風雅な言葉に行きあたりました。

白菊や黄菊が急な寒さにあうと、霜焼けのような現象を起こして紫色に変色する。平安人たちは、これを「移ろい菊」と表現して大いに賞美した。

出典:八條忠基(2020)『有職の色彩図鑑 由来からまなぶ日本の伝統色』淡交社

原産地中国でも、菊は君子と呼ばれるほど愛された花だそうですが、日本でも、桜と並び称されるほど人々の生活に溶け込んだ、身近な存在だったようです。

観賞用として古くから栽培され、サクラとともに日本の代表的な植物。原産地は中国とされる。おきなぐさ。隠君子。

出典:芳賀靖彦(2009)『学研 現代新国語辞典 改訂第四版』学研教育出版

季語
俳句に使われる季語にも、菊に関係するものがありました。
菊の花そのものではなく、時の流れが感じられる季語をいくつか選んでみました。

  • 菊根分(春)

  • 菊日和(夏)

  • 残菊(秋)

  • 十日の菊(秋)

  • 枯菊(冬)

重ね色目(かさねいろめ)
昔の装束に用いられた色の組み合わせをさす言葉です。
昔、学校で配られた国語便覧に載っていたことを思い出し、あらためて調べたところ、十二単のような重ね着の色の組み合わせだけでなく、織物の透ける特性を活かし、表地と裏地の色の重なりを楽しむ、織物に異なる色の縦糸と横糸を使う、といったことも行われていたそうです。

菊が含まれる重ね色目

  • 菊・白菊

  • 蘇芳菊

  • 紅菊

  • 黄菊

  • 移菊(うつろいぎく)

  • 莟菊(つぼみぎく)

  • 残菊(のこりぎく)

  • 花菊

  • 葉菊

うつろい菊、ありますね。
ちなみに重ね色目の移菊(うつろいぎく)は、寒さにあい、紫に変わった花の色と、葉の緑色を表現したものでした。
盛りを過ぎた、儚さを感じさせる色合いを想像していたのですが、濃紫と緑、補色のコントラストが強く、ちょっと意外でした。

花の盛りだけでなく、移ろうさまをも愛でるところが、日本人らしいと思いつつ、案外ワビサビに終始しない世界観を、昔の日本人は持っていたのかもしれません。
我々より、はるかに豊かで鮮やかな世界を見ていたのかも、と少しうらやましく思っています。

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