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小タイムスリップ

街には匂いがある。

渋谷がくさくて嫌いだとか、そういう話だけじゃなく、これまで住んできた街にもそれぞれの匂いがあった。それは、鉄道に紐づくものかもしれないし、駅前のラーメン屋さんから香る豚骨や鶏ガラの匂いかもしれない。

仕事でふと調布に行く機会があり、そんなことを思った。到着する電車で舞う風の匂いに、いきものがかりの「ありがとう」が流れる発着メロディに(主題歌となった『ゲゲゲの女房』の舞台のひとつが調布市にある深大寺あたりだ)、なつかしさがあふれ出す。匂いをトリガーにいろんな要素が自分の中に入ってくるのを感じる。

調布には、6年前から約1年半仕事の都合で住んでいた。これまで住んできた街の中で最も短い期間だが、映画館から電器屋、市役所まで揃い、基本的にすべて駅前で完結するコンパクトさが気に入っていて、今でももう一度住みたい。

何より職場にいたバイトの子たちとは、何度も飲みに行ったし、家に呼んだこともあった。僕の異動で調布から離れ、一緒に働くことこそなくなったが、いまだに飲みに行く仲だ。当時こそバイトとバイト先の社員さんという関係だったが、もう立派な友達だ。

街以上に人を気に入ったからこそ、より思い出深く刻まれているのかもしれない。

懐かしくなり、2019年夏ごろの業務で使っていたLINEを見返す。そこには、今の自分からは想像もできないほど仕事に燃える僕がいた。昼夜問わず発信し、周りを鼓舞する。23歳だった僕も青かったが、もっと青くそれに応えてくれる仲間がいたからできたことだろうし、火がつかないやつがいるならつけてやろうぐらいの気概があった。

いつからこんなに僕はひねくれてしまったんだろう。でもきっと、さすがにエンジンをふかしっぱなしでは自分がもたないこと、世の中結果が出ることばかりではないこと、そんなことを学ぶうちにエンジンのふかし方から忘れてしまった気もする。どこかで「学習性無力感」という言葉を見たとき、納得してしまった自分がその答えを知っているかもしれない。

そんなふうにひねくれにもう一段上のひねくれをもって構えていた僕も、最近は心のバランスが整ってきた。一時期は仕事終わりに音楽しか聞けない時期があった。YouTubeやラジオだと情報が多すぎてついていけなかった。

本当に今は全部全部時間が足りない。聞いていないラジオ、見ていないドラマ、読んでない本、聴き込みたいアルバム、話したい人、書きたい思い出、どんどん溜まっていく。

そんな中一番時間を割いて聞いているバンドの新譜が出たばかりなのでぜひ聞いてね。やるせなさと多幸感が同居しているいいアルバムです。

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