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Chara「命のまつり」その25~精神科病院で働き始める

20代の後半から精神科病院で働き始めた。
開放病棟、慢性期開放病棟、急性期の閉鎖病棟の順で色んな患者さん、医師、看護師、専門職の人と出会い育ててもらった。
ここでの経験は、対人援助職である今の私に大きな影響を与えた。

目の前の人にどう向き合うか、看護師としての在り方

だまって傍にいることの力

援助者として人の害にならないとはどういうことか

人としての存在の意味

病気をかかえながら生きること

治療と癒し、症状は治まっても癒されない痛みを抱えている人がいること

精神科看護とは何か・・・・・

つい先日、亡くなられた精神科医の中井久夫先生の本の言葉から、今目の前の患者さんにとって、何が看護になるのか、何ができるのか・・・・自問した。 外科や内科、整形でするような手術や検査、処置があるわけじゃない。抗精神薬や抗うつ剤、睡眠薬を与薬する内服治療が中心だった。


看護という職業は、医者よりもはるかに古く、はるかにしっかりとした基盤の上に立っている。医者が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。息を引き取るまで、看護だけはできるのだ

看護のための精神医学』(医学書院)中井久夫 著

病院内の勉強会で紹介された中井先生の本を何冊か読みながら働くうちに、自分の在り方や振る舞いや、声のトーンや、薬を渡す時の手つきや言葉がけ、そばにいる自分の雰囲気が、看護になったりならなかったりする。
そんなことに少しずつ気づいていった。
先輩看護師と同じような言葉を新人の私が言ったとしても患者さんに届く言葉のメッセージやエネルギーは違うし、そもそも受け取ってもらえないことすらあった。


始めて配属された病棟は、男女混合の開放病棟だった。
鍵はかかってなくて、外出も自由、入院は任意入院と言われるもの
統合失調症、うつ病、躁うつ病、アルコール依存症、摂食障害、認知症、神経症など色んな病気の人がいた。

不安と少しの期待を感じながら階段を上り病棟に入った
ホールと呼ばれる広い空間に出る
すぐにたばこの臭いが充満し、壁がたばこのヤニで薄茶色になり窓ガラスにもやがかかっているのが見える。

男性の患者さんが人なっこい雰囲気で声をかけてくる。
たばこを指に挟んでいる、指先や爪はたばこのヤニで茶色く変色している。
呂律が回らずなんて言っているのか1回では聞き取れなかった。
抗精神薬を長期に内服している副作用で呂律が悪くなっていたのだ。
どうやら、新人の私に興味を持って声をかけてくれていたのだ。
名前を伝え、挨拶をした。

その日は、病棟に入院している50人の患者さん一人一人に挨拶をしてまわった。大半の人とは会話を交わすことができたが、中には視線を合わせることもなく、まったく反応してくれない人、急に私には理解できない内容の話を喋り続ける人や、無言で離れていく人もいた。

初日の8時間は妙に長い長い1日だった。
つづく・・・・



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