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抜けた先駆者 〜新型プリウス賛江〜

スニークプレビューの画像を見た時から「これは!」と思っていた新型プリウスのデザインは街で溢れはじめてからもその輝きをまるで鈍らせることなく僕の視線は自然と奪われてしまう。

フロント、サイド、リア、それぞれ斜めから、どこから見ても唸らせるデザインだ。

これは「あの大トヨタにしてはよくやったじゃん」と言うレベルではなく、現在世界中で市販されている量販車の中でもトップクラスに良いという意味の感心だ。

パッケージングやディテール的な解説には文字数が足りないので、それは他に書くことにするが、プリウスのデザインに街中でハッとさせられるのはそう言う数値的理論的な部分ではない感性に訴えてくるエモーショナルな何かを備えているからだと思っている。

デザイナーやアーティストはシドミードというイラストレーターの名前を一度は聞いたことがあると思う。

中にはシドミードマニアと言っても良いオタクも存在する伝説のイラストレーターだ。

シドミードはプレミアム層やサイエンスフィクションの未来像を表現させたら右に出る者はいないと言われた作家だ。

油彩やガッシュを使いある時はスピーディーで躍動感のある、またある作品ではしっとりとしたラグジュアリーな大人の世界を軽々と表現している。

スターウォーズのメカニックデザイナーのラルフマッカリーにも多大な影響を与えたし、ブレードランナーに至ってはシドミード本人がコスチューム以外のデザインをほとんど一人でやってしまったという逸話がある。

シドミードは実際にプロダクトデザイナーとしても活躍した経験もあり、彼の描いた世界は実現可能だろうなと言うプロダクトデザインに於けるレンダリング的な実体感も備えている。

そして何より特筆すべきは彼がイラストの中に登場させる架空のガジェットデザインの気持ち良さなのだ。

彼の描くクルマ、バイク、重機、銃器、家電製品、宇宙服、他未来のガジェットたちはすべて彼一流の美学とセンスで貫かれていて、一切のスキが無い。

スキが無いからと言って息苦しさを感じるものでもなく、そこはかとない豊かさや優雅さを体現している。

もうべた褒めである。

もちろん僕もシドミードの大ファンである。

シドミードのおかげでデザイナーになったと言っても言い過ぎではないし、シドミードは僕たちの世代のデザイナーにはそうした明るい影を落としたイラストレーターであることは間違いない。

新型プリウスのデザインに戻る。

新型プリウスはどこから見ても、シドミードのイラスト世界に登場しても一切破綻なく違和感なく存在できるデザインだと思っている。

特にリアビュー。僕のクルマ好きの友人からはあまり評判の良くないリアビューだが、僕はプリウスのあの両端が下がったリアビューがクセになって、アレを見ないと落ち着かないくらいなのだが、あのテールランプのシドミードっぽさったらない。

70年代の人が考えた未来のクルマ像を全て兼ね備えたデザインが新型プリウスにはあると思っている。

トヨタデザインは過去から一貫してそつなく平均点を叩き出しているので、褒めることも貶すこともなかったが、新型プリウスだけは自動車デザイン史に確実に残るべきデザインだと言える。

※論を強調するために「トヨタデザインは平均点」と殊更に言い切ったがもちろん例外は幾つもある。個人的には歴代プリウスのデザインは毎回違和感があって好きだ。

他を落としてこっちを持ち上げるというやり方は好きではないが、わかりやすいので敢えて例えに出させてもらうと、マツダの「鼓動デザイン」という方法論があって、出始めの頃は新鮮だった。

クレイモデラーが原寸大の粘土をヘラで削って形状を出現させる造形手法をコマーシャルなどでアピールした。

しかしアレはもともとカーデザインの世界では当たり前のことだった。

その方法でMAZDAは現在のラインナップを完成させたわけだが、みなさんあのデザインちょっとだけ飽きてませんか?

いや、言いたいのはそこではない。

原寸大のクレイを削るという作業は良いことづくめではなく、ディテールにこだわりすぎるというデメリットもあるのだ。

翻って新型プリウスのデザインはまるで手のひらサイズの粘土を指で捏ねて気持ちよく造形したくらいのマス感があるのだ。決してディテールに陥らずディテールに頼らない全体の塊感がある。

もっと言うと、ホットウィールのミニカーを巨大化させたような思わず「カッコいい」と呟いてしまう何かがある。

それはデザイン手法から旧来モデルに頼らない方法論を使ったのでは?と想像させるほどの未来感だ。

新型プリウスがそこまで大きく舵を切ることができたのは、トヨタのラインナップでのプリウスの果たす役割の変化とも関係する。

初代プリウスが登場した時は世界初のハイブリッド車としての責務があった。

2代目は初代のネガを覆す拡充路線。

他社もハイブリッド車で追随してき始め、トヨタ内でもハイブリッド他車をラインナップしてきて3代目以降のプリウスはすこしずつだが肩の荷が降りてきたと言える。

今回の新型プリウスは5代目。

もうハイブリッド車は奇異でも珍しくもなくマジョリティになった。

ここでようやくなんのリキみも必要とせず脱力したデザインになった。

トヨタデザインの底力か。

脱力で底力とはこれ如何に。笑

新型プリウスのデザインを褒めちぎるつもりで書き始めたが、すこし褒めすぎたかもしれないので、ここら辺でやめます。

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