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2023 映画鑑賞この一年

 2023年に見た映画は延べ130本でした。昨年比5本増とほぼ変わらぬ鑑賞頻度でしたが、その中身は大きく変わり、今年は大半が旧作となりました。そこで今年の「映画鑑賞この一年」は印象深い旧作の上映イベントを振り返りたいと思います。

ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ

(6月24日~/渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー)

 濱口竜介が影響を受けた監督として必ず名を挙げるジョン・カサヴェテスの特集上映です。

 中でも特に衝撃を受けたのは『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(1976)と『オープニング・ナイト』(1978)でした。『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』は8月に神戸・元町映画館で、『オープニング・ナイト』は8月に広島・シネマ尾道、11月に東京・目黒シネマで鑑賞しました。

 前者は経営するストリップ劇場の、その空間も演者も愛してやまない男が、借金をめぐる一か八かの賭けに出て、ぼろぼろに敗れていくストーリーです。映画界で傷つき続けてきたカサヴェテス自身を投影したものだとは思います。

 見栄と愛は、自分を追い込み傷つけていく刃であると同時に、その傷にすらなかなか気付けぬようにしてしまう麻酔でもある。ラストシーン、劇場の前でのベン・ギャザラの立ち姿に無念が立ち上がります。

 一方『オープニング・ナイト』は、加齢を自覚しつつもそれを認められない女優の葛藤が、アンコントローラブルに表出していきます。『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』のベン・ギャザラが、斃れていく弱い男へのロマンを思わせ得たのに対して、『オープニング・ナイト』は痛々しいほどに必死にもがき苦しむ人間のたたかいを見せつけられた思いです。

映画のみかた モーションとエモーション

(11月11、12日/せんだいメディアテーク)

 午前に映画1本を上映、午後にその映画についてシーンごとに止めていきながら、濱口竜介が解説するという贅沢な映画講座でした。

 課題作品は1日目はやはりジョン・カサヴェテス監督『こわれゆく女』(1974)、2日目はマノエル・ド・オリヴェイラ監督『フランシスカ』(1981)で、2日目はダンサーの砂連尾理も講師に加わり、マニアックで細かい映画の読み解きが展開されました。

 なぜカサヴェテス映画を見ていると、そこに人生を見るような心持ちになるのだろうかと思っていましたが、講演を聞いていてその理由が見えてきた気がします。

 カサヴェテスは、カメラや照明の都合よりも俳優の生理を優先するがゆえに、本当ならつながらないはずのショットを無理くりつなげている作品が多いのだそう。にもかかわらず映画としての大いなる説得力を持ち得てしまうほど、俳優の身体が躍動している。ここに感動が生まれるのだ、と思いました。

 いっぽう『フランシスカ』は中世の絵画の世界を映像に起こしたかのような映画で、私などには理解困難な作品でした。こういう映画をどう楽しめばいいのだろうと、鑑賞中はかなり戸惑いました。午後のトークを聴いていると、映像があまりに細かく緻密に計算されて作られていることが見えてきて、また機会があればチャレンジしてみようという気になったものでした。

三宅唱監督特集2023

(4月28日~5月25日/京都・出町座)

 京都・出町座で『ケイコ 目を澄ませて』(2022)が昨年末の公開以来、5か月間にわたるロングランとなったことを記念した、三宅唱監督作品の特集上映。

 中学時代に撮ったという初期衝動ほとばしる掌編『1999』(1999)はすでに、人が動くということが映画の本質であることをつかんでいたかのよう。

 『やくたたず』(2010)、『Playback』(2012)、『きみの鳥はうたえる』(2018)、『ケイコ 目を澄ませて』を一連で見て気づくことは、三宅のつくる映画に映る時間とは、残念ながらいつまでも続くことはないさやかな幸福の時間なのだということです。しかしその時間は、過去の話として消費できるようなものではなく、その後の人生にいつまでも影響を与えてくれるものなのです。

Nikkatsu World Selection

(2022年11月3日〜/シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー)

 日活の110周年を記念した興行で昨年から始まりましたが、大阪のシネ・ヌーヴォではことし4月8〜21日に開催されました。

 目当ては山中貞雄監督の『丹下左膳余話 百万両の壺』(1935)、『河内山宗俊』(1938)でしたが、あまりにおもしろくて、たしか『河内山宗俊』だったと思いますが、イベント付き上映というわけでもなかったのに終映後客席から拍手喝采が起こったのを覚えています。

 で、そのついでに見た田中登監督の初期ロマンポルノ作品『㊙色情めす市場』(1974)が、これのどこがポルノやねん!と言いたくもなるほど、生と性がむき出しになった映像で、圧倒されました。

 ロマンポルノにはあまり興味がなく、ロマンポルノ出身の映画作家の作品もあまり好みではないことが多いのですが、本作は面白かったです。

万博映画特集~70年大阪万博の光と影~

(12月10~19日/パルシネマしんこうえん)

 1970年大阪万博にちなんだ映画3本の特集上映。万博会場の自動車館で上映されたという安部公房脚本、勅使河原宏監督の珍品『1日240時間』(1970)、野坂昭如原作、藤本義一脚本、三隅研次監督の焼け跡派の意識が全面に出たブラックコメディ―『とむらい師たち』(1968)、そして泣く子も黙る傑作、原恵一監督『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)が上映されました。

 『1日240時間』については、友田義行・甲南大学准教授、批評家・西田博至氏によるトークが非常に刺激的で楽しかったです。

さよなら京都みなみ会館 35mmフィルム上映オールナイト

(9月22日深夜/京都みなみ会館)

 9月末に惜しまれつつ閉館した京都みなみ会館の最後のオールナイト上映。立命館大学映像学部の川村健一郎教授選出の4作品が流れました。

 マキノ雅弘監督『次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊』(1954)の楽しさ、レオス・カラックス監督『汚れた血』(1988)の美しすぎる映像に酔いしれた後、眠気でうつらうつらしながら見るアキ・カウリスマキ『希望のかなた』(2017)。

 深夜にもかかわらず満席完売で、あれほどまでに熱気あふれる客席はそう経験できるものではなかったと思います。

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