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【南大沢:大雨の記憶】大雨の後の町を歩いて気付いたこと

2021年8月15日、早朝にけたたましい携帯電話の避難情報アラートで目が覚めました。お盆の時期に停滞全線が停滞し、西日本を中心に線状降水帯が発生し、大きな被害をもたらしました。わが町、八王子市南大沢も、線状降水帯が通過し、この地域に大雨を降らせました。(下記は日本気象協会HPのキャプチャーです。)東京都の由木観測所の降り始めからの雨量は、259mm、午前5時からの時間雨量は46mmを記録しました。

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その結果、アラートが鳴り響いたのは、南大沢を含む多摩ニュータウン地域を中心とした八王子市東南部において、土砂災害警戒区域における避難指示(警戒レベル4)が発令されたためでした。

幸いにして、線状降水帯が大雨を降らせた時間が少し短かったこともあってか、大きな被害をもたらすことはありませんでしたが、避難指示の発令を目の当たりにして、どのように行動すべきかを考えさせられた夏休み最後の日曜日でした。避難指示が解除された夕刻に少し歩いて状況を見てきましたので、その模様を伝えたいと思います。

【局所的に低い場所の浸水】

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表紙の写真と同じ写真を再掲しますが、南大沢の柏木小学校近くの交差点です。写真で見る限り、交差点の少し手前にくぼ地があり、バスが少し坂を登っていることがわかります。このくぼ地が冠水しました。

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写真では判読しづらいですが、歩道脇の擁壁の2段目の途中まで、落ち葉の痕跡があるので、浸水したものと思われます。歩道は20cmくらい、縁石の下の車道は、おそらく最大50cmくらい浸水したことだと思います。

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道路排水がありますが、一時的に大雨が降ると、この場所に水が集まってしまい、排水が処理しきれずにあふれるのではないかと思われます。

同じく、ここから坂を下った南大沢交差点の前。ここも交差点の手前の道路がくぼ地になっています。道路の反対側をよく見ると、「異常気象時冠水」の標示が。もともと浸水被害が出る場所なのですね。

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ここには、谷戸沿いの緑地にある遊歩道の人工のせせらぎが、雨水を集水して本当の小川のようになっていて、少しあふれて道路に押し寄せていました。このように、谷戸の水が低いところに集まって処理できずにあふれたものと思われます。

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道路に隣接する工事現場の中に浸水痕。ここまで浸水したことになるのでしょうか。
この場所を八王子市のハザードマップで見てみましょう。最初に紹介した浸水痕は、地図でいうところの「柏木小学校」の左側。次に紹介した場所は、「柏木小学校」の右の交差点の手前です。いずれも、浸水の危険のある色が塗られており、若干濃い色(浸水深さが深い範囲)にあることがわかります。ハザードマップを見ると、ここに水が集まりそうだということが、かなり細かい地形まで判別できるようになっているのですね。建物があるところがこういった浸水危険範囲だと要注意です。このハザードマップ、こんな微妙な高低差のある微地形も含めてきちんと照査できているのですね。非常に精度の高いものだと思います。ちなみに下記の図で見ると、色塗りされている部分が、局所的に低くて浸水のリスクがある箇所、橙色や赤色の線で囲まれている範囲が、土砂災害のリスクがある箇所です。黒丸は、避難所などの施設。こういう情報を事前に確認し、いざとなったらどのように行動すべきかを机上ででも訓練しておくとしておかないとで、災害時に命を守る行動ができるかどうかを判定できると思います。

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八王子市のハザードマップ、こちらで確認できます。各地域のハザードマップを確認することが、いざという時の避難行動にも役に立ちます。命を守るためにもぜひ自分の住む地域やふるさと、お勤め、通学の地域のハザードマップを一読することをおすすめします。

【大雨の後の姿をいくつか】

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2年前の台風の時に崩壊した盛土斜面。今年4月に復旧しましたが、今回の大雨でもしっかりと排水等がされていたようで、今回の大雨でもびくともしませんでした。適切に対策された斜面は、災害に対する力も強くなることを証明できたのではないかと思います。

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遊歩道を川のように雨水が流れているところがあり、さらに多量の水が流れていたことがわかります。舗装された道は、時には雨水を効率的に流下させてしまう「川」のような役割を果たすのでしょうか。

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側溝の排水桝から排水できずにあふれて遊歩道上を流れる水。大雨の時にこういうところを確認しておけば、豪雨の時にさらに大きな流れができることが想像できるでしょう。

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最近水を流さなくなった人工のせせらぎにも、この日ばかりは大量の雨水で潤いが出ています。これだけを見ると、美しい風景ですが、これも大雨のいたずらのようなものです。

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小さな雨水桝から勢いよく水が逆流しています。豪雨の時はさらに勢いを増すのでしょうか。桝を越水するほどの大量の水が供給されているということなので、このあたりの斜面は豪雨時には(おそらく今回も)要警戒なのでしょう。

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雨の小山内裏公園の大田切池。いつも以上に増水し、一部ウッドデッキは冠水する状況でした。ただ、この池の役割の一つは、「大田川の氾濫抑制のための一時的な貯水池(小さなダム)の役割。それをしっかりと果してくれている証拠だとも言えます。

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斜面にある擁壁の裏側から激しく水が流れています。こういう場所も排水が追い付かなると、途端に水圧が擁壁に作用し、土砂災害の危険が高まります。雨の時にたくさん水が出ているところに気をつけよ、だと思います。

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道路の端に浸水痕のような泥をかぶったところがありました。豪雨が降ると、下水道の排水桝が溢れたらその周囲の低い場所は冠水を免れなくなります。いわゆる「内水氾濫」といわれる、川はあふれなくても、その周辺で水が処理できないことが理由で氾濫する災害です。その地点にゲリラ豪雨が降った時には、注意すべきはまずはこの氾濫です。車を運転しているときにこのような浸水範囲に遭遇したら・・などのリスク管理が重要かと思います。

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大田川の上流端に来ました。南大沢地区で降った雨の大半は、ここに集められてきます。豪雨から10時間以上が経過した時間でも、ものすごい量の水が流れていました。大雨時の増水した河川は濁流になるのですが、ここはほとんど土が無い地域のせいか、濁りが無い大量の水が流れていました。舗装された地域は水が地面に浸透しないため、一気に雨水が川まで流下してしまいます。これが溢れるくらいの雨が降るとかなり危険な状況になります。今回の大雨では、何とかその機能を維持できたようで良かったです。

【終わりに】
今回の大雨が来た後に、「土木技術者の目線で」雨の跡を見ておくことは非常に重要だと思い、見て歩きました。感想としては、八王子市のハザードマップの浸水想定は、精度良く浸水が著しい範囲を推定できており、いざという時にはぜひ活用すべきと再認識したのと、土砂災害については、危険に見える斜面でも、雨が降ったら水がたくさん供給される斜面とそうでない斜面があり、それを知っておくことが重要であると認識したことです。今回歩いただけでも、ここは浸水しそうだ、あぶない、だとか、土砂崩れが起きるとしたらここは危険だ、とか、勝手な想像に過ぎないかもしれませんが、イメージすることができました。そういうイメージを共有することが、地域の防災力向上には重要なのではないかと思います。

昔から、土木の世界では、土構造物の設計の良し悪しを判断するには、大雨が降った時の状況を観察すると一目瞭然、と先輩に教わったことがあり、今回歩いただけでも、その大切さを再認識することができました。

今回、南大沢を含む八王子市東南部には避難指示が出ましたが、その本文を読むと、「土砂災害警戒地域にお住まいの方」に対する避難情報だとわかりましたが、テレビの報道などではそれを判別することは不可能だと感じ、正確な避難指示の情報がどこまで伝わったかが検証すべき課題と認識しました。普段から、ハザードマップを使い、大雨が発生したら住んでいることにこんな危険が迫るので、こういう避難行動をとるべき、というタイムラインをしっかりと地域で共有できるようにしないといけないと思いました。

以上、今回の大雨の際に学んだことを書き記しました。地域全体で大雨時の災害行動を共有でき、防災力が向上して、人的被害を減らすことができるきっかけに少しでもなると良いと思います。

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