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あさばに泊まる

一世一代の贅沢を。

誕生日祝として夫におねだりしたのは
修善寺にある名高い旅館、あさばに宿泊することだった。

日本最高峰とも聞くこの宿。
不惑の年を越え、ただのんびりと贅沢に過ごしてみたい。
およそ身の丈に合わないかもしれないが、
その世界に刹那に触れてみることもまた一つの思い出か、と。

シンプルにして究極。
ただひたすらに丁寧で隙がないが、
威圧感は感じさせない。
押しつけがましさはなく、
自然と背筋が伸び姿勢が正される。
過剰な豪奢さや華美な部分がない。

部屋の清潔さも、庭の美しさも、
端々に感じる心遣いも、心地よくありがたかった。

評判の高い料理は、評判以上の感動だった。
この年齢になったからこそかもしれない。
もっと若ければ物足りなさを感じたのかもしれない。
飾りのない料理だが、香り、温度、味付け、
すべてが完成されていて染み入ってきた。

静かに過ごしながら、
これからの人生を考えさせられた。
これだけのものを維持していくためには、
多くの人の手が毎日欠かさず入っているだろう。
積み重ねていくことで生み出されるものがこの気持ちのよい佇まいだとすれば、
私のこれから先の人生も、何をどう積み重ねるかで変わっていくように思う。

きっといろいろなことがあるのだろう。
へこたれるんだろうな。

疲れて休みたくなったとき
またここに来られるよう、日常に戻って頑張ろう。
そういう時間を過ごせて幸せだった。


それにしても、
露天風呂に置いてあるタオルが温められていたのにはことのほか驚いた。
蒸しタオルではない。ほかほかふわふわに温められている。
今までで初めて受けたサービスだった。
湯上がりに温かいタオル、あー幸せ。

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