健太フーズの日々2

第一章 面接

私は朝の9時少し前に、そこに立っていた。
健太フーズ。全国にお店を展開していて、もちろん群馬のショッピングモールにもある。

「はじめまして、吉田麻記です。よろしくお願いします。」私は作り笑いしながら最初のセリフを小声で練習していた。商店街は10時開店の店が多く、人通りは少ない。
「はじめまして…いや、おはようございます、かな…」
ところが。大変な事に気づく。
健太フーズも10時開店…という事は、9時の面接の約束はどうなってしまうのか。
私は頭が真っ白になり、カタカタ震える手で健太フーズの電話番号を押した。

「ああ、面接の吉田さんですね。」
声と同時にドアがゆっくりと開き、私よりも多分いくつか若いであろう人物が出てきた。
慌てて口角を上げるが、ほっぺたの辺りがひきつる。
「はじめまして、よろしくお願い致します。」
しまった、名乗り忘れた。
そんな動揺は悟られなかったらしく、とりあえず店舗に通された。

履歴書に目を通すと、特に職歴について聞かれることもなく、ただ「クリスマスは働いてください」との事だった。用意した履歴書も、「個人情報だから」という理由で返却される。
「コンプライアンスはしっかりしてそうだな」と、思った。
「何かご質問は…」と聞かれ、「あの、私太ってるんですけど、制服ありますか?」と聞いてしまった。
「あはは」と笑う店員さん。あ、この人初めて笑った。

健太フーズか。
英語も簿記も、前職の知識も使わないけど、若い人に混じって働くのも悪くはないかもしれない。
そんな風に、私は思った。

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