ドライブ

ロックハート城は、群馬の山の中にひっそりと佇むイギリスの古城のはずだった。
ところが。
中に入ると、「お姫様体験」を楽しむ女の子たちが、あちこちで写真を撮っていた。

「何か…イメージと違うな」
ごめんね、と謝るサトシさんがかわいいと私は思った。
「行きましょ。」私は自然に手を握っていた。
観光地の雰囲気、嫌いじゃないなと思う。思い思いに浮かれて、楽しそうなお客さんたち。そこにあるのは、非日常の空間。
「ほら、ネックレスが売ってる。」
お城の土産物屋を歩き回り、手作りっぽいネックレスを手に取って、私はおどけて見せる。
サトシさんは、困ったように笑った。

「楽しかったね。」
帰りの車の中で、私はサトシさんに話しかけた。
あぁ…うん、と彼は言い、そのまま黙り込んだ。
何かまずい事でも、言ってしまったのだろうか。
沈黙は一瞬だったのだけど、何分も待ったように感じた。
「あのね、まき。ちゃんと話さなきゃいけないと思って。」
胸がキュッとした。
話さなきゃいけない事って、何?
「あの…何も言わずに連れ回して、ごめん。」
まっすぐ前を見ながら、彼は話を続けた。
「その、ちゃんと話してなかったでしょ。」
車のプルルという音が、やたらと大きく聞こえて、私は耳を塞ぎたくなった。
やめて、やめて。
今のままでいいのに。
何を話そうとするの?

「…俺と付き合ってください。」
えっ。
「本当はお城で言いたかったんだけど、そんな空気じゃなかったから。」
ばつが悪そうな顔をしながら、彼は運転を続けた。
何だか、おかしくなってきた。
私たち、まだお付き合いしてなかったの?てっきりもう付き合ってるつもりでいたのに。
「ねぇ、お腹空かない?」
私は「うん」とも「ううん」とも言わずに、語りかけた。顔が自然にニヤけてしまう。
「この先の町、高崎ってパスタの町なんだって。」
「帰りが遅くなっちゃうけど、いいの?」
「…私、お泊まりするつもりだったんだけどな。」

車のブルブルいう音は、相変わらず大きくなり続けていた。

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