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『夜と霧』のあらすじ・感想とV・E・フランクルが一番伝えたいことを名言付きでレビューった【ナチス憎さに人種差別加害者に堕ちるのは新しいナチズムであって勝利ではない】



私さ、フランクルが夜と霧で一番言いたかったことって…ひたすら195-196Pのたった2Pの部分だと思うんだよね。(最後に添付あり)

その2P読んでも解るように、またフランクルのほかの著作を読んでも解るように、フランクルって、『ナチスなら悪い』とか、『ユダヤ人なら善人』とかそういう話は一切していないんだよね。むしろその正反対といってもいい話をしている。

あ、いま

(は?え?フランクルは『ナチスなら悪い』とか『ユダヤ人なら善人』とは思っていない?え?どゆこと?)

って思ったかな?

まあ読んでみてね。

ちなみにフランクルの文章って、信じられないほど回りくどくて意味がとりにくい文章(なんで、最後に添付した2Pの画像は無理に読まなくてもいいよ、今から私が要約(というか説明)するからそこだけ読んでもOKだよ。

195-196Pを要約すると。

おおよそ4つの話を書いていると私は思う、それは

1 
フランクルが収容所で見た一番の『史上最悪の外道』はある収容されていたユダヤ人であった。

反対に、

自分が最後に収容されていた収容所のある指令官(=ナチス親衛隊員)は一度たりとも収容所のユダヤ人を殴らず、自分のポケットマネーで薬局からユダヤ人を治療するための薬を買い続けていた『善意の人』であった。

ユダヤ人被害者の『外道』と、ユダヤ人収容所所長のナチスである『良心の人』。

2 
つまり100%外道のいないグループなど存在しないし、反対に、100%善意の人がいないグループも存在しない。

人種、肌の色、国籍、その他のグループ分けなどというそんな表面的なことでは外道を見分けることなど決してできない。

という当たり前で恐ろしい事実をフランクルははっきりと明言したんだ。

3 
この世には『本物の善人』が居るのと同時に、残念ながら話し合いで理解し合える解決できるとかそういうレベルを超えている『凄まじい外道』が存在する、それは人間の最も深い所を分ける『亀裂』というべき違いなんだけど、あらゆるグループに両方が潜んでいる。

フランクルはそういう、ある意味シャレにならない話をしている。

だから

フランクルは『ナチスだったから』という理由で『ドイツ人全員に責任がある』というような考え方に強く反対している。

だからフランクルは繰り返しまともなドイツ人を擁護しているし、

ヒトラーに勲章を授与されたことのあるとある元ナチスの同僚を、家にかくまったり(!)までの事をしている。

収容所に妻を殺されたフランクルが収容所から生還したあと、ナチスを匿ったのである!

4 

つまり、フランクルは、

『ナチスなんだからドイツ人は全員悪』と決めつけることとがまさに『ナチズムの根幹』だと思っていたんじゃないかな。

つまりいいかえると

『ナチズム』の一番悪い根幹の部分とは=『悪とは個人の行いではなく、民族や国籍や遺伝でもともと決まっているという思想』=『だから悪い事をしていないユダヤ人を虐待したり殺すのは正義であり善行』と決めつけた『幼稚すぎる思考』でありそれが『人種差別の根幹』で、それが『アウシュビッツを作り上げた根幹』であると、むしろ

その意味不明な思い込みと闘うことそれが自分のライフワークでありナチズムを撲滅する唯一の方法


なのだと思っていたんじゃないかと私は思う。

だから、フランクルは、あえてナチス収容所には『最低なユダヤ人』もいたことをはっきりと口にするし、

まともな元ナチスを擁護しつづけ、ドイツ人全員に戦争責任があるなどという考え方を強く否定していた。

それはやさしさとか人徳とかそんな甘っちょろいことなんかではないんだ。

『ドイツ人=全員に戦争責任がある』=『ユダヤ人=みんな善人で被害者』などという考え方はそれはあべこべにひっくり返っているけど、明らかに間違いだよね?そして何より、

残念ながら

それももう一つのナチズムなのだ。


ドイツのナチスが負けた直後…その『ひっくり返った、もう一つのナチズム』は実際に産まれてしまったんだ。

そう、イスラエル。

『これだけ俺達ユダヤ人は迫害されたんだから、何千年も前に住んでいた土地に戻っていいじゃないか。こんなに迫害された可哀想な自分達なんだもの。国を一つ貰ってもいいじゃないか?だからそこにいま住んでいるパレスチナ人を虐殺して殺してそこにイスラエルという楽園を作ろう!』

というとんでもない思想が生まれ、そして実際に今度は一部のユダヤ人はパレスチナ人を殺し追い出してイスラエルという国を本当にガチで作り、

加害者となった。


その気持ちは…迫害され続けた民族の切ない気持ちは解らんでもないけど、あと、そもそも『国のないあなたに国をプレゼントします』とウソをついてユダヤ人から金をカツアゲしたイギリスが一番悪いんだけど、でも、それはそうとして、自分の国が欲しいからとパレスチナ人が住む土地からパレスチナ人を殺して追い出して自分が住むなんて、それはやっぱり、明らかに、それは、

もう一つのナチズムだった。


そのことにフランクルは、生涯、異を唱え続けた(まあ社会的に完全ポアされない程度にやんわりとだけど)し、そして自分の『夜と霧』がまるでイスラエル建国を正当化するためのバイブル・免罪符みたいになってしまっていった事をずっと苦々しく思っていたんだ。

だからこそ。

フランクルは良心あるドイツ人と共に、他人を人種ではなく、ただ普通に個人の行いで評価する、そういうあたりまえな『非ナチス的=非イスラエル的』なスタンスをとことん守り抜いた。

もちろんイスラエルに移住もしなかった。

さらにはドイツのウィーンにとどまり続けた。

収容所を体験したユダヤ人である自分が、だからこそ、

マトモなナチスを擁護して、
くるったユダヤ人を糾弾しなければならない、

なぜならばそれだけが『ナチス的な狂気=人種や国籍による決めつけの狂気=を本当の意味で乗り越える唯一の行為』だから。

人種・国籍・肌の色・帰属グループなどで相手の善悪を決めつけ思考停止して平気で残酷に攻撃してそんな自分を正義だと勘違いして喜ぶというあの世にも醜い思い込み癖を全人類が克服する事、それこそ、本当の意味でのナチズムへの抵抗であると、

眼を開いて、相手を人種で決めつけず、一人一人の行いだけで相手を評価する事。とても普通であたりまえな、でもみんながなかなかできないこと。

それだけが、それだけが、自分たちユダヤ人というものを『ユダヤ人であるから』というさっぱり訳の分からないイミフな理由でアウシュビッツに放り込んで殺しまくったあの思想に、自分の妻を、親兄弟を、ガス室で殺したあの勢力に、本当の意味で勝つことができる唯一の方法でありたった一つの本物のアンチテーゼなのだ、

勝利とは、パレスチナ人が住んでいる場所を奪ってイスラエルを建国してパレスチナ人を殺し追い出す事なんかでは、決して、ないんだ。


そう、フランクルは信じていたのではないかと、私は思う。




V・E・フランクル『夜と霧』旧版 195-196P より転載


V・E・フランクル『夜と霧』旧版 195-196P より転載


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