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この世はアステラス株を持つ者と持っていない者に分けられる



去る2023年10月。

X(旧トゥイッター)のタイムラインで「アステラスの株価がァ」と断末魔のような声が聞こえ始めた。

製薬に自信ニキのワイとしては「ファッ?!今更アステラス?!」と俯瞰の位置で反応したのですが、どうやらかなりの方がホルダーだったようだ。

後から知ったのですがどうやら某有名インフルエンサーさんの著書にアステラスが「永久保有銘柄」なる紹介をされていたらしい。

その後以下のnoteを書いたところかなりの反響を頂き、そして同時に「こんなことがあったんですね、知りませんでした」という返答があった。

ワイは震えた

そう、この時の反応から察するに、まぁまぁの数のアステラス保有者は「アステラスが深刻なパテントクリフに直面している」ということを知らなかったような気がする

でもそれは仕方ない
クリフハンガーならわかるけどパテントクリフとか知らねぇしな?

製薬=アステラス=「増配株かつ安定ディフェンシブ」というイメージもあったんやろうに
インフルエンサーも買ってたし!
なぁ!

その後、どう考えてもこのnoteを見て初めて状況を知ったであろうインフルエンサーさん達が、鬼の首を取ったように「イクスタンジ(主力製品)がやばい!」と言い始めたが、お前らが推してたのに今更それはないだろうと言いたい気持ちが、もうね。

あれから半年

昨年度アステラスは4回の下方修正を行った。4回である。K-1を4回制したアーネスト・ホーストは自らを4 Times championと呼んだが、4 Times Kahou Shuseiを行ったアステラス選手は何を制したのだろうか。

アーネスト製薬(右)に下方修正を喰らうボブ・サップ(左)

これも何度もポストしたが、なかなかな修正ヒストリーである。
当初、純利益2,200億円の最高益予想を出し、その後4回にわたって下方修正、最終利益は170億円だったのだ。

本決算説明会でも次のように発言している。

2023年度を振り返りますと、レキスキャンの後発品参入、Iveric Bio社買収による費用の増加、 VEOZAHの想定を下回る進捗、減損損失の計上などにより、コアベース、フルベースともに複数回の下方修正を行いました。 結果、株式市場の皆様の期待に応えられなかったことを、経営陣として非常に重く受けとめております。

アステラス製薬 本決算説明会より

配当目的で購入した方々にとっての唯一の救いは、23年度の配当は維持され、また24年度は増配する予定という結果でしょう

では今後のアステラスはどうなるのだろうか
少し決算説明会の質疑応答を見てみる

アステラス製薬 本決算 質疑応答
https://www.astellas.com/en/system/files/675a767756/4q2023_script_jp.pdf

本決算説明会において

中身から察するに、ポイントは2つ

①大型買収する体力はないので開発とセールスにかかっている

②減損を折り込んだ予算になっている

順に見ていく


①開発とセールスにかかってる

昨年の下方修正の原因の一つ、アイベリック社の8,000億円での買収。説明会では同規模の買収はもう難しいと言及した。

今、バランスシートをご覧いただけば、来年また 5,000億の会社を買いましょうって、もう絶対不可能なことは誰が見ても明らかなので、そこはやはりここ数年は、つまりIveric Bioの買収をやったわけだから、ここ数年はちょっと大型の製品の獲得とか、会社の買収というのは難しい。

アステラス製薬 本決算説明会より

続けて「なので開発品と、上市後の販売戦略が重要」という旨の発言をしている。では、どういう状況なのだろうか。

────開発品の状況────

◆パイプラインを見てみると

前回Q3決算時点のパイプラインの状況はこちら

今回本決算時点はこれ⇩

ほぼ進捗なしというか開発中止もちらほら
もちろん開発なんて3か月で劇的に進まないのですが、Ph2,Ph3のパイプラインの少なさが心もとない

(Ph1→2→3→申請→承認と段階を経て開発が進み、一般的にPh1から承認まで約10年かかると言われている)

そして下図の通りPoC見極め(Proof of Concept=有効性の有無の確認)を2025年度末までとしているが、あと2年でそこまでたどり着くのか、これが失敗したらますます厳しい。

ASP2802等、CAR-T細胞療法で注目すべき開発品もあるのですが、問題はこの綱渡り状態をうまくつなげられるかどうかというところ。

────販売中の製品の状況────

主力製品のXTANDI:
2027年に各国順番に特許切れになる主力製品

決算説明会では、メディケアパートD見直しで、今期の米国売上は50~70mドル減収予想とした

これはバイデンのインフレ抑止法による影響で、すごく雑にいうと日本で言う薬価改定みたいなもの。メディケアという保険の対象製品の価格改定が行われ、XTANDIも巻き込まれるというわけです。

特許切れまでに出来るだけセールスを伸ばしておきたいという戦略からするとマイナスに働く。にしてもインフレ下で強いはずのディフェンシブセクターが値下げの対象になるというのも、なかなか悲しい。

VEOZAH:
これは昨年発売した、XTANDIの後継製品の一つ。

アメリカで発売したものの保険償還の対象製品に多くは含まれていない状況(カバレッジ率が低い)。つまり、患者が処方して欲しいと言っても医者が「あの製品、保険対象なってないから費用負担エグイしやめとき」って言われて処方されないわけです(特にVEOZAHは30日分で550ドルもする)

はっきりいうとこれはセールスの力不足なわけですね。
これも影響し、販売計画を大きく下方修正。

IZARVAY:
これは買収した会社の主力製品

こちらはすこぶる好調。質疑応答でもあるように「permanent J-Code(払い戻しのコード)」が付与されたことで、償還手続きが楽になったことが影響。また、アメリカ以外へも販売予定。

お分かりの通り、アメリカの保険制度は少しややこしいので、製薬株を買う人はその辺について学ぶことをおすすめする。

以前の質疑応答で少し書いたので↓

つまりは

・開発品スケジュール…お前どうなの?
・大型買収はバランスシートから考えて今は無理ンゴ
・販売はIZARVAYとPADCEVが好調、その他はびみょい


②減損を折り込み

説明文章ではこのように

フルベースでは、期中に発生する予期しない下方修正のインパクトを和らげるために、減損損失リスクなどのその他の費用を期初予想に織り込みました
現時点で何か具体的な減損の兆候があるというわけではなく、過去に計上したその他費用実績や無形資産残高をもとに見積もったものでございます。

アステラス製薬 本決算説明会より

開発品=無形資産なので開発中止すると試算の再計算、減損が発生する。そうなると利益に響くわけで、そのリスクを抑えるためにあらかじめ減損分をいくらか見込むわけっすね。総合商社がよくやってるやつです。

なので期中にまた100億円減損します!となってもあらかじめいくらか織り込んでるため、そこの時点で発生するブレは抑えられるというわけです。ちなみに折り込み額は600億円

これにより今期は下方修正が減るような気がしている

いや、なぜ下方修正する前提でいるのだろうか


まとめ

こんな中、増配予定とのことで

>今年は10円、来年は 2円、その次は10円、その次は減配なんてことが起きないように、中⾧期的な利益の動向を見ながら、それぞれの年の増配幅を決めてまいりたいと思っております。ちょっと今日この段階で、25年、26年がどうなるかということは、コメントは差し控えたい

アステラス製薬 本決算説明会より

基本的には増益に考えてて、その根拠となる利益に自信もあるようです。ただ①で指摘した通り、いまアステラスの状況が決して安泰とは言えないわけで

  • 売上の半分近くを占める主力製品XTANDIの特許切れが迫る

  • そのカバー製品の一つVEOZAHの販売計画を下方修正

  • カバー製品であるIZERVAYは立ち上がり好調だが、買収費用により営業利益率は低下

  • 開発品のスケジュールはなかなか厳しいかも

  • Ph2,Ph3製品が出てきていない(これがまずい)

まとめると「主力製品のパテントが切れる中、後継製品の主力の一つが売れてない、Ph2,Ph3がまだ育ってない、大型製品を買収する体力はない」ということなのです。

もう本当にまずい場合は買収のための増資、なんてこともシナリオとしてはあり得るのではないでしょうかね

おしまい