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『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』IMAX上映が最高過ぎた件

おはようございます、チェ・ブンブンです。

試写会に行ってきた

先日、『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』IMAX試写会(2/2公開)にお呼ばれしたので行ってきた。『ストップ・メイキング・センス』は私のオールタイムベスト映画である。

★チェ・ブンブンのオールタイムベスト映画
1.痛ましき謎への子守唄(2016,ラヴ・ディアス)
2.オルエットの方へ(1971,ジャック・ロジエ)
3.ストップ・メイキング・センス(1984,ジョナサン・デミ)
4.The Forbidden Room(2015,ガイ・マディン)
5.ジャネット(2017,ブリュノ・デュモン)
6. *Corpus Callosum(2002,マイケル・スノウ)
7.見知らぬ乗客(1951,アルフレッド・ヒッチコック)
8.ひかり(1987,スレイマン・シセ)
9.ミラノの奇蹟(1951,ヴィットリオ・デ・シーカ)
10.仮面/ペルソナ(1966,イングマール・ベルイマン)

通常、映画は一度しか観ないのだが、本作は20~30回ぐらい観ているほどに好きだ。とはいえ、一番最初の出会い方は酷かった。大学を卒業し社会人になりたての頃、品川行きの満員電車の中、スマホでこれを観たのである。ジョナサン・デミ監督のライブ映画という理由だけで観て、特に期待していなかったのだが、これがとてつもなく素晴らしく、満員電車で観たのを後悔した。その後、新文芸坐の強制スタンディング上映などに足を運び、手元にはBlu-rayを置くぐらい熱心に本作と向き合った。

一方で、『ストップ・メイキング・センス』ほど人に紹介するのが難しい作品はない。そもそも、トーキング・ヘッズを知らなければ、よほどの物好きでなければ観ないであろう。またライブビューイングやコンサート映像と何が違うのか?と訊かれたら回答に困る作品である。

今回はそんな『ストップ・メイキング・センス』について語っていく。


1.トーキング・ヘッズとはどんなバンドなのか

トーキング・ヘッズ

まず、前提としてトーキング・ヘッズについて軽く語っておく必要がある。

トーキング・ヘッズとは、1974年に結成されたバンドである。ギター、ドラムだけでなくシンセサイザーや民族楽器をはじめとするワールドミュージック要素を取り入れた独特なスタイルで知られている。

ヴォーカルのデイヴィッド・バーンは、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインやメリーランド・インスティチュート・カレッジ・オブ・アートでパフォーマンスやコラージュについて学んだあと、ニューヨークへと渡る。

1975年にCBGBのオーディションに合格しザ・キッチンの常連バンドとなりキャリアを積む。

能楽からヒントを得た「ビッグ・スーツ」

そして1983年にアルバム「スピーキング・イン・タングス」をリリース。ワールド・ミュージックやファンクのリズムを取り入れた野心的な楽曲を携え、ワールドツアーを実施した。ライブのアイコンともなっている「ビッグ・スーツ」は日本の能楽からヒントを得て取り入れた。

2.『ストップ・メイキング・センス 4Kリストア』の概要

『ストップ・メイキング・センス』はハリウッドのパンテージ・シアターで行われた3回の公演を編集して作られた。監督は『羊たちの沈黙』でアカデミー賞作品賞を受賞したジョナサン・デミ。撮影は『ブレードランナー』のジョーダン・クローネンウェスが担当した。

本作は日本ではカルト的人気を博しており、強制スタンディング上映は毎回満席近くまで埋まる盛況っぷりとなっている。そんな『ストップ・メイキング・センス』を今回、『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などを配給したA24が4Kリストアした。A24は近年リストア事業に進出しており、ダーレン・アロノフスキー長編デビュー作『Π』も手掛けていたりする。

MGMの保管庫で見つかった紛失ネガを使用して修復したこのバージョンは、アメリカでIMAX上映イベントが行われ、ライブ上映としては過去最高レベルの興行成績を叩き出しているのである。

3.映画的ライブ映画

『ストップ・メイキング・センス』を観ると、通常のライブ映画と異なることに気付かされる。

例えばマーティン・スコセッシ監督『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』では、インタビューや楽屋裏の様子が映し出されているのだが、そうした描写はない。観客も『ストップ・メイキング・センス』では最後の"Crosseyed and Painless"まで魅せない。

これではただのコンサート映像なのではないか?

答えは「否」である。

ここでは『ストップ・メイキング・センス』がいかに映画的かについて語っていく。

◾️編集の映画

まず、本作は編集の映画ということにある。一見するとひとつのライブを撮って繋げただけの作品に思えるが、実は3回の公演を繋ぎ合わせている。しかし、よく観ないと繋ぎ目がわからない。例えば、"Life During Wartime"と"Making Flippy Floppy"とでデイヴィッド・バーンの髪型が異なるとか、クリス・フランツの服装が最初と最後では違うといった変化ぐらいでしか判断できないのだ。あまりにもシームレスに曲と曲とを繋いでいくので、繋ぎ目が分からない。リサ・デイの編集の凄まじさがうかがえる。

この編集こそが映画的である。映画とは時間の芸術である。異なる時間を繋げてスペクタクルを生み出していく。我々が観ているこの作品は、実際のライブとは異なる。複数のライブの最も美しいところを抽出した再構成したある種の虚構なのである。だから『ストップ・メイキング・センス』は映画的といえる。

◾️第四の壁のユニークな破り方

映画の技法のひとつとして、登場人物がカメラ(=観客)に向かって語りかける第四の壁がある。ライブでは、ステージと客席との対話を通じて共犯関係を築く。つまりミュージシャンが観客に語りかける行為は当たり前となっている。そんな状況下で第四の壁を破る行為は成立するのだろうか?『ストップ・メイキング・センス』はそれをやってのけている。デイヴィッド・バーンが唐突にステージでもなければ客席でもない真横のカメラに向かって踊り迫ってくるのである。ライブ映画において演者はカメラを意識しない。映画の観客は会場にいる観客と同じ立場でパフォーマンスを観る。しかし、本作では映画の観客/会場の観客を明確に分けるショットが存在するのである。

ちなみにこの手法はサカナクションのMV「ショック!」でも応用されている。

カメラに向かっていく山口一郎
カメラに向かっていくデイヴィッド・バーン

このMV自体が『ストップ・メイキング・センス』の影響下にあり、廃墟のような場所でバンドが演奏をしていく。その中で山口一郎がカメラに向かって横に歩き出す。まさしくデイヴィッド・バーンがやっていたことを実践しているのである。

◾️ライブから映画へ

"This Must Be the Place(Naive Melody)"

ライブと映画の違いはなんだろうか?

ライブは演奏が終わるたびに拍手喝采が巻き起こる。声援が送られるのは普通の光景だ。一方で、映画は上映後に拍手喝采が起こることがある。『ストップ・メイキング・センス』はこの差を埋めて、映画に歩み寄っている。

注目すべきは観客の扱いである。

通常のライブ映画では、観客の存在が意識されやすい作りとなっている。実際に会場にいるかのように観客の動きを明確に捉えている。『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』におけるスマホで撮影している人がハッキリと確認できるように。

しかし、先述の通り『ストップ・メイキング・センス』は最後の楽曲"Crosseyed and Painless"までハッキリと観客を映さない。それどころか、観客の声援も比較的抑えて演出されているのだ。それにより、"Crosseyed and Painless"で明らかになる観客像に意味が生じてくる。良い映画を観た時、見ず知らずの隣の人と感動を分かち合いたくなる感覚。それが浮かび上がってくるのだ。

ユニコーンのぬいぐるみを持つ少年、カメラに向かって踊る赤服の黒人女性、トランス状態のスタッフ、このライブの高揚感は決してひとりだけのものではなく、みんなが感じていることだと突きつけられ感動するのだ。

4.IMAX上映はどうだったのか?

さて、最後に今回試写会でIMAX上映を観てきた。

拍手喝采、踊りたくなるのを抑えるのに必死なぐらいサイコーであった。他の来場者も気持ちは同じで、エンドロールでは拍手が巻き起こった。

IMAX版を観て明らかに今までとは感触が違った部分がある。

それは「音」である。

もちろんIMAXといえば映像が最大の特徴であり、例えば"Once In a Lifetime"で少しずつ背を起こしていくリン・メーブリー、エドナ・ホルトに差し込む光が美しかったりする。

だがそれ以上に「音」が凄いのだ。

冒頭、デイヴィッド・バーンの登場をいまかいまかと待つ人々の囁き。これが360度広がり、まるで隣で囁いているかのような臨場感がある。もちろん、この観客の存在も映画を追っていくと徐々に裏方に周り、我々が没入した頃には希薄なものとなる。

そして、デイヴィッド・バーンだけでなくメンバーの音が明確に聞き取りやすくなった。アレックス・ウィアーの音やジェリー・ハリスンの音が区別しやすくなっており、セッションとして完璧なものに仕上がっているのだ。

5.IMAXで観よう!

そんな『ストップ・メイキング・センス 4Kリストア』は2024/2/2(金)より全国公開。

TOHOシネマズ日比谷やグランドシネマサンシャイン池袋などではIMAX上映も開催されるので是非チェックしてみてください!

★余談

『ストップ・メイキング・センス』の名場面としてよく"This Must Be the Place(Naive Melody)"が挙げられるが、実は別の映画でも凄いパフォーマンスを魅せている。

パオロ・ソレンティーノ監督『きっと ここが帰る場所』の中盤で、デイヴィッド・バーンが"This Must Be the Place(Naive Melody)"を歌う場面があるのだが、家のセットが段々と真横に回転し迫ってくる演出が施されている。バズビー・バークレーもびっくりな演出で個人的に気に入っているのだ。

★参考資料

・『ストップ・メイキング・センス 4Kリストア』プレスシート
・ミュージックマガジン 2021年5月号 特集デイヴィッド・バーン
A24 Acquires Darren Aronofsky’s First Film ‘Pi,’ Sets Imax Re-Release on Pi Day (EXCLUSIVE)(2023/3/1,Variety,Rebecca Rubin)
傑作コンサート映画「ストップ・メイキング・センス」40周年記念上映でメンバー再結集(2023/9/18,映画.com)
Even Diehard Fans Have Never Heard Talking Heads’ ‘Stop Making Sense’ Like This(2023/9/21,IndieWire,Simon Thompson)


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