桜雨 ✎
「桜ももう終いだなぁ」
雨に濡れる桜を眺めながら芹澤が呟いた。
「なぁ土方よ。終いの頃の桜の花の中心が赤くなる理由を知っているか?」
芹澤は桜の枝を軽く撓らせ、花の香りを嗅ぐ仕草をしながら俺に問うた。
「いえ…」
俺が短く答えると、芹澤は笑いながら言葉を続けた。
「ぶわっ!良いねぇ、嫌悪丸出しで。お前は本当に分かりやすい」
「…」
どんな瞬間もこの男と馴れ合うつもりはない。
だからどんなことを言われても、無関心を装うつもりだった。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、芹澤は俺の顔を覗き込む。
「………」
あからさまに目をそらすと、芹澤は高らかに笑いながら言葉を続けた。
「桜の花の中心が赤くなるのはよぉ…根の下に死体が埋められているからだ」
驚きのあまりに顔を上げた
ニヤニヤと笑う芹澤と目が合い酷く嫌悪感が湧き上がってきたが、それよりも真相を知りたいという好奇心の方が勝り、目がそらせなくなった。
「間違いない。俺は埋めた事があるからな。その桜の木は散り際が近づくと、死体の血を絞りとったかのように花の中心が赤くなった。死してもなお自分は此処にいると…殺られた奴の断末魔の叫びなんだろうよ」
「くだらねぇ…」
俺はそう呟いたものの、脳裏には死体を埋める芹澤の姿が鮮明にあった。
「信じるも信じないもお前の勝手だ」
芹澤は笑いながら先を進む。
俺は立ち止まり、雨に濡れた桜の木を見上げた。
「何時か…何時か俺が芹澤を殺った時、お前の足元にあの男を埋めたらお前は一等赤く染まるのか?」
現実と非現実の区別がつかないような、そんな可笑しな気持ちを振り払うように首を振り、桜に背を向け俺は歩みを進めた。
ꕀ꙳
3年前にアメブロにて掲載しましたSSを加筆修正いたしました
※アメブロは別名で書いています
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