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アマガエルセラピー 05

ケロケロレスキュー隊

 東日本大震災の翌年、四半世紀暮らした都内から房総半島に疎開しました。賃貸契約した海辺に建つリゾートマンションの裏手には住宅地と田んぼが混在し、すぐ向こうに見える丘陵まで広がっています。

 毎年春分の日前後、早稲の田んぼに水が張られると、春の風物詩といえるアマガエルの求愛の合唱が始まります。まるで地鳴りのように響いてきますが、4つ打ち好きの私には規則的なループ感が心地よく、寝入りばなのチルアウトにぴったりです。

 夜ごとの合唱もいつしか終わり、梅雨に入るころから、マンションのあちこちで変態して間もないチビガエルの姿を見かけるようになります。目当ては照明に集まる羽虫です。エントランスのガラス扉にくっついていたり、共用廊下や非常階段の手すりで獲物が近づくのをじっと待っていたりします。じっと待つのはカエルの特技です。

 一番近い田んぼまで50メートルはあります。カエルにとっては相当な距離を移動してくるのです。しかも、目の前の掃き出し窓にヤモリのごとく張り付いていたときは、ここ4階なんだけどとツッコミを入れつつ、行動範囲の広さにたまげました。

 哀しいことに、亡骸にもよく遭遇します。駐車場で轢かれていたり、冷房の効いたエントランスホールに入って低体温で息絶えていたり。天敵も少なくありません。カエルを狙ってプールサイドに現れるヘビを退治するのは管理人さんの夏のルーティンワークです。ゴミ捨て場でカラスにくわえられているのを妻は見たこともあります。

 さらに、ネオニコ系農薬のせいでしょうか、数が年々減ってきています。このままではいけないと思い立ち、弱った子を保護する活動を始めました。楽園に招聘し、水と餌をやり元気回復を促します。ケロケロレスキュー隊の活動には妻も協力的で、保護が必要なカエルがいるとただちに知らせてくれます。

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