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小説 カフェインpart30

ミュージシャンにCD-Rを送り付けたと手記には書いてあったけど、一体誰に、どんな曲を送ったのだろう。電波ちゃんのカフェインが大好きな人に贈った音楽って。なんだろう。
ラブレターってことだよね。わたしはカフェインが聴いていた音楽に強くないから誰に送ったのか見当もつかないが、本人が聴いたりしたのか、気持ち悪いファンって認定されていたはずのカフェイン。今無性にカフェインの声が聴きたくなった。
馬場君とよく音楽の話をしていたと涼子さんは言っていた。彼に聞けばヒントが得られるかもしれない。
明日は久々に施設に行くことにして就寝前の何錠かの薬を麦茶で飲み干そうとしたが、喉に張り付いて苦しい思いをした。
 
翌日、久々に施設に顔を出した。いつもより人数が少ない。
カフェインと馬場君は二人でよく語っていた。
「馬場君、軽音楽部だったんすか、何の楽器やってたの?ドラム渋いね、でもドラムがしっかりしてないバンドって聴いてても面白くないから、ドラムって結構重要だよね。ドラマー尊敬するわー。」
朝一、施設に来ていた、二十代前半の馬場君に聞いてみる。
「池田さんの好きだったミュージシャンですか?幅広く邦楽を聴いてた印象ですけど一番はまってたのは多分アイシーじゃないですかね。夏にバンドTシャツ着て来たことがあります。その時少し話したんですよ。池田さんはアイシーでは踊れないんだけど、そうの時でもうつの時でも聴けるのはアイシーだけかもしれないって。」
「アイシー?」
「アイシー,ユーアーソーロンリーってバンドです。結構人気があったんですよ。」
池田さんの好きだった、やっぱりカフェインを過去のことにして扱っている。
「馬場君も好きなの?そのアイシーとかっていうバンド。」
「俺たちの世代よりももう少し上の人たちが聴くっていうか。でも人気はありましたよ。もう解散してるけど。」
「その人たち、スタジオコーストでライブやったりしてた?」
「やったことあると思いますけど。確か、池田さんがよく観に行ってたって言ってましたよ。」
施設のパソコンでアイシー,ユーアーソーロンリーの動画を観させてもらう。唄ってる男は前髪が長すぎて顔があんまり出ていない。暗いが光が効果的に使われたPVだ。一瞬ヴォーカルの眼が露わになる。切れ長の一重の眼が印象的なのにどうしてこいつは顔を隠してるんだろう。
「馬場君、何でこの人髪ぼさぼさなの?モップみたい。ちゃんとしてれば結構ハンサムなんじゃないの。」
「ストーカーに追い掛け回された経験があってそれが嫌だったので顔を隠すようになったそうですよ。」
おいおい、カフェインのことじゃないだろうな。
「かなり前の話だそうですが。アーティストも大変ですよね。でもこのヴォーカルの人、一年前に亡くなったんですよ。心不全だったかな?それでバンドも解散しちゃったんです。」
これか、これが理由なのかカフェイン。よくある話じゃない、好きなアーティストやアイドルの後追いで自殺とかさ。
「あのさ、池田さんの施設って唄あったじゃない?あれって音源残ってないの?」
「残念ながら録音はしていなかったんですよ。でも池田さんの曲ならここのiTunesに入っていますよ、一曲。」
「なんで?聴けるの?」
「はい、聴きますか?以前CD-Rを持ってきてくれて暑気払いの時に流してくれたんですよ。その時に取り込んだんです、俺気に入ったから。」
音楽教室の時にカフェインが自分で曲を作ったCD-Rが一枚だけあるんだけど、みんなに聴いてもらって面白いかどうか判断してほしい、暑気払いの時に持ってくるから聴いてくれないかとお願いしたらしい。それをプレゼントしたい人がいるからと。みんなの前でネタ見せはしなかったくせに、自分が作った音楽は聴かせるなんて勇気のあることだ。
「聴かせてくれる?お願い。」
馬場君にパソコンを操作してもらった。
下手くそなベースの音が聴こえ出す。
 

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