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小説 カフェインpart33

 中古屋でアイシー,ユーアーソーロンリーのファーストアルバムを買ってきた。値段は定価より高くなっていたから、手に入りにくいのかもしれない。ジャケット写真ではラヂヲが横向きに椅子に座っている、黒いTシャツ、黒のパンツ、足元は黒のコンバースだった。
 
この声の持ち主もこの人を愛した女の子ももう世の中にいない。
ねぇ、死んだらおしまい?何になるの次には。輪廻転生とかあんのですか。わたしは死ぬのが怖いですよ。とってもとっても怖いですよ。自分がどうなっちゃうのか、体と魂が離れてく感覚どんななのか。全然予想がつかないや。
 
今朝の空は奇妙な雲をたたえてなんともいえない嫌な色
振袖火事がたくさんのもの焼いていきました
不思議な形のこの町で
あつく消滅していくことで全て失うことで
火の粉を撒いて散っていった命を華だというのなら
真っ赤かい?極楽の方 痛みももうないことでしょう
あどけない顔のまま そっと焼かれていったのかい
もう君を汚すものはありません
 
ラヂヲさんが摂理という唄を唄っている、ギター混ざり合う、ピアノとドラム、カフェインの数千倍は上手なベース。
いいバンドじゃん、一生聴いていればよかったのに、布団の中でも、そうになった時にでもさ。そんでばばぁになるまで善行をつんでさ天国でラヂヲさんに逢えたら、しでかしたことを謝ればよかったじゃん。ライブで一緒に唄っちゃっても別にアレな人と思われただけっしょ。結婚してーとか叫んでるファンもいただろ。

ねぇカフェイン。あんたがとても好きだったよ。涙が一粒も出なくたって悲しくてたまらないこと、伝わってるよね。あんたの大切なノート盗み見てごめん。わたしさ、自分がよくわからなくなりそうで怖かったの。あんたのことを確認したかった。ごめんねとしかいえないけど。金も欲しかったし。あんたの人生ごと盗み取るつもりでいたんだよ。力がなくてできなかったけどさ、わたしはあんたにはなれないし、あんたもわたしのこと全部知ってたわけじゃない。
恋も狂気もたいして変わらんでしょ、カフェインのこと、わたしは何にも知らない。それでいいんだろ。あんたが黒いコンバースばっかり履いていたのはラヂヲさんとおそろい気分だったのか。
「コンバース幅狭いんすよ自分スリーEのだんびろ足だからコンバースのサイズメンズになっちゃうんだよな、でもこればかりはやめらんないっすよ。」
「ふーん、バンズの方が幅あって履きやすくない?それかニューバランスとかさ、靴は歩きやすいのが一番っしょ。」
「たしかにそうなんすけどね、まじないみたいなもんすよ、黒のコンバース。」

あの時カフェインはきっと乙女の表情をしていたに違いない。似合わねぇ。でもピアスじゃらじゃらのあの子、ベリーショートのあの子、骨太なあの子、ごつごつした手を持っていたあの子、馬鹿話しかしないあの子それだけがわたしのカフェインでいいや。

施設の日帰り遠足で行った浅草。雷門の前で二人で撮った写真の中でカフェインとわたしが笑っている。

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