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週末

9月。
今日も今日とて、知り合いとの待ち合わせの時間に
なる前に、近所のマックへ行く。
そういえば、今は月見マフィンがあったっけ。

手短に会計を済ませ、窓の外を見る。
台風は過ぎ去ったはずだが、空は曇天のまま。
どこまでも雲が広がっている。
雲の隙間から見える青い空が、隠し穴のように見えた。
もし、神様が本当にいるとしたら、ここから我々の
善行も悪行も丸見えなのだろう。
神様という存在は、時に恐ろしく感じる。

しばらくして、注文した月見マフィンセットが届く。
「すみません、これ」
アイスコーヒーのシロップとミルクを店員さんに渡す。
僕は無糖派。
店員さんは勿論、それを知る由はない。
当然だろう。
仮に常連だとしても、僕も店員さんも、お互いの
ことを全くと言っていいほど知らないのだから。
強いて言えば、店員さんは、僕がぶっきらぼうな
性格なことと、僕は店員さんが少し嫌な顔をされた
ことをお互いに知ったことぐらいだろうか。

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トレーを持って席に着く。
月見マフィン、ハッシュポテト、アイスコーヒー。
そして、おまけにソーセージマフィンを一つ。
小腹が空いた時は必ず小さめのバーガーを追加する。

僕は、朝マックが好きだ。
朝だというのに、少し脂っこいジャンキーな感じが
クセになっている。
曲がりなりにも健康を商材に扱う会社で働く身で
ありながら、真逆のことばかりしていると実感する。

朝マックといえば、小学生の頃、父が毎週末必ず
ドライブスルーでソーセージエッグマフィンと
ハッシュポテトを買ってきてくれた。
週末の朝ごはん、家族揃って朝マックを食べる時間
が心地よく、好きだったことを覚えている。

現在は、週末になると皆バラバラに行動するように
なった。
仕事へ行くもの、友達と遊びに行くもの。
気づけば、家には自分と猫1匹という日が多い。
何か鳴き声が聞こえると思った時は大概、猫が母を
探して家中をウロウロしている時だ。

家族の団欒、最後にしたのはいつだろう。
祖母が亡くなった時だろうか。
もう何年も前の話だ。
何を食べ、何を話したか、ほとんど覚えていない。

そういえば、もうすぐ祖母の命日だ。
あの世で元気にしてるかな。
自分はおばあちゃん子だったから、あの日のことを
思い出して、今でも悲しい気持ちになる。

祖母は、やることなすことを全て褒めてくれた。
数少ない理解者を失うというのは、精神的にもかなり
来るものがあるとテレビでよく言われていたが
まさにその通りだった。
胸が締め付けられる思いは、どうやら何年経っても
取れそうにないらしい。
このままずっとなのかもしれない。

最近、昔話を思い返すことが増えてきた。
ラジオ投稿を主としている僕にとって、昔話は
貴重なネタとも言える。
だが、およそ人に話せるような美談もないし、特に
これといったイベントもない。
むしろ思い出したくないような嫌な記憶が多い。
いじめ、いじめ、いじめばかり。
今思い出しても、憂鬱になる。
思い出したくない、忘れたい。

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物思いに耽っていると、少し雲が晴れてきた。
初期のソニックのような薄青色の空。
不思議なもので、空が晴れると気持ちも少し晴れる。

トレーの上も空になった。
勢いそのままに食べていたらしい。
月見マフィンの味、よく分からなかったな。
また食べに行こう。

スマホを開き、時間を見る。
そろそろ待ち合わせの時間だ。
腰を上げて、待ち合わせの場所へ向かう。

今日はどんな発見があるだろう。

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