難病を乗り越えるためのHipHop
2018年10月4日。僕はこの日を生涯忘れることはないだろう。
この日は持病である再生不良性貧血が発覚した日。僕にとって10月4日は二度目の誕生日のようなもので、価値観や環境が大きく変わり、人として生まれ変わった日と言っても過言ではありません。
今回は、4年生き延びた記念(?)にこの病気と戦う上で助けになった、僕が大好きな文化であるHipHopをどう闘病に活用したのかを書きたいと思います。
持病について
まず簡単に持病の簡単な説明と経緯の説明を。
4年前、29歳の時からこの再生不良性貧血という国の指定難病を患ってます。
血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。ほとんどの場合原因不明で、僕も同様です。また治療方法も確立されていません。
また、日本に同じ病気の方は約1万人、毎年100万人あたり約5人※1の方が新たにこの病気に罹るとされる非常に珍しい病気です。
僕は最も重症度が高い状態(ステージ5激症例)で見つかり、当初は予後不良※2とされていました。
免疫を司る白血球(好中球)がほとんど0になり、無菌室で過ごし重度の感染症と隣り合わせの状況が続きながらも、なんとか乗り切り今は病気前に近しい生活を送っています。
詳しく知りたい方は、マガジンあるのでご覧下さい。
この病気と闘う上で助けになったのが、僕が敬愛しているHipHopという文化です。
このHipHopがあったことでメンタル面が改善され、闘病にも前向きに取り組めたと考えています。
※1: 慶應義塾大学医学部血液内科HP より
※2 治療の見通しが良くないこと
HipHopとは
前提を揃えるために簡単に説明を。
HipHopは1970年代にニューヨークのブロンクス地区で低所得の黒人の中から生まれた文化です。主に4つの要素であるDJ、MC、グラフィティ、ブレイクダンスから構成されています。
現在では世界中に拡散されていまや国や人種や所得など問わず愛されており、世界で最も聞かれる音楽ジャンルになっています。
HipHopは声なき者たちの声を代弁する
HipHopは低所得の黒人から生まれた文化的背景から、劣悪な環境に生まれ育ち戦っている人が多く属しています。生まれながらにして資本主義に属することができないことが大半で、声なき者のための文化とも言われます。
このような背景を日本人でも体験できる作品として、1994年にリリースしたNasの「illmatic(イルマティック)」というアルバムを紹介します。
HipHop好きには説明不要ですが、Nasはニューヨークはクイーンズブリッジという地域の「プロジェクト」と呼ばれる大型の公営団地で育ったラッパーです。
この「illmatic」は所謂ゲットーで育った黒人の青年が、容赦なく訪れる辛い現実を目の前にしながらも、富を夢見て懸命に生きる姿がラップされていています。
その完成度の高さから、クラシック(不屈の名作)と呼ばれています。
このアルバムの中でも印象的な曲が、実質的に1曲目を飾っている「N.Y State of Mind」です。当時の日常を誇張することなく細かく描かれている曲。
その中から一部歌詞を抜粋します。
知性の壁を越えたところで、人生が決まるんだ
というのは必死で勉強してプロジェクトから出ても、プロジェクト出身の黒人がなれる職業なんてたかがしれてる=人生が決まっている。だから、犯罪に手を染めるんだという意味らしいです。
この現実を受け入れることができず
whenever frustrated i'm a hijack Delta
イライラした時にはいつでも俺はデルタの飛行機をハイジャックする
と感情を爆発させます。
この歌詞からストリートがどれだけ過酷か、なぜ犯罪に手を染めてしまうのかが分かるではないでしょうか。
元々悪いのではなく、環境がそうさせてしまうのです。
HipHopを聴くことで視野が広がる
Nasの例からも分かるように、HipHopは人生で起きた出来事や周りの家族や友達のこと、自分の思考法をラップしていることが大半です。
リスナーは曲を通じて、ラッパーの人生や生活、考えの根幹にも触れることができるのです。
他人の経験というものは、その人特有のものなので、慎重に接する必要はあります。国も人種も全然違う場合もありますし、安易に共感したと言いにくい部分もあります。ただ自分との共通点を見つけたり、自分なりに考えたりすることはいいのではないでしょうか。
僕は病気の発覚当初、全く現状を受け入れられない中、救いを求めて一人病室で狂ったように曲を聴きました。
多くのラッパーと曲を通じて触れ合ってみて感じた共通点としては、資本主義から締め出されてしまったこの現実を受け入れて、なんとか抜け出すしか道がないということでした。
29歳の若さで難病になるというのは、受け入れるのに非常に時間がかかりました。まだ不摂生が原因なら、受け入れることができたかもしれません。僕は原因不明で、いきなり死と隣り合わせという現実に直面するのです。
またこの時期は、人生の方向性が定まり始める時期。
仕事をさらに頑張る人、結婚し家庭を生活の中心に据える人、地元に残り頑張る人、ひたすら好きなことを追求する人…
この重要な時期に、半ば強制的に人生を止められるのは、精神的に負荷が大きく腐ってしまう可能性が高い環境でした。
でも、そんな時に僕にはHipHopがありました。
世界中のラッパーの言葉を吸収することで視野が広がり、この環境を相対化することができたと考えています。
自分は悲劇のヒーローだと塞ぎ込んでいましたが、マイナスから上がっていくのはみんなと同じだし、俺も頑張ろうかなと思えました。
こう捉えられるようになった瞬間は今でも覚えていて、視野が大きく広がり、後ろ向きであった治療にも積極的に参加するようになりました。
他国の文化を別の文化圏の人間が参考にするなという人いるかもしれません。
でも、僕はHipHopに救われました。今後もどういう形であれ関わっていきたいし、同じような境遇の人には是非触れて欲しいです。
闘病中に聴いていたベストソングTOP5
参考までに闘病中によく聴いていた曲を5曲紹介します。全ての曲に共通して、低迷に対する考え方や解決策が記されています。
合わせてパンチラインと呼ばれるラップの中で1番の聴きどころも載せておきます。どれか響くものがあれば良いのですが。
NORIKIYO - 俺達の唄 feat.MACCHO
NORIKIYOとMACCHOがある悩みに対しカウンセリングをしてくれるのように寄り添い、語りかけ、共感してくれる楽曲。メンタルヘルスやSNS依存に悩む人を対象にしていると思われます。
画一的に頑張れというのではなく、もしかすると俺ら一緒かもしれないというスタンスで接してくれるのはHipHopならでは。厳しさの中に優しさも感じる応援ソング。
RHYMESTER - ONCE AGAIN
この曲はキャリアの中盤を迎えたRHYMESTERというグループが、今を受け入れもう一度やり直し立ち上がることがテーマに歌われた曲。
特にサビのこの言葉が印象的で何度も救われました。
必ず自分のターンは来る。でも、前向きに過ごしていないと流れに気付かないよということだと解釈してます。
NORIKIYO - 瞬き
この言葉に何度も救われました。曲のテーマとしては創作のことを書いていると思いますが、僕はこれを人生と捉えて聴いていました。
今辛いことも先に行くことでしか価値は分からないし、できれば価値ある体験にしたいので、できることを最大限やって進んでみよう、という気持ちになりました。
Haiiro De Rossi - Forte
この歌詞にも救われました。現状維持するのではなく、不安やリスクを受け入れて人生楽しんだ方がいいのと無理やり自分に刷り込みました。笑
闘病というのは時間との戦い。時間が経つのを待ち続けるという側面もある中で、この歌詞にも姿勢を正してもらったと思っています。
Logic - 1-800-273-8255 feat. Alessia Cara, Khalid
メンタルヘルスに悩む人々に対し、自殺ではない選択肢があることを強く訴える自殺防止ソング。曲名になっている1-800-273-8255は全米自殺防止ネットワークのホットラインの番号になっています。
僕の場合は自殺しようとまではなっていませんでしたが、治療がしんどそうだし投げ出してこのまま死んでもいいかな…と思っていたので、その時に支えてもらいました。この曲を一人で病室で聴いて大泣きしたのを覚えてます。
ちなみに、Youtubeの字幕をオンにすると、日本語訳が見ることができます。
今回の曲と合わせて、僕が闘病中によく聴いていた曲をまとめたプレイリストがありますで良ければ聴いてみて下さい。
最後に
長くなりましたが読んでいただきありがとうございました。同じような境遇の方がいたら是非HipHopに触れてみて下さい。
この記事では触れていないのですが、予後不良で良くない状態が1年近く続いてました。しかし、治療をすべて前向きにやって粘っていたら、タイミング良く新薬が出て、奇跡的に元気になることができています。人生何が起こるか分からない。
当時の担当医や看護師さん、友人、家族、製薬会社、献血に行ってくれた方など関わった人すべてに感謝。
今も同じ病気と闘ってる人もいるので是非献血と骨髄バンクの登録をお願いします!命救えます。
追記
闘病中に聴いていたベストソングに挙げたラッパーHAIIRO DE ROSSIさんと脳出血と闘うラッパーbay 4 Kさんにコメントいただきました。
こういうこともあるので、率直に思いを発信してみるもんですね。
参考文献
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