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Frank Sinatra-In the Wee Small Hours

本日ご紹介するのは『In the Wee Small Hours』。1955年発売。ブルーバラード史上に残る名盤で、彼の全作品中で最高と言われることもあるほどのアルバムだ。全米2位を記録。これまでと違い30センチLPなので、16曲も収録されている。ゆっくりと鑑賞していこうではないか。

まずはジャケットの美しさに惚れ込んでしまう。ここで描かれている通り、孤独な男の悲しさ、虚しさを表現していくのがこのアルバムである。


【感想】

まずは表題曲の”In the Wee Small Hours of the Morning”。wee small hoursというのは午前1時、2時頃の深夜を指す言葉らしい。アルバムリード曲にふさわしく、まさにこのアルバムを象徴する作品である。このシナトラ版がオリジナルで、スタンダードとなった。

続く“Mood Indigo”はシナトラが取り上げた数少ないデューク・エリントンのナンバーの1つ。途中で間奏に入らずに強く歌い出し、Noを10回以上繰り返すのが非常に印象的だ。

4曲目の”I Get Along Without You Very Well”もまた、涙無しには聴くことができない大傑作。作曲は“Stardust”や”Georgia on My Mind”を書いたホーギー・カーマイケルである。
あなた無しでも上手くやっている。でも雨が降り、それが葉から落ちるとき、不意にあなたのことを思い出してしまう・・・・・という風に、あなたを忘れられない苦しみを歌う。儚く美しい、触れたら消えてしまいそうな曲である。

ひとりの男の苦悩はどこまでも続く。“I See Your Face Before Me”では全編を悲しみが包む。”Can’t We Be Friends?”ではヴァースを強く歌うが、そこにすら寂しさを感じる。

A面の最後は”When Your Lover Has Gone”。愛する人がいなくなった時の絶望感、人生の空虚さを痛切に表現した作品である。このアルバムにぴったりの選曲。


ここからB面に入る。コール・ポーターの”What Is This Thing Called Love?”をシナトラは低音を用い、非常に遅いテンポで丁寧に歌い上げる。

“Last Night When We Were Young”の評価については意見が分かれるところか。確かに曲自体はアルバムの空気感にマッチしている。しかし、クライマックスの伴奏はやり過ぎだと思う。シナトラの歌も主張しすぎている。前半は完璧なので、そのまま抑えて終わる方が良かったのではないだろうか。私の感覚ではこの曲だけが異質な感じ、このアルバムにあっていない感じを受けてしまう。調べてみると、この曲だけ録音時期がズレているらしい。このアルバムのコンセプトが打ち出されるよりも前に録音されたものをそのまま使ったということだろうか?まさに画竜点睛を欠くと言ったところ。

“I’ll Be Around”は他の曲に比べるとそれほど暗さが押し出されていない。その代わりに、シナトラの声の表情というものを特に感じ取ることができる。それは単なる音の強弱ではない。微妙な震え、息遣いとでも言おうか、文字としては書き表すことができないレベルの感覚なのだ。

13曲目の“It Never Entered My Mind”は私の最も好きなスタンダード曲の1つ。『Put Your Dreams Away』に収録された1947年の録音とは異なる表現をしている。当然ながら、このアルバムのコンセプトに合わせてアレンジも歌い方も変えているわけだ。
シナトラは時に同じ楽曲を何度も録音する。もちろん、それらを比較してどれが一番良いかを選ぶのも一興だ。しかし私は、録音ごとのシナトラの解釈の変化、つまり同じ曲をどのように差別化しようとしているかという点に興味がある。

“I’ll Never Be the Same”はこのアルバムの中では地味な部類だが、完璧な仕上がりになっている。

ラストは”This Love of Mine”。シナトラ自身が作詞をした珍しい曲である。あなたが行ってしまってからというもの私の心は空っぽ、しかし愛はどこまでも続く・・・・・という内容の詞だが、シナトラの歌唱から希望溢れる未来を感じ取ったのは私だけではないはずだ。悲しみから脱却できる微かな予感を残して、このアルバムは締め括られる。


【総評】

このアルバムを語る時、フランク・シナトラと女優エヴァ・ガードナーとの関係について触れないわけにはいかない。1951年に結婚した2人の仲は、シナトラの浮気癖などにより悪化していた。このアルバムはそんなシナトラのエヴァ・ガードナーへの痛切な想いから生まれた作品である。上辺だけの悲しみではない。本物の悲哀がそこにあるのだ。それがこのアルバムを真に素晴らしいものにしているのだと思う。傑作。


【この3曲】

このアルバムはあまりにも素晴らしすぎて、1曲に絞りようがない。なんとか3曲まで絞り込むことが出来たので、【この3曲】ということでお許し願いたい。


まず1つ目は”In the Wee Small Hours of the Morning”。これを聴かないことにはアルバムは始まらない。




2つ目は”I Get Along Without You Very Well”。こちらは後年のライブ映像をお楽しみいただこう。聴いているうちに敗北者の世界に引き込まれていく完璧な表現だ。



3つ目はアルバムの最後を飾る”This Love of Mine”

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