単純作業は難しい

学生時代、焼き鳥屋でアルバイトをしていた。理由は、時給がいい事と、賄いが食べれるという、男子大学生あるあるなものだった。

面接に行くと、無条件でキッチンスタッフになった。見てくれが悪かったからホールスタッフではなくキッチンに隠してやろう、という理由ではなかったことを信じている笑

けれども、まあ、キッチンなら包丁の使い方がうまくなるし、料理が作れるようになれば、モテそうだし、いいかなと思ってバイトをすることに決めた。

板前がするような白いコック服を渡され、着てみると、なんだか雰囲気がでる。大トロでも握ってやろうか、という気になったが、握り方もわからないし、焼き鳥屋だし、そもそも入ったばかりだから店長の指示に素直に従うことにした。

店長に、「焼き台」行くよう言われた。焼き鳥屋にとって、焼き台とは、つまり、焼き鳥を焼く場所。花形である。

こいつ、俺のセンスを見抜いてやがると思いながら、意気揚々と焼き台へ向かった。

すると、どうしたものか、そこにはねじり鉢巻きをした頑固そうなオヤジがいた。

おっと、どうやら焼き台は2つあるのだと思い、場所を移動しようとしたところ、ねじり鉢巻きをオヤジに「よろしく」と言われた。どうやら、焼き台は一つしかないようだ。

しかも、よくよく話を聞くと、私の作業は、焼き鳥を焼くのではなく、「焼き鳥を冷蔵庫から出して、ねじり鉢巻きオヤジに渡す」というものらしい。

全く意味がわからなかった。
科学の進歩が著しいこの時代において、そんな職業があるのだろうか。そもそも、1人でやった方が早くない?と心の声が飛び出しそうになった。

そんなこんなで、私は、焼き鳥屋で焼き鳥を渡すバイトをはじめた。

こんなわけのわからないバイトだが、やってみると非常に難しかった。
繁忙期は飛ぶように焼き鳥が売れ、1秒でも早く焼き鳥を渡さないとねじり鉢巻きオヤジに怒られた。冷蔵庫とオヤジの間に立ち、洗濯機のようにぐるぐる回っていると、いつも喉がカラカラになっていた。「お前、やる気あんのか?帰れ!」と怒鳴られた時には、「なんで、二十歳にもなってこんなに怒られないといけないんだ」と、自分の未熟さに本気で落ち込んだ。

そんな変わったバイト生活の中で、学んだことがある。

それが、「同じことを繰り返すのが一番早い」というものだ。

いくつかの作業手順がある場合、1つの作業を何度も繰り返してから、次のステップに行き、またその作業を繰り返す、それの繰り返しが一番効率的であるというものである。

例えば、焼き鳥を早く提供しようと思ったら、とにかくひたすら冷蔵庫から、焼き鳥をタッパーに取り出す。次に、タッパに乱雑に置かれた焼き鳥を、オーダー順に、ねじり鉢巻きオヤジが焼きやすいようにひたすら並べる。オヤジに渡した後は、ひたすらお皿を並べてまくる。オヤジが一気に焼き鳥を焼き上げたら、最後に並べられたお皿に焼き鳥を盛り付ける。

これは、最高に早い。

ある程度の数の焼き鳥を、毎回冷蔵庫から取り出して渡し、焼きあがるごとに、お皿を取り出していたら大変なタイムロスである。

約2年間このバイトをしていたが、最後はまるでシンクロナイズドスイミング日本代表のようにねじり鉢巻きオヤジと息ぴったりになっていた。

単純作業は、退屈だ。
ロボットが当たり前となった今、人間が単純作業をやる意味がなくなりつつある。
しかし、単純作業の効率化をはかることは難しい。プロセスがシンプルな分、本当に工夫しないと、目に見える時間削減にならない。

やっているときは、「焼き鳥食べてぇ」と「ホールの女の子と話してぇ」をエンドレスリピートしていたが、今思うとこれ以外にも学びが多いバイトだったなぁ。

焼き鳥食べたいなぁ。




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