(50)日のエヌー

これは架空の物語で、実在の人物との類似は偶然である。特にN男について。あのクソ最低野郎…。

これは女が男と出会って、女がヤリ捨てされる物語。
もちろん恋愛物語なんかじゃない。

C子は、男を見る目のないアラフォー女。
イケイケなモテ系男には全く興味がない。
映画や小説の考察が大好き、服もメイクもインテリアもこだわりのある面倒くさい女。
でも、少女漫画で育った彼女は、いつか運命の人に
出会えるって信じている。今でも。

N男は、おぼっちゃま育ちで一人称が、“ぼく”。
物腰が柔らかく誠実そうだけど、笑顔で怖い事が言えるイキリヲタ系。車も服もこだわりなく、お金をかけたくない。
Fラン大学を卒業後、ずーっと同じ会社の営業。確かに営業向き。NHKのアナウンサーにいそうな出で立ち。
N男は、当時10代の女の子に手を出して結婚したけど、不幸な事に死別して5年。
つまりは、一見はセカンド童貞で、モテない男って事。

C子はN男と出会った時に、こんなもんかなって感じた。好きになるかも知れないけど、ならないかも知れない男。

でも「居場所を作ってあげたい」っていうN男の言葉にはグッと来た。だって彼女はDV家庭に育って、安心できて頼れる場所を持った事がなかったから。
「これが運命なのかも?」とC子は思った。

【50日目】
C子は婚活系アプリに再び登録した。
出会いたい訳じゃないし、出会いなんて2度と信じない。
ただ、男で自己肯定感を埋めたいだけだ。
マッチングアプリなんて、妖怪の中から人間を探すゲームと同じ。300人に1人くらい人間がいて、相手がこちらを人間として認めてくれるのは、さらにその10倍くらいの確率だ。妖怪に群がられて、時には失笑したり嫌悪感を感じるけど、自分が人間だと認められるのは嬉しい。
だって、好きになった男に存在を全否定されたんだから。

【0日目】
C子の大学時代の数少ない友人、S太が結婚していた。5月にはパパになるそう。C子はS太は結婚しない人だと思ってた。疎遠になってはいたけど、誰かを否定するのを見た事がないS太に、C子は信用を置いていた。
自分のモデルとしての宣材写真をお願いしたのも、S太のカメラの腕と人柄を信用していたからだ。
撮影当日は、学生時代を思い出してC子は楽しく伸び伸びといられた。受け取った写真も今のC子らしさに溢れていた。
撮了後、焼肉ランチをしながら1杯だけハイボールを交わし合う中で、C子はS太の結婚式の写真を見せてもらった。

C子は、結婚できない女だと自分の事を思っていた。個性も気も強く、男が好きじゃない。多少容姿には自信はあるが、いわゆる“穴モテ”で、誰も本気でC子の事を口説きに来ないからだ。C子もC子で、そういった男たちにはせいぜい1晩の酒を奢らせて、適当にあしらって、キス以上の関係は許さない主義だった。

だけれど、S太の結婚式の写真を見て、嬉しくて感動して泣いてしまった。大切な友人がみんなに祝福されて、S太に可愛らしく素敵なお嫁さんができた事、新しい命を繋いでいる事、全てが素晴らしいとC子は思った。

それに2024年になってから、何度も男性と深いキスをする夢を見る。その生々しい感触に、C子はいつも驚く。夏に恋愛と友人絡みで傷付いてから、もう恋愛はしないと決めていたC子だが、心が揺らぐのを感じていた。でもわ誰にも期待なんてしない、私は私ひとりで生きていくと決めたのだ。今の生活は常にお金に困ってはいるけれど、幸せだった。大切な友人、大好きな自分の部屋、可愛い愛猫、好きな時に働いて、趣味にいつでも没頭できる毎日。誰にも干渉されずに、縛られずに、胸を締め付けられる事もなく、穏やかな心でいられる日々をC子は愛していた。

でも、今のこの幸せのまま誰かといる事もできるんじゃないか、C子そのものを受け入れてくれる運命の人を探す時期が来たのではないか感じていた。

【1日目】
C子はやると決めた事は素早い。
早速、中高年世代のマッチングアプリについて調べた。過去に男女ともに有料のアプリに課金し事のあるC子としては、それはお金の無駄以外の何ものでもなかった。無料の出会いも有料の出会いも質は同じだ。できれば、職場や友人を通じて出会いたいが、C子のライフスタイルでそれは叶わない。
アプリでしっかりとやり取りを交わして、会った時にもお泊まりはしない、付き合っても2ヶ月間はお試し期間だと思えば、傷は浅くて済む。
LINEやSNSも会ってから交換した方がいい。とにかく慎重に行動すれば、おかしな事に巻き込まれるリスクは少ないとC子は考えていた。
女性無料、シンママ・シンパパ・再婚に特化したアプリがあるようだった。C子は、相手の過去は気にしない。バツがあろうと子供がいようと、相手がC子を受け入れてくれるかどうかが大事だ。それに、相手に子供がいても、母親になる覚悟は持っている。
既婚者は論外、嘘つきも論外。そして、C子が相手に惹かれるかどうかが大切だ。時間はもちろんかかるだろう。でも、まずは動き出す事自体が、C子にとってベストタイミングである事を告げていた。

読んでくれてありがとうございます。
たぶん続きます。


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