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はんなり???!!!着付師物語 第6章④ひょんなきっかけを掴め!

 未来の仕事は軌道に乗り始めた。東京をはじめとして、襟付けレッスンをきっかけに全国から声がかかった。声が掛かれば、沖縄であろうが離島であろうが、北海道でも出向いて行った。赤字にならなければ来てくれるという未来に、顧客たちは逆にちゃんとお支払いしたいからと、集客や口コミをしてくれた。地元大阪でも自宅の一階を使って固定のレッスンが始まった。ブログを見て、なんと海外からもオファーがかかりだした。
 忙しくなった未来のプライベートはというと、なかなか大変な状態だった。夫の母親が糖尿病を患っていて、未来は毎日食事を運んでいた。いよいよ、レッスンや出張、着付けの仕事が増えて、回らなくなりそうだったので、家を売って夫と義母と三人で賃貸マンションに暮らすことを決めた。その際マンションの間取りは重要だった。入り口から一番近い部屋に着付教室を置くとして、ダイニングやリビング、義母の部屋を通らなくて済むところに顧客が使えるトイレがあることが条件だった。しかも犬も猫も飼っていたから条件を満たすマンションがなかなか見つからない。何ヶ月も探したけれど結局、ここと思うマンションに出会えなかった時にあることを思いついた。
「いっそのこと、住むところとお教室、別々のマンションを借りよう。そうすれば、あなたとお母さんはゆっくり過ごせるし、わたしも用事済ませて自分だけ出るなら身軽だし、お客様も気を使わないからその方が良いね。」
未来たちは三人で住むのにちょうど良いマンションと着付け教室のためのワンルームマンションを同時に借りて引っ越すことになった。ところが、引越しの前日、義母は転けて骨折し入院することになった。引越し前日に入院手続きをし、2軒のマンションにそれぞれ荷物を運ぶドタバタの引越しとなった。そしてなんと義母は入院生活の中どんどん弱っていってそのまま帰らぬ人となった。
 義母のお世話のために引越しを決めたのに、結局義母は新しい居所に一度も足を踏み入れることはなかった。だから、その引越しそのものの意味が無かったように思って、その時はなんだか悔しい想いをしたけれど、後から振り返ると、自分の城であるお教室を手に入れるきっかけだったのだ。
 元々自宅で着付け教室を開催していて合間に家事をしていた未来にとって、慣れない間は、教室と家の往復も面倒なことだった。着付教室でレッスンをして合間に家に帰るのだが、すごくタイトな時、未来はなんと着物を着たまま自転車で往復してみた。これが思ったより楽で、自分が目指す「着物をもっと身近に、普段着のように着て欲しい!」と言う想いと理に叶っているからこれを続けた。
ある日、友だちとランチに行った時に、こんな話題が上がった。
「ねえ、知ってる?あの河川横の道をさ、自転車で滑走してる女が毎日出没するんだって!何者だろね。」
未来は一瞬絶句して、大笑いした。
「はははは、、、それわたしだよー。そんな噂になってるの?」
「えっ!?未来あなたなの?もうさ、有名だよ。派手な着物姿の赤い髪した女が猛スピードで自転車乗ってるってさ、、、おかしい、、、うふふふ、、あなたか、、なるほど、、、これからも続けてね。自慢するから、わたしの友達よって。」
 そのうちに、そんなファンキーな先生になら着付を習ってみたいと好奇心を持つ人、着付や着物の世界に踏み込む敷居が低くなった人たちが未来の教室に押し寄せるようになった。
本当に人生は、何がきっかけで展開するのかは知る由もない。意外と、思ってもみないところからチャンスはやってくる。ただやはりそれを活かすも殺すも本人の前に進もうとする姿勢や行動力なのだ。


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