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特集 石は拾っていいのか?

割引あり

石、数えれば有限だろうが数えているうちに増えていく物体。そのほとんどがかつて地球から吐き出された、星の活動の帰結である。地球内部の時間を内包している石……ほしくないわけがない!!ということで、石拾い専門雑誌の記念すべき初記事は「石は拾っていいのか」という問いから産声を上げたい。


知っておくべき石拾いの基礎知識

先に結論を言ってしまうと、日本で石は拾っていい。ただ、どこでもどんな石でも拾っていいわけではない。

石には所有者がいる

私が所有している石。もらった石なので前の所有者もいる。勝手に持って行かれたら泣く

実は日本のほとんどの石には所有者がいる。個人が土地を所有している場合を思い浮かべるとわかりやすい。その土地のものは許可なく持って行ってはならないし、採取のために勝手に侵入してはならない。土地の所有者が望むと望まないとに関わらず、石は土地に帰属するのである。それゆえ、誰かの家の庭はおろか、個人所有の山などからも勝手に石を拾ってはいけない。どうしても拾いたい場合は所有者の許可を得る必要がある。思い立ったときにそこら辺で気軽に石を拾おうと思ったら、まず街中や小さな山はNGと思って良いだろう。

自然公園の石は拾えるか

もうやめて紫外線!とっくに案内板のライフはゼロよ!

自然公園はその名の通りたくさん石がありそうだ。自然公園とは国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の3つを指す。自然公園内には民有地もあるため、自然公園のすべての土地を国や自治体が所有しているわけではない。一方で、火山は北海道の昭和新山を除き個人所有ではない点も押さえておきたい。自慢だが私は昭和新山の所有者と話したことがある。というか、読者のみんなも話せる。みんな、北海道壮瞥町の三松正夫記念館(昭和新山資料館)に行こう!

気象庁の『日本活火山総覧(第4版)Web掲載版』を見ると、日本には火山が110ある。そのすべてが自然公園に属しているかは不明だが、イメージ的には属していそうではある。とりあえず北海道の活火山20個を調べてみた。ちなみに、私は火山石専門の石を拾う者である。

  • 知床国立公園:知床硫黄山、羅臼岳、天頂山

  • 阿寒摩周国立公園:摩周、アトサヌプリ、雄阿寒岳、雌阿寒岳

  • 大雪山国立公園:丸山、大雪山、十勝岳

  • 利尻礼文サロベツ国立公園:利尻山

  • 支笏洞爺国立公園:樽前山、恵庭岳、倶多楽、有珠山、羊蹄山

  • ニセコ積丹小樽海岸国定公園:ニセコ

  • 大沼国定公園:北海道駒ヶ岳

  • 恵山道立自然公園:恵山

  • 所属なし:渡島大島

予想通りほとんどが自然公園に属していた。例外は無人島である渡島大島だが、無人島だから管理を必要とする自然公園に指定しなくても良いと考えたのだろうか。渡島大島へは船が出ていないから観光することもできないしもちろん石も拾いに行けない。なお、渡島大島には噴火により島民全員が亡くなった大変悲しい歴史がある。他県の火山については各々調べてほしい。紙幅の都合ではなく、我が北海道について詳しくなったので私はもう満足した。

ほとんどの火山が自然公園に属しているのならば、自然公園について詳しくならねばなるまい。先ほど自然公園には3種類あると述べた。ここでは私がよく行く国立公園に話を絞りたい。国立公園には3つの区分がある。

  1. 特別保護地域

  2. 特別地域

  3. 普通地域

1と2は問答無用で許可なく石を拾ってはならないと考えて差し支えない。そして美術作品制作のための石拾いで許可が降りることはないだろう。なぜなんだ……

私は大雪山国立公園内の十勝岳に登っているとき、目の前に広がる火山石の石原に感極まって環境省に電話をしたことがある。山小屋付近だったからかありがたいことに電波があった。環境省の担当者は学術目的以外での採取はできないと言った。それはつまり、美術作品として十勝岳にある石を使うことはこの国では許されないことを意味する。

私は食い下がらなかった。法に従順だからではない(従順です)。こっそり持って帰れば良いと考えたわけでもない。石は転がるからである。国立公園の外まで。

3の普通地域は、経験した範囲では拾ってもいいと言われることがほとんどだった。一方で、本気で石を拾うなら管轄の環境省と自治体(支庁など)に電話で問い合わせることをおすすめする。経験上環境省は飛ばしても良い気がするが(だって返事はいつも「普通地域なら基本的にOKだけれど自治体ごとにルールがあるから支庁に聞いて」なんですもの)、作品として世に出すなら丁寧に行っても良いだろう。私は電話で石拾い関連の問い合わせをして嫌な目にあったことは一度もない。なお、自治体ごとのルールとは例えば問答無用で採取してはいけない沖縄の星砂などである。

ただし、気をつけなければならないこともある。国立公園の普通地域の規制は緩いが、それ故か民有地が多い。普通地域は誰か個人の土地である可能性が高いことを肝に銘じておくと良いだろう。

もっとも安全に石を得るには

購入である。

鹿児島県で大人買いした石。誰にも文句は言わせない


石はどこで拾えるのか

国立公園の普通地域まで石を拾いにいけない人もいるかもしれない。火山石以外に興味がある人もいるだろう。石を拾うことができる場所として一般的なのは川原や海岸だ。もちろん、それらが私有地の場合は拾えないが、国や自治体の管轄であれば拾える可能性は高い。これは国立公園の普通地域でも同じだ。では、なぜ川原や海岸なら大丈夫なのだろうか。

川原や海岸は自由使用が原則

電話で問い合わせたときによく担当者に言われるのが「(川原で)子どもが石を拾ってくることがあるが、自由使用の範囲なので罰せられない」という話である。つまり、自治体が管理する河川(国が管理する河川は後で説明する)は自由使用の範囲であり、同様に海岸も自由使用が原則だ。ただし、河川も海岸も自由使用を制限される場所がある。例えば海岸保全区域。石拾いの可否が不明な場合は管轄の環境省や自治体の支庁、河川事務所などに問い合わせをして確認しよう。

自由使用とは

河川は自由使用を基本としております。
自由使用とは、河川を一般公衆が自由に使用できることをいい、例えば、魚釣り、散歩などをいいます。
そのほか、趣味のための少量の砂利や玉石の採取も自由使用といえるでしょう。
このように、自由使用とは、誰でも河川を自由に使用できることをいいます。
ただし、家庭用水でも、ポンプを使って河川の水を汲み上げたり、自家用の砂利採取をトラックなどにより、大量に持ち出すような行為は、自由使用の範囲を超えており、河川法の対象となるので注意してください。

国土交通省北海道開発局 帯広開発建設部
https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/koubutu/ctll1r0000003305.html

さすが我が北海道。太字にしたくなるすばらしさ。なんとかゆいところにまで手が届く見事な説明であろう。どことは言わないが他の多くの国土交通省系のサイトは「土石や砂の採取には許可が必要」的な書き方をして、それが誤解を招く原因となっている。石を拾う者からすると正直混乱する。

私の言いたいことは全て帯広開発建設部によってなされているのでもう何も書き足す必要がない。自治体に電話で問い合わせた限りの話をすると、北海道も岐阜県も東京都も、どこの担当者も皆帯広開発建設部と同じことを言っていた。つまり、問題は量なのである。繰り返すが、石を拾って良い場所での話だ。

自由使用における「適量」とは

電話で問い合わせると100%聞かれるのが「どれくらいの量を持って帰るか」という問いだ。これも国土交通省北海道開発局 帯広開発建設部の素晴らしい説明で完結しているが、『少量』とはどのくらいかという疑問は残るだろう。先ほどの帯広開発建設部によると、『自家用の砂利採取をトラックなどにより、大量に持ち出すような行為は、自由使用の範囲を超えており』ということだが、要は「家用だからといって砂利をたくさん持って行っちゃダメ」ということだ。

というわけで、「トラックにより大量に持ち出すのはNG」と公式に判明した。それ未満はチキンレース……でもない。電話ではっきりと言われるのは、「重機を使って採取してはいけない」ということだ。こちらはイメージがつきやすいと思う。重機もトラック同様はたらくくるまだし。

続いて言われたことがあるのは、「バケツいっぱいの量以上はうーんちょっと……(多いかな)」的なことである。はっきりダメだと言われた記憶がないため、量の目安としてはバケツいっぱい(一杯かも)が自由使用における少量の基準になりそうだ。ただ、少量と書いていることからもわかるように明確な基準はない。バケツの大きさも様々だ。結局は常識の範囲内でということだろう。この複雑性の時代においてコモンセンス(常識)とは……についての見解の開陳は余裕があればいつかしたい。


ここまでのまとめ

日本で気兼ねなく石を拾えるのは、自由使用が認められている川原や海岸という結論に至った。その際採取する量はバケツいっぱい程度が目安となるだろう。車を運転しない公共交通機関民の私は電話口で担当者に量を問われたらいつも「両手で持って帰れる量」と答える。そうすると担当者はいつも「それなら大丈夫です」と応じる。ですよね。だって本当にそれが限界なんですもの。バス停まで歩くんですよ。リュックに入れて。15分も歩くと腰が抜けそうになる。それ以上マジで無理。



ここまでは石を拾うことに関して一般的に公共性が高いと判断し無料にした。しかし、これで揚々作品用の石を拾いに行けると思ったら落とし穴にはまるかもしれない。有料部分では後に作品となる石を拾う際に気をつけたい細かな点を説明する。

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