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自分が切り取る世界

フィルムで写真を撮り始めたのは2016年9月だから、約4年前のこと。
カメラの機種は、Hasselblad 500C。いまさら説明する必要はないとも思うが、1957年に販売が開始されたスウェーデン製の中判カメラで、いま使っているものも自分が生まれる前に製造されたものだ。

このカメラを知ったのは、2011年の震災のときだった。
地震発生の翌月4月中旬、建築家、カメラマンと現地に入って取材をしたのだが、そのときカメラマンが使っていたのが Hasselblad だった。

取材期間中は、被災地を回る運転手を務めながら、自分もデジタル一眼レフで撮影していた。ただ、実際に現地に立ってみると、これまで見たことのない世界に圧倒されてしまい、何をどう撮っていいのかわからず、とにかく目に留まった建物や風景を機械的に記録することしかできなかった。

闇雲にシャッターを切りながら、ふと、カメラマンはどんなふうに撮影するのだろうと思い、彼女(女性のカメラマンだった)に目を向けた。
彼女は、ゆっくりと周りを眺め、体を屈めながらじっとファインダーを覗き込み、時間をかけて丁寧にシャッターを切っていた。

ああ、そうか、同じ場所にいながら、彼女はカメラを通して、自分とは全く違う世界と対話しているんだ。

そんな、ある意味当たり前のことを、心から理解できた気がした。
そして、いつか自分もあのカメラで世界と向き合ってみたいと感じた。

それから5年半たって、縁が合ってようやく Hasselblad を手にすることができた。デジタルカメラのような手軽さはなく、まだ思ったようには撮れずに試行錯誤を繰り返しているが、今も少しずつフィルム撮影を続けている。
あのときできなかった、自分が切り取る世界といつか対話を果たせるように。

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