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【最期の晩餐はカップ麺】消防士時代の話

天気の良い平日の昼下がり

目の前には首を吊った独居の老人

散乱したテーブルの上には1枚の遺書

それと食べかけのカップ麺

今の日本を必死に作り上げて来たであろう
功労者最期がこれで良いものなのか

最期の晩餐がカップ麺でいいものなのか


実はご老人の自殺が多い

消防時代色々な出動をしてきた
もちろんその中で自ら命を経ってしまう方にも
多く遭遇した

その割合としてご老人の多さに千葉は驚いた

人生も残すところあと僅かという方が
なぜ自ら命を経ってしまうのかとても不思議で
仕方なかったがとある出動で遺書を見た時に
理解せざるを得なかった

本ノート冒頭の出動時のことだ

いつも通り出動の段階でご老人が自ら
死を選んでしまったということはわかっていた

月に1〜2回実家に帰ってくる息子からの
通報だった

そのような通報内容を聞くといつも
切なさなのか悔しさなのか
言語化できない気持ちに襲われる

その日も同じような気持ちになりながらも
現場へと向かった

現場に着くと天気の良い昼下がりとは裏腹に
家の中は薄暗く重い空気が漂っていた

息子からリビングに案内されると
テーブルの上は散乱しており
リビングと和室の境目にある柱に
首を吊っている男性が居た

いつも通りその方を下ろすし
いつも通りの手順で死亡確認をしていく
そしていつも通り警察に引き継ぐための準備を
して警察の到着を待っていた

そこにいつもはない物が目に映る

それがテーブルの上に置いてある
1枚の遺書とカップ麺だ

警察の到着までまだ時間があったので
その遺書を読んだ

震えた字で所々読みにくくなっており
懸命に最期に書き記したのだろうと見てとれた

「〇〇へ(息子の名前)迷惑をかけてすまない。これ以上〇〇(息子)に身の回りの世話や金銭的援助をしてもらうことが耐えられない。お前も〇〇さん(息子の妻の名前)や〇〇(おそらく孫の名前)との生活があるだろう。その手前俺のことにまで気をかけさせる訳にはいかない。気にせずに幸せになって欲しい。」

他にもこの先の楽しみがもうないというような
内容も書き記されていた

「そんなの気にしないで良いのに…
馬鹿親父が…」

そう言いながら息子は目の前で泣き崩れていた

親の最期はいずれ来るものだが
このような形は予期出来なかっただろう


この出動の帰り道
今まであったご老人の事案はみんな同じでは
ないと思うが、同じような気持ちだったのでは
と考えながら運転していた

それと同時にこのような形で最期を迎える方が
どうやったら減るのだろうと頭を抱えた



「オムツ替えてもらえませんか?」

サイレンを鳴らさずに福祉業務という形で
出動することがある

ある日その出動が鳴り消防車に乗ると

「70代独居男性。ベットから落ちてしまい、ベットに戻れないとの通報。」

と無線が入る

要するにベットに戻してあげればすぐ終わる
出動ということだ

現場につき、家に入っていくとマスク越しでも
鼻に刺さる臭いがする

部屋は散乱し、その先にはベットと横に
通報したご老人が横たわっていた

近くに行き話しかけようとした時
足もとがぴちゃぴちゃと濡れていた

心の中で水であって欲しいと願っていたが
それはその男性が排泄した尿だった

あぁ、、、
さようなら僕の靴下

しかし踏んでしまったものは仕方ない
顔に出すわけにもいかないのでスマートに
男性に話しかけるとその男性は
申し訳なさそうにベッドに戻りたいと言った

「いやいや、、すまないねぇ、、こんなことで
消防さんを呼んでしまって、、、」

そんなこと思わなくて良いんですよ〜と言いながらその方をベットに戻してあげる

それで要件が済んだのでそれじゃあ帰りますね
と言って帰ろうとした時に呼び止められた

「兄ちゃんや。すまないがオムツ替えて貰えないだろうか??いつも息子が来た時に替えてもらってるんだが忙しいみたいでなかなか来れてないんだ。」

初めてのお願いで戸惑ったが明らかに何日も替えていないであろう臭いや見た目をしていたのでそれくらいしてあげたいなと思い、良いですよ〜と言おうとした瞬間に隊長が答えた

「ごめんね〜。消防の業務として決められたこと以外はしてあげられないんだ〜。息子さんに連絡して早く来てもらえるよう頼んでもらえないかい??」

結論から言うと消防の任務は法で決められてる
その任務から外れたことをしてしまい
何かあった時には自分達が困ってしまうのだ
だからそのオムツを替えてあげることすら
出来なかった

それくらい良いだろと思ったが世の中そう
簡単じゃない

「ヘルパーとか介護施設入れば良いのに。」

というと先輩は

「そう簡単じゃないんだよ。それをするにもお金がかかる。公的な援助も少しはあるが全てまで賄えないんだよ。仕方ないんだよ。」

へぇ〜

と千葉が話しかけたくせに自分は尿が染みた靴下で頭がいっぱいになり、軽い返事をして
その会話は終わり署に戻った



国の制度を当てにしすぎてはいけない

消防時代に見て来た世界
そして保険業の世界に来て今見ているもの

その両方を照らし合わせた時に
公的扶助や社会保険等が全て解決してくれるとは限らないと最近常々思う

今回書いた内容は1番の解決策は
お金だ

お金さえあれば解決できたかもしれない

しかしそのお金はどう工面するのか

公的扶助の生活保護

介護保険や公的年金

それらが満足に全国民に出ていればこんな出動はなかったはずだ

しかし現実問題こういうことが日常的に多発しているのだ

20代だからまだまだ先の話と思う人もいる
しかし自分の親は本当に老後大丈夫なのか
万が一の時にお世話をするのは自分と考えると
案外すぐ近くの未来だ

自分の老後に関してもある程度自分で老後資金を貯めておかなければ今回書いたような未来が待っているかもしれない

何も問題ないのが1番

だけど自分の親が介護状態なったとき
自分の生活を守るためにも対策はしておくべき

もちろん自分の対策も

資産運用のや民間の介護保険というものは
こういう未来にならないための手段だ

この記事を呼んでそれらが必要かどうか今一度みんな確認してくれたらそれだけでも嬉しい

心からそう思う

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