ないものねだり
(約600字)
ひとり暮らしの家に帰ることになって、夕食後ふろふき大根を作った。
大根の皮を厚めに剥いて、面取りして、隠し包丁を入れて、灰汁取りして、落とし蓋が見当たらないからキッチンペーパーを代用して、割と丁寧に調理した。
お母さんは夜、8時過ぎに2階の自室へ上がってしまうので落し蓋の場所は分からなかった。
もう暫く、実家に居たいと話したが、却下された。
母は高校卒業後、大手の保険会社に入社した。
7年間の会社勤務で寿退社した。
働き続けることも希望だった。
3人の子をもうけた。
私は高校卒業後、地元の短大に進学した。
就職氷河期に、誰もが羨む会社に入社した。
働くことが嫌いではなくなった頃、リストラにあった。
職業訓練で、いくつも資格を取った。
母のように生きたいと何度も思った。
母は私の人生に、自分が叶わなかった夢を
盛り込んで、懸命に育ててくれた。
2人はお互いに叶わなかった人生を眺めながら、自分の空洞を埋めて生きる。
気がついたら、祖母に似た生き方をしていた。
違ったのは、
私には祖母のような聡明な子どもが居ないこと。
戦争で、祖母は苦しい育児を強いられたけど、経験は無いより有る方が幸せな場合もあるんだ、って私は知る。
戦争が、他国で行われている現在も、私はなにか戦っている気がしている。
何と戦っているんだろう。
たぶん、目には見えないモノを相手に。
みんな、薄々、勘づいているだろう戦い。
ふろふき大根を温めておかなくちゃ。
両親が起きる前に、朝ご飯を作るの。
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