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短編:『AI美少女れみぃちゃん』

           (約1,200字)

読む時間、取れるの?
だって7紙だよ、無理でしょ。

あたしはクラスで仲良しのアカリと混み合う地下鉄のドア近くで、噂の彼女の話を始めた。

「AIって、速読できるの?」

あたしは学校の時間に間に合うのか、左手のデジタル文字の20XX年9月24日7時30分を確めた。
完成度の高いAIが、当たり前に一般の家庭で生活するようになった。
とても端正な顔立ちと、計算されつくした均衡の取れた体型は美術品のようだ。

少子化が進み、ひとり親家庭が増えて、政府がとった政策は、人間と変わらない生活を送ることができるロボットを子供を持てない家庭で育てる養子縁組制度を開始したのだ。

時代の変革は進み、子供が生まれなければ
作ってしまおうと多少あらっぽい政策ではあるが、税金を納める人を確保するというところだろうか。

クチサカ家も例外ではなかった。

親となる婚姻を結ぶ男女の年齢こそ上限はあるものの、まだ試験段階のため1年間のお試し期間中である。

そのお隣りさんが、あたしん家なんだ。

「人間が持つ能力は持っているらしいの。
っていうか、卓越した能力を発揮しないようにセーブされてるみたい」

言いながら、あたしは自分の頭を人差し指で2回つついた。

れみぃちゃんは7.5頭身のモデル体型。
柔らかい艶髪をなびかせて光る。

「れみぃちゃんは人間と近い頭脳を持つの。あまり優秀すぎてはダメなの。家庭で暮らすのに不自由でない程度の知能と体力を与えられているんだって。クチサカさんのお家はお父さんがアレでしょ、泣く子も黙る職業に就いてるからさ、英才教育に熱心なんだってママが言ってた」

「普通の感覚で朝から新聞7紙は気の毒ね。ロボットなんだから食事は人間が食べるものじゃなくていいんじゃないの」
アカリは悪気はなく質問してくる。

「ご飯、トイレ、お風呂とか、整容を一通りできることが人間の生活だという定義があるんじゃないの」
あたしは首を傾げて話す。

アカリは閃いたと言いたげに目を見開いて、
「じゃあ、朝の支度なんて、私たちと同じだけ時間がかかるってこと!!!」

あたしは肩にかかる髪をいじりながら小声で、

「これ、言ってもいいのかなぁ」

と窓に映る二人をみとめてから、アカリに数センチ顔を近づけた。
電車の中央側からは見えないように口元に手をかざす。

「一ヶ所で済ませちゃうんだって」

「ん? どこよ」

あたしは人差し指で宙にWを描いてみせた。

えー、とアカリは嫌そうな顔をする。

ご飯、新聞、着替え、ヘアスタイルセット、トイレ、すべて一緒‥‥。

「ニオイは‥‥ニオイ問題」とアカリ。

「そこはね、ロボットだけにボタンひとつで
感覚(嗅覚)を封じこむのよ」

「不快なとこ(欠点)だけ、ボタンで解決するって何だろうね。人間らしさを感じるなら、五感は必須アイテムじゃな〜い?」

アカリは頬を膨らましてから笑う。

ボタンがほしい。 

ロボットになりたい。
それは嗅覚を抑制するんじゃなくて。

あたしは窓の外に流れる
秋の空を見上げて、胸のボタンを軽くにぎった。

                 おわり


※シロクマ文芸部のお題にて、参加させていただきました。

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