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音声コンテンツ(Voicy、Podcast)をよく聴きます。 自らの配信は https://linktr.ee/chicagocoffeee 滞ってる読書メモは https://bookmeter.com/users/434721

最近の記事

アラームのなる三分前

日ごと夜明けが早くなり、空が白々と明るんでくる頃、日が登るのを待ちきれないかのように小鳥たちがさえずりをはじめるのを意識の遠くの方で僕は感じる。 暗転していた夢の世界から意識が舞い戻ってくるような覚醒を受け止めつつ、起き上がるまでの数秒間の微睡をゆっくりと反芻してから、僕は枕元のiPhoneで時間を確認する。 アラームの鳴る三分前。だいたいいつもこうだ。 纏っているものを全て放り込んだ洗濯機を回し、ヒリヒリするくらいに温度を高めたシャワーで身体の表面に感覚を呼び覚ます。覚

    • あつまるところ、あつまるひと

      軽やかなピアノのイントロが辺りに響く。 “腕を前から上にあげて伸び伸びと背伸びの運動から…” どこか牧歌的なアナウンスが耳に直接届くのを遮るように、今日一日の始まりを拒絶するかのように僕は布団を頭から被り直して暗闇に安住を求める。そして昨晩を思い返して漏れ出たため息をあくびでごまそうとする。 「キミは正直期待はずれやったわ」 右から左に抜けて欲しい言葉が、頭の真ん中で躓いて反響を繰り返す。残響は脳を駆け巡って無慈悲な評価に僕は気分が悪くなってしまう。やり遂げたというよ

      • お仕置き三輪車のエレクトリカルドライブ

                〈第一章〉  こいつが部屋にいるおかげで、僕は安く住めている。立地を考えると破格と言ってもいいだろう。この部屋は所謂“アレ”で長く空き部屋だったらしいのだが、背に腹はなんとやらで何事も気にしないタイプの僕は、喜んでここに住むことにして、かれこれ一年が経とうとしている。周りからは心配を装った下世話な雑音を散々聞かせられたが、所詮他人なんては一年もすると静かになる。ここは通勤にも便利で今となっては生活は充実そのものだ。Aと呼んでいる彼はここに居て、お互いの存在を

        • ファラケのグッドボタン

          「今日は七夕やね、天の川は見えへんわ…」  おとうちゃんが打ちかけのLINEを眺めて、またため息をついている。さっき、おかあちゃんと大げんかして、「ちょっと散歩行くわ」ってわたしを連れておうちを出たけど、おとうちゃんはほんまにウソがヘタや。散歩なんか言うても行くとこなくて、結局コンビニの駐車場でさっきからおとうちゃんはスマホ片手にため息ばっかりや。おかあちゃんが話しかけてるのにちゃんと返事せーへんからこうなるねん、たぶん、お兄ちゃんもそう思うてるはず。さっきおうちを出るとき、

        アラームのなる三分前

          IとNとH

          ご婚約ですか?の声に思わずビクッと縮こまる。 女性店員に声をかけられるのが怖くて逃げ回るようにショーケースを覗いていたつもりだったのに、明らかに場違いな俺の姿は店員の目にさぞや滑稽に映ったことだろう。あ、いえ、と声にもならない声を発して、そそくさと店を後にする。 これまで、時間と体力の全てを野球に捧げて来た。代打ではあったが甲子園の土は踏んだし、学生野球でも雑誌のカラーページには載った。とはいえ、その程度、なのだ。天才が天才を喰いあうシンプルで残酷な世界において、社会人リ

          共に時を重ねる革ジャンと私

          ボク、革ジャンがええねん。 革ジャンで行くわ。 成人式を数ヶ月後に控えた秋、スーツでも探しておいでよという母に私はそう伝えました。大阪南船場の洋服屋で一目惚れした革ジャンに、私が手が届くとしたらこのタイミングしかない、と心に決めていたからです。 かのスティーブ•マックイーンが映画「大脱走」でキャッチボールの時に羽織ってた革ジャン。あれはTYPE A-2というフライトジャケットで、その原型となったTYPE A-1。ホースハイドでボタン開き。学生のバイト代だと二ヶ月分に相当す

          共に時を重ねる革ジャンと私

          団塊の世代である父は、いわゆるブルーカラーで、九州の片田舎から中学を卒業後、集団就職で大阪に出てきたそうです。7人兄弟の五番目。働き手が欲しい田舎の農家で、下の子達は一刻も早く社会へ出す。そんな土地柄で、そんな時代でした。 父はとにかく無口で、私は父と会話らしい会話をした記憶がありません。とはいえ母が言うには父は子煩悩であったらしく、確かに古い写真にはいつもベッタリと父にくっついている私の姿が写っています。スポーツ万能だった父は小学校や地区の運動会のリレーで、足のもつれるお

          雨があがる

          三が日が明けた一月四日、大阪の外は雨だった。彼は物憂げな表情で窓から空を眺めている。その眉間には“今日くらい休んでしまいたい”って書いてあって、彼が発する曇天色した空気がジワジワと私を侵食するのを遮るように、ふぅ、とひとつ息をする。暦通りの仕事を自分で選んだのはあなたなんだよ、出かかった言葉はひとまず飲み込む。 さて、今日の雨っていつまで降るのだろう。 彼の眉間にあどけなさすら感じていたあの一月四日はよく晴れていて、面倒くさいって顔中に書いてある彼に「休めばいいじゃん」と

          雨があがる

          はじまりの雨

          三が日が明けた一月四日、大阪の外は雨だった。予報によると一日中降り続くらしい。これほど気が重い仕事始めは遡ってみても記憶にない。 去年の一月四日はよく晴れていた。 「休めばいいじゃん。今日なんてヒマなんでしょ」 彼女の言葉に納得したボクは仕事を休んで2人で初詣に行った。その冬は特別寒くて、不器用だった彼女が必死に編んだという目の揃っていないマフラーをぐるぐる巻きにして、身を寄せ合うようにして参道を歩いたのをよく覚えている。あっさりとお参りを済ませるボクと違って、ギュッと

          はじまりの雨

          友人F

          ヤンチャで運動が出来てギャグが冴えるFは小学校2年からの友達でした。2年生から転入して来た私に、何の隔たりもなく話しかけて来てくれて、Fは新しい環境で戸惑う私にとって大事な友達になりました。小学校も高学年になる頃、私は真面目で優等生風で学級委員や児童会の執行委員を買って出るタイプでしたが、Fはいつまで経ってもヤンチャで、授業中もふざけて進行を乱すタイプ。小学校6年間で、唯一見た先生から児童へのビンタは、5年生の時、先生の怒りをギャグで返したFが食らったモノでした。今では如何な

          Yちゃん

          年代柄、いつも同級生は多くて、入学した高校での一年生の時のクラスは12組でした。 私は一年生から既にひねくれていて、最初の遠足では若草山を登ったのだけれど、その後の感想文に『ただ山をしゃべりながらダラダラと登って降りてくる事に意味を見出せない。なんと徒労である事か』などと書いたもんだから、熱き若者のあるべき姿を信じて疑わない担任の社会科の先生は学級通信に晒した挙句、自ら楽しもうと思わない者には楽しみは訪れない、などと評したので、つまらん返答しか出来ない大人だな、同じ目線で言