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#5 塩江温泉鉄道

塩江温泉鉄道は、かつて香川郡仏生山町の仏生山駅から塩江村(ともに高松市)の塩江温泉までを結んでいた路線。琴平電鉄(高松琴平電気鉄道の前身のひとつ)の系列で、塩江温泉*へのアクセス及び観光開発を担った。

*塩江温泉:741年行基により開湯と伝わる。琴平電鉄による観光開発により讃岐の宝塚と呼ばれたが戦争をはさみ一時衰退した。
*歴史ある温泉はだいたい行基か空海が開湯したことになっており、この二人が出てきたらまず信憑性はない。「歴史ある温泉ですよ」という決まり文句のようなもの。

日本で唯一の標準軌ガソリンカー

この鉄道が有名なのは、旅客営業路線で日本唯一の「標準軌間(1435ミリ)によるガソリンカー」を運行したことによる。
1928年川崎車両製のガソリンカーが5両導入された。廃線後は満州国・新京市(中華人民共和国・長春市)へ渡ったとされる。
なぜこの「標準軌ガソリンカー」という珍路線が誕生したのだろうか。

なぜ標準軌に?

1927年の敷設免許は当初「三呎六吋(1067ミリ)」で下付されていた。
接続する琴平電鉄と貨車の直通を目論見、翌年に標準軌間へ計画変更した。なお結局トラックに対抗できないことが判明し、貨車の直通は見送られた。

琴平電鉄が標準軌間を採用したのは、狭軌である官有鉄道のニ時間に対し高松~琴平間を1時間で結ぶ計画であったため。(阪急電鉄の影響も受けていたという説もある。塩江温泉は「讃岐の宝塚」を標榜した)

なぜガソリンカー?

不明である。世の趨勢であったと説明するほかはない。
なお親会社の琴平電鉄は四国水力電気の出合発電所から供給を受け、自身も岡田電燈会社を合併し電力供給事業を行ったほか、後に高松琴平電鉄として合併することになる東讃電気軌道(志度線の前身)は四国水力電気の電車部門であった。電化ノウハウは申し分ないはずだった。

ガソリンカーは1921年(大正10)、日本鉄道事業(東京市麹町)が福島県・好間軌道へ自動客車を導入したのに始まる*¹。
当時は自動車が普及し始め、乗合バスが台頭したことにより地方の小鉄道は存亡の危機に立たされていた。煙害の解消と少ない元手でフリークエントサービスを実現するため、ガソリンカーは地方鉄道へ急速に普及していった。

塩江温泉鉄道が開業した1929年前後は、各社*²の開発競争も進み、ガソリンカーの全盛期とも言える時代だった。

*¹ガソリン動力の鉄道は、1919年京浜電気鉄道(現京急電鉄)による蒲田-穴守間での貨物自動車改造の客車試運転が初とされる。根方軌道(静岡県富士市)とする説もある。

*²ガソリンカーのメーカーとしては、日本鉄道事業・丸山車両・松井製作所・日本車両・梅鉢鉄工所(→帝国車輛工業)・新潟鉄工所・汽車会社等があった。塩江の川崎車両はノウハウがなく、粗雑な欠陥車両であったという。

はじめから琴平電鉄の支線にすれば?

1927年は金融恐慌の年である。同年3月の片岡直温蔵相の失言により銀行恐慌が発生。また折から一次大戦後の不況により経済は停滞していた。
琴平電鉄も決して余裕のある経営状況とは言えず、開通後の1928年(昭和3)に地方鉄道補助法の適用を受けている。翌年には世界恐慌の波にも巻き込まれ、補助金の交付は延べ25回にわたった。
社長が同一人物(大西虎之助)である塩江温泉鉄道を別会社とした理由はこのあたりにあるかと思われる。

その後の顛末

1938年に琴平電鉄へ合併され、同社の塩江線となった。同年9月に台風*の被害を受ける。
一方1937年からガソリンの消費規制が段階的に実施されていた。
事業好転の見込みは無く、高松-塩江-穴吹間を運行していた阿讃中央自動車による代行輸送の目処がたち、資材活用の国策にも沿う形で1940年11月に営業廃止を申請、翌41年4月に認可される。
資材は台湾製糖へ、車両は前述のとおり満州国新京市へ送られた。

*9月5日徳島県東部を中心に甚大な被害をもたらした。

年表

741年 塩江温泉開湯
1921年 好間軌道(福島)へガソリンカー導入
1926年 琴平電鉄線開業
1927年 金融恐慌
1927年 塩江温泉鉄道 敷設免許下付
1929年 塩江温泉鉄道 開業
1937年 第一次ガソリン消費規制
1938年 塩江温泉鉄道を合併。塩江線とする。台風で被災
1941年 塩江線を廃止
1943年 琴平・東讃・高松各鉄道が合併し、高松琴平電気鉄道発足

参考文献

「80年のあゆみ 高松琴平電気鉄道」
https://x.gd/XMjOt

「ガソリンカー廃線跡 遺構を訪ねる」
https://x.gd/ybF9W

「DRFC-OBデジタル青信号 -塩江温泉鉄道(2017/9/18)」
https://drfc-ob.com/wp/archives/89448?ak_action=reject_mobile

レファレンス事例詳細:香川県立図書館
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000002804

香川県史第六巻 通史編 近代Ⅱ
https://www.shikoku-shakaishihon.com/uploads/projectattachments/001265_1_00_1562377891.pdf

「軽便鉄道の発達」
https://d-arch.ide.go.jp/je_archive/english/society/wp_unu_jpn63.html


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