あの日、私は子ども連れて、逃げて、逃げて、逃げた(2)

3年後、理久の見た目はすっかり人間の可愛い子どもに成長していた。

理久とはほぼ毎日、近所の公園に出かけた。理久は一人で公園まで、ものすごいスピードで走って行ってしまう。理久は周りの同じ歳の子に比べても異様に足が速かった。私は理久が車に引かれるのではないかと心配で心配で、必死に走って追いかけた。だけど、私はいつも理久を見失った。

公園に着くと理久は突然目の前に現れ、私の手を引いて「一緒に遊ぼーよー!」と大きな声で何度も言う。
私は「少し休ませてね。」と言って、ベンチに腰を下ろすと、理久は私の手を引いて無理やり立たせようとする。それでも、私が座り続ける姿勢をとると、今度はベンチの上に立って、どこかで拾ってきたプラスチックの刀で私を切ったり、叩いたりした。
理久の引く手も、刀の歯も、痛かった。
でも、私は理久に思いっきり遊んで欲しかったし、理久の目も生き生きしていたので、怒ることはほとんどなかった。

日が落ちて家に帰り、私が夕飯の支度をしている間、理久は部屋を破壊した。
理久がトランポリン代わりにするせいで、革のソファーはあちらこちらが裂けていたし、床にはおもちゃのブロックやロボットが散らかっている。自分で落としたおもちゃを踏んで転んでワンワンと泣いたり、投げたボールが食器棚のガラスに当たって割れたこともあった。

理久は、しつこくて、うるさい。

でも、私は理久に手をあげることはなかった。

(つづく)


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