◇空の中を走る

普段良く利用する道のひとつに、田んぼの間を突っ切るものがあります。
水を張ったばかりのころ、一面に映し出された空に思わず息を飲んだことを覚えています。風がないときの水面って、まるで鏡のようなんですよね。そこに、さかさまの空がくっきりと映っている。
その間を抜けるのは、まるで空を走るような気持ちでした。

昔から、雨上がりに水たまりを覗くのが好きです。そこに映るさかさまの像は、「むこうの世界」みたいだなと思っていた。水たまりに足を踏み出せば、そのまま落っこちていく。その先に辿りつく別の世界があるんだと。
水たまりの大きさや形が、穴を想起させるからかもしれません。

形状が違っても、水面に映る空に惹かれるのは変わりないようです。

いくども間を抜けるうち、田んぼも稲が育ってきて、緑が覆うようになってきました。遠くからだともう、水面が見えないくらい。
でもすぐ側を通るほんの一瞬だけ、さかさまの空が姿を現したりします。これもあと、どのくらい見られるのかな。