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パリで泥棒に入られた件と、スリの話 その1

その日わたしは1日だけ合宿していて、夜中の3時くらいまで、話し込んでいた。電話が鳴ったのは、2時前くらい。大家さんだった。

その家は電波が良くなくて、電話ができず、メッセになった。なんと泥棒に入られた、という。鍵をかけたのか、としつこく聞いてくる。最近パリでは泥棒がとても増えているのだ、とも書いてきた。

アパルトマンには、3段階の鍵がある。1つ目は、建物に入るための、暗証番号のようなもの。もう1つは、アパルトマンに入るためのドアの鍵。最後に、自分の部屋に入るための鍵である。

自分の部屋の鍵は、ちゃんと二重にかけている。しかしアパルトマンのドアの鍵は、オートロックになっているので、閉めただけだった。そこからさらに鍵を回すと二重に鍵がかかるのだが、この鍵は開けるのが難しく、オートロックのままで出た。

オートロックで閉まるのよ、と聞いていたし、それだけではだめ、というような説明は、受けていなかった。

その前に住んでいたロンドンのアパートでは、自分のアパートと建物の両方が、オートロックだった。両方とももう一本鍵があるのだが、普通は使っていない、と不動産屋も言っていて、それに慣れていたせいもある。自分の部屋の鍵を二重にかけるので、3回かけたらもういいだろう、となんとなく思っていた。

大家の部屋のドアは、単なる部屋の扉という感じで、鍵はかかるが甘いガラス扉である。泥棒は、オートロックの扉を開け、大家の部屋の扉のベニアを外し、侵入したらしい。

大家の部屋とわたしの部屋は、バスルームを隔てているだけである。バスルームの鍵はちゃちなものなので、そこからわたしの部屋へ侵入するのは、簡単だ。大家の部屋のドアの扉をみて、いつも大丈夫なのか、とぼんやり思っていたのだが、まったく人ごとではなかったというわけ。

普段わたしがアパルトマンを空けるのは、何泊かするにしても、1日でも、リサーチトリップであることが多い。だからMacbookも、iPadも、12インチのiPadProも、だいたい全部持っていく(図書館などの場合は、iPadProは置いていくが)。

しかし今回は、リサーチなどしている暇のない合宿だったので、もう1台のiPadをふくめた4台すべて、置いたままだった。加えて、ソーラー電池が切れてしまった腕時計すら、置いていった。そのすべてを、持って行かれてしまったのである。この絶妙のタイミングには、さすがにげっそりした。

合宿は非日常である。普通ならその日は、部屋にいるはずだった。例えば夕方ごろから見張っていて、絶対いないのを確かめて、入ったのだろうか。もしいたら、どんなことになっていたのだろう。泥棒もそれでは面倒だろうから、いないことを確信して入ったのだろうが、調子が悪くて暗くして一日中寝ていたとしたら、どうなったのだろうか。そんなことを考えていると、それも恐い。

大家さんは、パソコンや現金などを、盗られたらしい。保険会社に申告する、と言っている。今まで泥棒に入られたことは一度もなかった、と涙を流していたのだが、まあモノはモノだから、とも言う。しょっちゅう来るお母さんが、いい感じの人なので、受け売りなのかもしれない。一晩開けてから帰ったので、それもよかったかも。

夜の12時に陽気に騒ぐ系の男性が入ってきたりするし(夜は騒がないように、と彼女が言うらしく、そのまま騒ぎつづけることはない。でも昼間にうるさかったりする)、まったく効かなくてストレスマックスなwifiをなんとかしてくれる気配もあまりないのだが(テザリングでしのいでいる 涙)、この人はやはり人格のよい人なのだ、と非常時に思った。

最後に扉を閉めたのはわたしなので、申し訳なく、もしよかったら75インチのテレビを置いていく、とわたしは彼女に言った。帰国するときこのテレビをどうしたらいいか、と思っていたので、これで引取先ができてよかったかも、と変に納得した。

#泥棒 #パリ #フランス #田中ちはる

Photo by TheDigitalWay at Pixabay

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