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人前で全裸になった(という夢の)話

 「夢日記」というものは危険という説があるらしい。メンタル系の影響はありそうではある。しかし夢の内容など覚えてるのは断片的にすぎず、脚色を加えてしまえば「夢の内容から着想を得た創作」に過ぎないというわけで、夢の内容のようなものを記しておこうと思う。
 さて、読者の皆にはこのような経験はないだろうか。お風呂に入っていたら、何かを忘れたことに気づいて、裸のまま脱衣所を出て忘れ物を取りに自分の部屋へ向かう、という経験が。少なくとも僕自身にはあり、今回見た夢もそういった記憶の延長線のような夢であった。


 僕の職場はビルの5階にある。今は、インターンシップで学生が来ているのだが、インターンシップの日程も今日で終わりだ。打ち上げをしようということになり、買い出しを頼まれた。
 しかし、仕事が終われば、買い出しのことはすっかり頭から抜けており、すぐさま更衣室へ移動し着替え始めた。制服を脱いだ瞬間に、僕は買い出しのことをふと思い出した。服を着るのも煩わしくなってしまった僕は、そのままの恰好で買い出しへと向かったのである。なぜ下着まで脱いでいたのかは分からないが、さながらお風呂のときのように、服を着ることはせず、バスタオルで身体を隠し、僅かに残されていた羞恥心のおかげで、その上からジャケットを羽織った。
 そして、あろうことかそのままオフィス・ビルのエレベーターで1階に降りて、あろうことか街中に繰り出したのである。

 僕の身体を隠すものは頼りないバスタオルとジャケットしかなく、街中を数分歩けば、急に恥ずかしくなり、人の目線が怖くなった。ちゃんと服を着なかったのをひどく後悔したものだった。幸い人々は僕の恰好に気づく様子はなかったが、気づかれる前に、買い出しは手短に終わらせようと思った。
 僕は人目を避けるため、車が通れるか通れないかの細い道へ入った。細いがネオンが煌々と輝く道で、風俗店も多く立ち並ぶ通りだった。僕はそんな道沿いにある閑古鳥が鳴く商店に入り、上司に頼まれた品を買った。風俗店の華やかな雰囲気とは真逆の、冴えない老婆が店番をしていた。買い物を終え、老婆に軽く会釈をすると、足早にオフィス・ビルへ戻ろうとする。僕は風俗店の客引きから遠ざかりながら、この細い道を後にしたのである。

 オフィス・ビルに着けば、後はエレベーターで5階に上がるだけだ。僕は油断からか、暑さからか、エレベーターの中でジャケットを脱いだ。バスタオルで前を隠しているだけの状態になり、途中から人が乗ってこないことを祈った。
 しかし、4階で人が乗ってきた。しかも異性であった。仮にその異性をAとする。僕は驚きからか油断からか、うっかりバスタオルをエレベーターの床に落としてしまった。Aの前に、僕の裸が晒されたのである。

 不思議と恥ずかしさはなかった。気まずい雰囲気にさえなったが、「あ、どうも」と軽い会釈くらいは容易にできた。
 次の瞬間には、Aと目が合った。Aは僕の裸体をまじまじと見ている。Aの頬に目を落とすと、Aは頬を赤らめていた。その様子を見た僕は、恥じらいなどすっかり消えてしまっていた。どちらかというと、高揚感や興奮のようなものに近かったように思える。Aが僕の裸に魅力を感じているのだと、こんな僕でもまだ魅力があるのだと、Aに注視されていることに、どこか嬉しささえ感じたのであった。

 僕は、このことを会社に知られないよう、エレベーターを降りると更衣室に駆け込んだのであった。


 誤解のないように敢えて書いておくのだが、きっと恥ずかしくなかったのは夢の中の話に過ぎなかったからで、現実世界であれば(公衆浴場でない限りは)恥ずかしくて裸で外に出ようなどという発想には至らないだろう。恥ずかしいだけでなく、社会的にも色々と問題があり、見つかれば警察のお世話になりそうなものである。

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