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明けないで、このままで

太陽が上りきらない寒い日の薄闇の中、微かな光の元にオーディオから流れるピアソラ「3つのタンゴ」に目を閉じる。
よりはっきりとした暗闇が現れ、音楽に包まれ浮遊していると錯覚する。
流れるままの音楽が本当に耳に届いているのか少しずつ音楽すら遠くなっていき、やがて無になる。
我に還る時、また音楽が蘇り自分の周りは先ほどより暖かい光に包まれていることに気づく。
重い腰をあげ、湯を沸かす。
立ち上る湯気が出るまで。
心地よい新しい明るさのはずなのに「明けないで」と強く思った。

何故?

今の私は私でないからだ。
とはいえ性格が異なる正反対の自分ではない。
どこか少し違う自分が、この体にいる。

沸々と湧き上がる湯気をしばし見つめていると、やかんの細い口からお湯がほとばしり始めたので急いで火を止めた。

自分でないという錯覚も、湯のほとばしりと共に消え去った。
少しの不安を残して。

昨日「騙し絵の牙」を観ました。
途切れずに観たのは久しぶりです。
無性に文章が書きたくなりました。
単純な自分に流されるまま一晩気持ちを寝かせて書いてみたものの、日常の「私」に少し何かを足しただけの文章になりました。
単純に書くことが好きなんだなぁと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。

*ピアソラ「3つのタンゴ」
「現実との3分間」「オブリヴィオン」「リベルタンゴ」からなるエドゥアルド・ウベルトの2台のピアノの編曲。
ルガーノ・フェスティバル2008のライブ録音から、マルタ・アルゲリッチとエドゥアルド・ウベルトの演奏です。
原曲はバンドネオンですがピアノはピアノのままに、ピアノの良さと音楽の輪郭を鮮明に余す所なく楽しませてくれます。
このCDに収録されている音楽は、知っている・知らないプレイヤーという概念にとらわれず誰しもを魅了し満足させると思います。
おすすめの1枚です。(3枚組だから3枚かしら?)

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