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月イチ読書「さざなみのよる」

さざなみのよる
木皿泉 河出文庫

 脚本家・木皿泉さんの書く物語が、本当に好きで好きで。
 ドラマ「すいか」のDVDは、数年に一度必ず見たくなるし、小説「昨夜のカレー、明日のパン」は、通常版を持っているのに持ち歩き用に文庫版も買っちゃった、というほど大好きです。
 ということで、木皿泉さんの新しい小説が文庫本になってる!と発見してすぐに買いました。これは楽しみ。

 2016年のお正月に放送された「富士ファミリー」という木皿泉さんのNHKドラマがありまして。その中の登場人物、43歳でがんでなくなった「ナスミさん」(ドラマ版では小泉今日子さんでした)にまつわるお話でした。
 まつわるというか。
 ナスミさんがなくなったあと、ナスミさんに関係のあった人たちの心の動きと日常の出来事を、丁寧に拾い集めてお話にしてある、というスタイルです。
 姉妹、夫など家族だけでなく、職場の元同僚、元同級生の妻とか、関係の濃さ薄さもさまざまな人たちが出てきます。

 こっちのエピソードで出てきた指輪が、別の人のエピソードにつながって、おぉそういう裏事情があったのか。で、数年後にこんな展開しちゃう? あ、このときのあの子がこっちの話にも出てくるのか〜・・・という、数奇な伏線がいくつも張り巡らされています。
 テーマは重いけど、エピソードが細かくて鋭角で笑っちゃう。
 まさに木皿ワールドな小説でした。

 読みつつ、しみじみと思ったのは「ワタシも、いろんな誰かの脇役なのよね」という事実でした。
 自分の人生の主役は自分だ!みたいな考え方が苦手なのですが、「あの人にとっての、脇役としての自分」というのを考えると、自分を俯瞰的に見られる気がしています。
 子どもたちにとってはいつもクルクルしているハハであり、兄にとってはやや生意気な妹であり、職場の後輩にとっては仕事がテキトーな先輩であり。
 あるいは職場近くのコンビニの店員さんにとっては、「いつも8時20分ギリギリにカフェラテLを頼むヤツ」という脇役かも・・・と考えると、生きているだけで果たしている役割というものが、意外とあるのかもしれません。

 わかりにくい話で申し訳ないですが、「さざなみのよる」を読んだ人には共感してもらえる・・・かな? いい小説でした。

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