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ユーミンの魔法

若い頃、人生の中心が『恋愛』だった時代、ユーミンや竹内まりやさんが大好きで、お気に入り音楽集と題して自分で編集したカセットテープを車でかけるとテンションが上がりました。カーステレオは、カセットテープからCDへと変わると、アルバムを差し込み、お気に入りの曲だけを飽きるほどリピートしたものです。特に、荒井由実時代からファンだったユーミンは、アルバムが出ればすぐに買うほど好き。作家志望の私にとって、ユーミンや竹内まりやさんの「言葉マジック」は、刺激がいっぱいでした。

当時付き合っていた相手は、同じ職場で同い年の男性。その頃、爆発的人気を誇っていたユーミンの曲に因んで、パールのピアスをプレゼントする男性が多かった年のことでした。私も例外なく誕生日プレゼントは真珠のピアス。彼もユーミン信者だったこともあり、一緒にいる時にかけるBGMは、いつもユーミン。彼はロマンチストで、部屋でも車でも、欠かさず音楽をかけるタイプの人。決してイケメンではなかったけれど。

ユーミンの中で私がお気に入りだったのは『埠頭を渡る風』と『魔法のくすり』。
『埠頭…』は、歌詞の中身が刺さると言うより、ちょっと勢いのあるメロディとユーミン独特の言葉の魔法が、心地よく耳に入ってくる感じがとにかく好き。
『魔法…』の方はと言うと、当時恋愛モード全開だった私のちょっとしたバイブルのような曲。彼の部屋から車で帰る道中、カーステレオにユーミンのアルバムを入れ、擦り切れるほど『魔法のくすり』をリピートしたものでした。

『男はいつも最初の恋人になりたがり
女は誰も最後の愛人でいたいの
だからしょせんおんなじ気持ちで
求め合っていると思っちゃいけない
冷めたふりをして、逃げ腰はダメよ
欲しいものは欲しいと言った方が勝ち』

このフレーズだけ、ひとり大きな声で歌っていました。さほどハッピーな恋する乙女的なウキウキの歌詞でもないこの曲で、何故そんなに気分が高揚したのかと言えば、彼がとても浮気性だったから。自分は絶対最後の女だという執着心だったんですね。彼は「浮気なんて絶対していない」と自身の潔白を常に主張していましたが。
浮気現場に出くわしたことはないのだけれど、「匂いを感じる」といえば、きっと「うんうん」と頷く女性もいるでしょう。浮気という確固たる証拠があるわけでもなく、ただ胸騒ぎがするというわけでもなく、他の女性の空気感とか匂いを感じるんです。きっと動物的な嗅覚のようなものでしょう。

ある時、そんな彼の部屋で、ベッドの後ろ足のところで真珠のピアスを見つけました。私の両耳にはちゃんとついています。全く同じ真珠のピアスがひとつ。私は黙ってそのピアスをベッドの下、奥の方へと隠しました。もしかすると、同じように彼の浮気を心配している誰かが、自分が本命と言わんばかりに、彼からもらった真珠のピアスを敢えて置いていったのかもしれないし、ただ単純に忘れていったのかもしれない。その女性が自分で買ったものかも知れないし、彼がプレゼントしたものかも知れない。
真相は藪の中ですが、これで他にも女性がいることは明白。もしかすると自分の方が浮気相手なのかも知れない。様々な妄想が、私の頭を駆け巡りました。いずれにしても、彼の愛情は、自分以外の人の元へも届けられていると言う事実だけが、私の頭を巡りました。

私は、翌朝、彼の眠っているベッドの下の奥の方に追いやった片方のピアスと、自分のふたつのピアス、合計3つのピアス、その横に合鍵を並べ、彼を起こす事なく部屋を出ました。
帰り道、車の中で『真珠のピアス』を何度もリピート。この曲って失恋ソング。しかもこの歌詞の中の失恋した女性って、片方のピアスをベッドの下に捨てて、自分の存在アピールしてる。私は何度も聴いているうちに可笑しくて笑い出してしまいました。

4年間付き合った、私が最も夢中になった恋は、松任谷由実さんの『魔法のくすり』『埠頭を渡る風』『真珠のピアス』、この3曲を聴くだけで、今でも鮮明に思い出します。あの時着ていた服、一緒に行った場所、囁いてくれた言葉、まるで自分が、恋愛ドラマの主人公になったような4年間。苦しくも楽しかった、キラキラした時を過ごした大切な記憶です。別の道を歩んでいる彼が、今幸せな人生を歩んでいてくれることを心から願っています。

スキな3曲を語るというよりも、その3曲にある思い出を語ってしまいました。ユーミンの魔法から目覚めた私は、今でもユーミンは大好きです。

#スキな3曲を熱く語る
#松任谷由実
#魔法のくすり
#埠頭を渡る風
#真珠のピアス

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