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さよならペルレイ

所沢のプロペ通りといういわゆる目抜き通りに、何十年も続いていたカフェがあった。その名をペルレイという。所沢駅から徒歩で2,3分という好立地にペルレイはあった。おそらく所沢に何もなかった時代からそこにあって、周囲がどんどん開発されていくのを見守るようにただ変わらずに有り続けたのだろう。
 

ここだけ突然すてき空間が出現する。A7III Loxia 2/50


それが2024年1月をもって長い歴史に幕を下ろしたのである。店主の体調不良による閉店と張り紙がしてあったが、相続問題など色々と考えなければいけない時期に来たのかもしれない。なにしろ所沢の一等地だ。
 

A7III Loxia 2/50


建物の作りは非常に贅沢で、店内は2階部分をすべて使って広々としている。カウンター席は10人は並べそうなほどの長さがあり、手が届かないほどの奥行きを持つ。テーブル席は一体いくつあるのかわからないほどある。ダークブラウンの床に白い壁。壁という壁にアート作品が飾ってある。窓もところどころステンドグラスに変えてある。店子ではこうはいくまい。
 

A7III Loxia 2/50


初めてペルレイを知ったのは2年ほど前だ。家探しに不動産屋さんと奔走し、打ち合わせで立ち寄った所沢で偶然発見したカフェだった。駅前の、雑多にチェーン店ばかりがならぶ目抜き通りに素敵なカフェがある。元来カフェ好きのぼくたち夫婦は引き込まれるようにしてその階段を上がった。
 

さよならメッセージ A7III Loxia 2/50


紆余曲折を経て住まいをこの土地に定めて以来、駅前に出るときは必ず寄るカフェとなった。といってもそれほどよく通ったわけでもない。なにしろ週末は子どもの相手でカフェどころではないのが日常だ。
 

あんクリームトースト A7III Loxia 2/50


年末に所沢駅へ行く用事があって、よしペルレイへ行こうとなった。所沢駅で降りてペルレイへ行かない理由はないのだ。そしてその時閉店を知る。
 
ペルレイはいわゆる個人経営のカフェとは少し違う。個人経営のカフェと言えば店主の個性が強く打ち出されているものである。よくも悪くも癖の強さが売りであり、合えばお気に入りになるし合わなければ行かなくなるそんな場所。
 

コーヒーがたっぷり A7III Loxia 2/50


反対にドトールなどのチェーン店は人間を表に打ち出すことはせず、金額や商品に価値を置くタイプの店であろう。この手の店は将来店員がロボットに置き換わってもなんら問題がないどころか、歓迎すらされるのではないかと思う。

間接照明 A7III Loxia 2/50


ペルレイはその中間にあるカフェだった。個人経営でありながら店主が前に出てくることがないばかりか、そもそも店主を見たことがない。しかし常時働いている店員さんたちは愛想がよく接客もきちんとしている。客のことをよく覚えていて以前来たときのことを話題にしてくれたりもする素晴らしい人たちである。それでいてスタバのように長くいても気遣い無用感がもたらす居心地のよさを併せ持っている。
 

長いカウンター席。A7III Loxia 2/50


それはひとつに店が広いということもあるが、店全体が醸し出す雰囲気がじつに心地よく落ち着ける空間を作っていたのだと思う。おしゃれカフェや作り込まれたカフェは好きなのだが、同時にこちらも粋に取り図らねばならないようなプレッシャーを感じることがある。もちろんそれは店の意図するところではなく、こちらが勝手にそう感じてしまうだけなのだが結果的にまるでリラックスできないということは珍しくない。
 

フレッシュグレープフルーツジュース A7III Loxia 2/50


ドトールやスタバのような気安さがあって、だけどきちんとしたカフェ。それは昔喫茶店と呼ばれた時代はだいたいどこもそうだったのではないかと想像する。ペルレイは街に昔からある喫茶店だったのだ。決して煙モクモクにならず、家具や調度品は常に手入れがされて今やアンティークになった。長い年月を経てようやく手に入れた風合いがひとときで失われる。ペルレイの閉店は本当に残念だ。できることならあとを継ぎたいくらいである。


1938年開業ということは86年もこの地にあったことになる。昭和13年ですよ。A7III Loxia 2/50

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