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映画「シング・フォー・ミー、ライル」感想

 一言で、俳優の歌や踊りや演出とCGは良く、「楽しい」作品ではあるものの、一方で脚本と間のとり方はあまり良くなく、ラストも腑に落ちず、今一つな点も目立ちました。※少し厳しめです。

評価「D」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。やや辛口意見気味なので、好きな方は要注意です。

 本作は、バーナード・ウェーバー原作の、芸達者なワニを主人公にしたベストセラー絵本、『ワニのライル』シリーズを原作としたミュージカル映画です。(原題は『Lyle,Lyle,Crocodile』)
 配給会社はソニー・ピクチャーズ、音楽には『グレイテスト・ショーマン』、『ラ・ラ・ランド』のスタッフが関わっていると宣伝されていました。


・主なあらすじ

 ニューヨークで売れないショーマンのヘクター・P・ヴァレンティは、古びたペットショップで魅惑的な歌声を持つ子ワニ、ライルと出会い、ショーの相棒にします。しかし、ライルの「ステージ恐怖症」が判明し、歌えずにショーは大失敗します。ヘクターは「何とかする」と言ったきり、ライルをアパートの屋根裏部屋に残して姿を消してしまいます。
 それから長い月日が経ったある日、プリム家がライルの潜む家に越してきます。ひょんなことから少年ジョシュにライルは見つかってしまうものの、
共に孤独を抱えた二人(一人と一頭)は、歌を通してしだいに心を通わせていき、親友になります。しかし…。

・主な登場人物


・ライル :ショーン・メンデス(大泉 洋)歌の才能があるワニ。ヘクターに飼われるも、彼の留守中にプリム家と邂逅し…。

・ヘクター・P・ヴァレンティ :ハビエル・バルデム(石丸 幹二)
 ライルの最初のご主人。売れずに借金を抱えるクセ強めのマジシャン。ショーの後、ライルを置いて何処かに旅立ちますが…。

・ジョシュ・プリム :ウィンズロウ・フェグリー(宮岸 泰成)
 プリム家の一人息子で中学生。新しい環境に適応することが苦手で、喘息の発作も持っています。

・ミセス・プリム :コンスタンス・ウー(水樹 奈々)
ジョシュの継母であり、ミスター・プリムの妻。料理研究家で自然派推し。甘い物は控えていて、毎日トレーニングしてます。

・ミスター・プリム :スクート・マクネイリー(関 智一)
 ジョシュの父であり、ミセス・プリムの夫。元レスリング選手で、現教師。

・ミスター・グランプス :ブレット・ゲルマン(吉野 貴宏)
 この映画の「悪役」で、プリム一家の隣人。猫を飼っています。

① 俳優と音楽の使い方は良く、印象に残った。

 本作は、予告の時点でかなり歌を推しており、実際に本編でも俳優と音楽の使い方は良かったです。 

 一番良かったのは、ハビエル・バルデムですね。彼のダンスのキレの良さと歌唱力とシュールな演技力は印象に残り、流石ベテラン俳優なだけありました。また、ファンタジーとは親和性が高い方なので、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『リトル・マーメイド』でもお馴染みですが、本作でもその独特な存在感を遺憾なく発揮していました。
 彼のクネクネシュールで狂言回しな演技は、何となくジョニー・デップを彷彿とさせますが、本作ではなんかハビエル・バルデムがしっくりきました。

 また、吹き替え声優については、皆様舞台経験の多い方を起用しているせいか、一定以上のレベルには達してたと思います。特に大泉洋さん・石丸幹二さんが良かったです。関智一さんと水樹奈々さんも良かったですが、それぞれ一曲だけなのは惜しかったです。

 そして、音楽の使い方も良かったです。エルトン・ジョンの『クロコダイル・ロック』や、スティービー・ワンダーの『愛するデューク』など、有名曲を起用して観客の心を惹きつけようとする工夫は感じられました。ちなみに、エンドロールより、本作の歌の日本語訳詞がDiggy-MO'なのに驚きました!
 ただ、個人的には、大泉洋さんの歌声は、想像していたライルの「声」とは少し違いました。ライルは胴体が太くて、口がバカでかいので、ちょっと違和感はありました。このように、歌が良くてもフィーリングとしては「合わない」ことってあるんですね。

② 色んな作品からのオマージュを感じた。

 本作は、児童文学の映像化ということもあり、色んな作品からのオマージュを感じました。
 ファンタジー物ということから、ディズニー要素は強めです。ワニなら、『ピーター・パン』のワニとフック船長『プリンセスと魔法のキス』のルイス、『アラジン』(「僕を信じて」と手を差し伸べる)、『不思議の国のアリス』のマッドハッター辺りでしょうか。ヘクターはペテン師だし。
 動物メインの作品なら、『わんわん物語』・『キャッツ』・『SING』・『パディントン』、人間と動物が乗り物に同乗するなら『E・T』と『ウォレスとグルミット』辺りでしょうか。『100日後に○ぬワニ』は流石に草です。
 後は、ワニのファッションブランド「ラコステ」と「クロコダイル」も思い出しました。熱川バナナワニ園とのコラボもしてたようです。

③ PG12指定の理由は何?

 本作は、原作が児童書で、内容的にも子供に刺激の強いものではないと思うのですが、なぜか「PG12」のレーティングがついていました。
 恐らく、ゴミダイブ・残飯漁り・無免許運転・ライルがシャンパン飲んでるからかな。これでレーティングつけるかな?とは思うけれど。
 まぁ、PG12って「未成年に悪影響が予想されるシーン」につくので、この辺が引っ掛かったのでしょう。

④ 大味なドタバタコメディーで、何か物足りなく、「ただ楽しいだけ」の作品で勿体ない。

 本作、レビュー評価は高めですし、良い点はあるのですが、個人的にはギリ佳作とは言えない凡作だと感じました。
 音楽も俳優の演技も良いし、基本的なストーリーもつまらなくはないし、良さげな作品だったのですが…何か素材は良いのに、色々と勿体なかったです。
 物語のコンセプトである「もしワニが歌えたら…」の発想力自体は面白く、人を引き付ける要素は間違いなくありました。名優ハビエル・バルデムのがんばりで何とか最後まで観られるものの、基本的には大味なドタバタコメディでした。
 正直、思ったより引っかかる点が多かったです。キャラ設定や作品の展開から、掘り下げられる点は多いのに、ただ「楽しげな」だけの作品になってしまったように感じました。

 ディズニー、ピクサーもののようにシナリオ、間、映像の魅せ方が練られてないのかセンスの問題か、とにかく内容が薄っぺらく、映像の魅せ方としてはイマイチでした。
 例えば、ライルが隠れ住んでいる家に家族が引っ越して、隠れていたライルを見つけるのですが、その件を一人一人やっているので、正直クドかったです。
 まず、ジョシュにライルは見つかると、彼らはギャーギャー騒ぎます。
次にライルは母親に見つかりますが、彼女はやはりギャーギャー騒ぎます。そして父親にも見つかり、予想通り彼も…。こういう件は、まとめて1回で済ませてほしかったですね。

 展開がスピーディーでサクサク進むのは良いのですが、反面その雑さを音楽や動きで誤魔化してる感じはありました。そのせいか、感情も置いてけぼりになる場面が多々ありました。
 キャラの心情変化が整理されておらず、いきなり次の展開に飛ぶので、「なんで?」と引っかかってしまうのです。例えば、最初はいじめられっ子のジョシュといじめっ子の少女がいて二人の仲が良くない部分が描かれているのに、次に再会したシーンでは難無く話せて、SNSでは友達にまでなってるのです。
 また、ジョシュの母は所謂「自然派ママ」で、お菓子やジャンクフードや甘い果物はダメという方針でしたが、
乱入してきたライルと鉢合わせになってしまいます。彼女はライルに驚くものの、SNSのストーリーから息子との思い出を語り、そのBGMをライルが聴いて、ライルの中のスイッチが入ります。そして二人で歌を歌い、料理を手伝ったら、もう仲良しなのです。こんな簡単に母親の気持ちが変わるかね?(まぁ、ミュージカルにこういう突っ込みを入れるのは野暮ですが。)
 それにしても、ケーキがビビットカラーすぎて美味しくなさそうでした。

 後は、山場も少なかったです。基本的にはミュージカル映画ですが、楽曲の数が圧倒的に少なく、ヘクターがライルを見つけるシーン、ジョシュがライルを見つけるシーン、ラストのオーディションのシーンぐらいしか目立ったものがなかったです。
 基本的にはプリム家3人とライル&ヘクターだし、歌って踊るのもヘクター&ライルがメインになっているのですが、それぞれの関係性に深みがなく、物語の起伏もほとんどなかったです。
そりゃ楽曲の数も少なくなるし、物語も地味で動きがないよね、としか思えませんでした。

 だから本作、興行が苦戦してたのも何となくわかるんです。勿論、春休みの強豪作もあるけれど、それ以外の理由が大きいですね。正直、この内容では口コミで広がるとは思えず、初動で吹替キャストの動員力に頼ったという苦肉の策のようにも思えました。
 そして、「『グレーテスト・ショーマン』のスタッフ制作」のキャッチコピーを宣伝でいれてましたが、あちらの足元にも及ばないと思います。かなり子供向けな感じで、正直かなり見劣りしました。
 まぁ、楽しい映画ではありますが、ただ楽しいだけでした。ロバート・ダウニー・Jrの『ドクター・ドリトル』と同じパターンです。子供は楽しめるかもだけど、大人には物足りないし、教訓となる要素もなく、色々と厳しかったですね。

⑤ これは実写よりもアニメ向きの題材だったのでは…?

 物語は児童文学がベース故に、動物が喋ってもあっさりと受け入れる世界観にはなっています。
 ただ実写だと、やはりこの辺は不思議な感じでした。ジョシュは、自分よりも背が高くて厳ついワニのライルを割とすぐに受け入れるのに、一方で学校の同級生が怖いというのもしっくりこないです。
 後は、ライルが捕獲されて動物園に収容されたとき、他の「話せない」ワニから迫害されるかと思いきや、普通に生活しているし。この辺も何か不思議でした。
 正直、これはアニメでやったほうが良かったかもしれません。映像は実写なのに、脚本や演出がアニメのものなので。
 やはり、同じ映像作品でも、アニメと実写では求められるリアリティーラインが違うので、こういう違和感が生じてしまうと思いました。

⑥ 問題提起が多すぎて、焦点がぼやけているし、中途半端さが目立つ。

 本作は主にジョシュとライルの友情話について描いていますが、同時に社会問題についても提起しています。しかし、如何せんその数を絞りきれてないせいか、各々の焦点がぼやけており、中途半端さが目立っていました。

 大型ペットの販売・飼育問題、家族問題、主人公の「特性」問題、食品ロス問題など、 観客を引き込もうとして色んな問題を提起するのは良いのですが、これらがうまく繋がってないせいか、物語に纏まりを感じませんでした。

 大型ペットの販売・飼育問題としては、ヘクターの飼育放棄問題があります。ライルがショーで歌えず、借金地獄に陥ったヘクターは、ライルを18ヶ月も屋根裏部屋に放置し、姿を消しました。その間ライルはどうやって生活してたのか?だから、残飯漁りしてたのか!
 ヘクターはライルに「お前は剥製のフリをしろ」って言ってたけど。これってネグレクトで動物虐待ではないですか?「中途半端な愛情は却って動物を傷つける」、動物を引きとるときには必ず言われる言葉を思い出しました。 うーん、ここまでされてヘクターに「反抗」しないライルも謎なんですよね。
 また、大型危険動物をペットにするリスクや是非もあります。みんなライルみたいに聞き分けの良い子だけではありません。人間の都合だけで生きていくことはできません。
 そして、動物をショーに出す、道具として使うことへの是非が問われるような感じはあるのに、ラストでヘクターは、ジョシュのガールフレンドの「歌えるガラガラヘビ」に目をつけ、何かを企みます。彼、また同じことを繰り返しませんか?
 この辺をうまく掘り下げれば、動物園や水族館、サーカスのショーに関する動物愛護視点が生まれたと思うのですが、何か「ハッピーなだけのラスト」になっていてモヤモヤしました。

 家族問題について。ジョシュの見た目は白人系で、父親には似ているのですが、どう見ても母親はアジア系なの
で全く似ていません。後に、彼女は後妻だとわかります。(所謂、後妻と継子)そして隣人さんはアラブ系なので、まぁ「色々と配慮」してる作品ですね。それはまぁ別にいいんですが。本作は「毒親問題」にも触れていますが、この描き方も何だか中途半端でした。
 父はかつてレスリング選手を夢見ていましたが、それを諦めます。しかし、息子に少しでも強くなってほしいからと、その夢を押し付けようとしてしまいます。
 母は、息子とは仲は悪くありませんが、完璧主義な性格で「コントロールフリーク」の気があり、か弱い息子を何としても守らないとと、いつも先走っています。
 これって、所謂「見えにくい毒親」問題だと思います。暴力や無視などあからさまな「虐待」ではありませんが、精神的な過干渉という意味で。
 一方で、ライルにとってはヘクター
が「毒親ポジション」だと思います。ネグレクトや自分の夢を押し付けるという点で。しかし、ヘクター自身が「憎めない」ポジションに置かれているゆえに、この「毒ぶり」が前者と比較すると「透明化」してしまっているように感じました。結局、彼は変わらないと思いますが。

 主人公の「特性」問題として、ジョシュは喘息持ち、また恐らく発達障害(ASD)、聴覚過敏を抱えています。決まった道しか歩かない、横断歩道で止められるとイライラする、地下鉄や街の騒音で耳を塞ぐ、学校で周りの様子(撮影中)に気づかず、撮影を止めてしまうとか。
 この辺の話は結構深刻だと思うのですが、ライルが来たことで何か変わってますかね?彼自身がこの問題に「対処」している様子がないので、ここまで特性マシマシにすると、物語のバランスとして重く感じてしまうかな。
 結局、学校でも友達とは仲良くできたのかな?ジョシュがライルを友達として認めるのは良いけれど、これって今一つ学校の問題とは結びついてないような。

 食品ロス問題としては、最初はライルがゴミ漁りをして食事を得ていましたが、そのうちジョシュ、母、猫でゴミダイブして、ゴミでパーティーを開いてました。この辺は、食品ロスを訴えたい、とかアンチジャンクフードみたいな話をしたいのかもしれませんが、どうも衛生観念は引っかかってしまいます。しかも、猫ちゃんにエビあげて危うく死にかけてるし。

 こうして挙げてみると、沢山問題を掲げてる割には、特に教訓らしいエピソードもなく、中途半端でモヤッとしました。

⑦ 「イイ感じだけど理不尽にも見える」ラストが腑に落ちない。

 本作で一番モヤッと来たのは、隣人問題です。隣人さん正直、そこまで悪くないんですよね。
 彼は、プリム家が煩いと、散々騒音について注意喚起したのに、彼らには無視され、人からも責められます。正直監視カメラとかプライバシーとか以前に、朝の3時にガヤガヤするのはあり得ないです。人に迷惑かけないようにしろというのは当たり前だし、これはプリム家による隣人への権利の侵害で、「逆ギレ」です。
 ただ、プリム家が自分さえよければ他人の事などどうでもいいように振る舞っているように見え、ここは非常に観ていてストレスが溜まりました。
 色んな人がいることを伝えたいなら、ワニを認知しろと言うのなら、耳が聞こえない、目が見えない人がいるのと同じように、音が苦手な人だっているんだぞと強く言うものでは?結局「被害者泣き寝入り」みたいな判決になっているのでビターエンドにもならず、彼が考えを変えるという展開にもならなかったです。
 最後は追い打ちをかけるように猫は少年の家族の所に呆気なく手のひらを返し、一緒に旅行。引き取ったんですかね?
 この辺は、自分達がしてほしくなかったことを相手に仕返しており、疑問に感じてしまいました。何となくイイ話になってるけど、そこは後気味悪かったです。

 こういう話をすると、「子ども向け作品なんだから楽しければいいじゃん、文句を言うな」というコメントが来そうですが、子どもが見る作品だからこそ、「適当な作り」ではダメだと思います。幼い、頭の柔らかい子ども達は良くも悪くもその考えに染まりやすいよで。
 せめて、ジョシュが子どもライルを拾うとか、ペットショップで飼うとか、一緒にジョシュが成長していく方がまともな物語になったと思うので、色んな意味で失敗している作品だと感じました。

 以上、探せば美点はあるものの、意外と悪い点も目立っていたので、この評価となりました。それでも、俳優の演技や音楽は一定以上で、楽しめるといえば楽しめるので、ご興味ある方はどうぞ。

出典

・公式サイト

・Wikipediaページ


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