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映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」感想

 一言で、昔ながらの童話の面白さ・奥深さ・残酷さをベースにしつつも、ユーモアやギャグ、アクション、過去作のオマージュを散りばめています。シュレックや前作を知らなくても普通に楽しめます。

評価「B」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 本作は、ドリームワークス・アニメーション製作、ユニバーサル・ピクチャーズ配給で、大人気アニメシリーズ『シュレック』のスピンオフ作品で、2011年公開の映画『長ぐつをはいたネコ』の続編に当たります。
 監督は『クルードさんちのあたらしい冒険』のジョエル・クローフォード、共同監督はジャニュエル・メルカド、脚本はポール・フィッシャーです。作画の高さやアクションの凄さ、童話や昔話の面白いアレンジなどが高く評価され、第95回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされました。

・主なあらすじ

 デル・マーの町にて、サン・リカルドの英雄でお尋ね者の賞金首の猫プスは、危ない橋を渡りまくってスリルと冒険を楽しんでいました。しかしある日、巨人との激闘の後、調子に乗りすぎてうっかり「死んで」しまいました。医者からは「9つの内の8つの命を使い果たし、残りは後1つ」しかないことを告げられます。
 医者からは、現在の無茶な生活から退き、猫好きの女性で多くの猫を引き取っているママ・ルーナの元に身を寄せることを提案されるも、命のストックにあぐらをかいていたプスは、それを邪険に扱います。

 しかし、その夜、バーで黒い頭巾をかぶったウルフから話しかけられ、相手を賞金稼ぎと悟ったプスは自信の表れから返り討ちにしようと戦いを挑みますが、まるで歯が立たず、ようやく自身の命があと一つであることを理解し、そして死への恐怖を感じたことで、剣を捨てて命からがら逃げ出します。

 賞金首を「引退」し、ママ・ルーナのもとで「飼い猫」として過ごすことになったプス、しかし、そこに「犯罪一家」の少女ゴルディと3匹のクマがプスを探しにやってきます。プスは彼らの話から「どんな願いも叶えてくれる『願い星』」の存在を知ります。「願いが叶えば、また命のストックを増やせる!」、そう考えたプスは、猫じゃない犬「ワンコ」と共に冒険に出発し、願い星の在り処を示す「魔法の地図」を探します。しかし、それを求めているのは「彼ら」だけではありませんでした…。

・主な登場人物

・プス - (アントニオ・バンデラス/山本耕史)
 本作の主人公。サン・リカルドの英雄にして賞金首の猫剣士。
 残り1つの命となり、失意のうちに隠居生活をしていたところを、「願い星」の噂を聞きつけ、魂を取り戻す旅に出ます。
 
・キティ・フワフワーテ - (サルマ・ハエック/土屋アンナ)
 本作のヒロインでブチ猫。プスの「元婚約者」でしたが、結婚式当日にプスが来なかったため、「裏切られた」と誤解し、信頼できるパートナーを見つけるために「願い星」を探し求めます。

・名前のない犬/ワンコ - (ハーヴィー・ギレン/小関裕太)
 人懐っこくて天真爛漫なノラ犬。
夢はセラピードックになること。
 虐待や遺棄などの悲しい過去持ちですが、持ち前のポジティブな性格もありその悲惨さには気付いていません。
 猫に「扮装」してママ・ルーナの家で暮らしていましたが、プスと出会い「願い星」を探す彼の冒険の旅に同行します。

・ゴルディ・ロックス - (フローレンス・ピュー/中川翔子)
 犯罪一家「3びきのくま」のリーダーの少女。幼い頃から熊達と育ち、自身の仲間である3匹の熊たちを家族として大切に思っています。彼女もまた自身のとある願いを叶えるため、「願い星」に到達をもくろみます。

・ママ・ベア - (オリヴィア・コールマン/魏涼子) ゴルディの養母熊。

・パパ・ベア - (レイ・ウィンストン/ 楠見尚己) ゴルディの養父熊。

・ベイビー・ベア - (サムソン・ケイオ/木村昴) パパ・ベアとママ・ベアの息子で、ゴルディの義弟。

・ビッグ・ジャック・ホーナー(ジョン・ムレイニー/ 成河)
 本作のメインヴィラン。表向きは両親から受け継いだパイ工場を営んでいるオーナーですが、その本性は世界征服するために、全ての魔法を独占しようと「願い星」への到達を目論むド悪党。性格は極悪非道であり、部下たちの命すら何とも思っていません。
 様々な魔法道具を集めており、何でも入る「魔法のバッグ」を常に持ち歩いて、プス達を追ってきます。

・ウルフ - (ヴァグネル・モウラ/津田健次郎)
 本作の「もう一人の悪役」。プスの前に突如現れた賞金稼ぎで赤い眼をした大柄な狼。武器は両刃のグレイブにもなる2本の鎌。口笛を吹きながら、8つの命を失ったプスの最後の命を奪うために彼を、死神の如く執拗につけ狙いますが…。

・ママ・ルーナ - (ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ/渡辺明乃)
 猫好きの老婆。実家で多頭飼いをしているため保健所から注意を受けています。一度は引退したプスのことを一時期引き取っていました。

① ドリームワークスアニメらしい安定の面白さ!もっと多くの人に見てほしかった。

 本作、とても面白かったです!ドリームワークスアニメらしい安定の一作でした。正式には前作からの「続編」ですが、一見さんでも普通に楽しめると思います。前作のネタには「多少は」触れますが、覚えてなくてもそこまで気になりませんでした。

 オープニングムービーに、『バッドガイズ』・『カンフー・パンダ』・『トロールズ』・『ボス・ベイビー』・『シュレック』など、今までの作品のキャラが登場して、愛を感じました。

 基本的には、ドリームワークスやイルミネーションのアニメは、ディズニーやピクサーと比較すると、「対象年齢が低め」なせいか、「アウトロー」や「イタズラっ子」要素が強いと思います。※ディズニー・ピクサーが「優等生すぎて鼻につく」と言われがちなのはわかります…。
 
 私が観た回は3週目で、どこも「朝イチの1回のみ」で、かなり上映回数が結構減らされてました、悲しかったです。「面白くて隠れた名作」なのに。
 昨年公開の『バッドガイズ』に続き、話はわかりやすいし、笑えるし、キャラは癖強強で、アクションも凄いので、お子さんとの視聴もお勧めです。ストーリーや演出に色々とツッコミどころは多いけれど、ゴールデンタイムのアニメとして見るならアリです。

 まぁ本家映画の『シュレック』自体がもう20年位昔の作品ですからね。「ハリセンボンの近藤春菜さんがイジられるネタ」くらいにしか知らない人も多いと思います。本作の前の映画も11年前なので、知名度は低かったのでしょう、残念。

 しかも、上映時期が春休み期間だったが故に、『ドラえもん』・『ウルトラマンデッカー』・『シン・仮面ライダー』・『私の幸せな結婚』などの競合作、また昨年からの大ヒット作品の『すずめの戸締まり』・『THE FIRST SLUM DUNK』などの強豪作と重なっているから、余計に埋もれてしまったように感じました。

② 「お猫様好き」にはたまらない一作!

 本作は、盛大に猫ちゃんが大活躍するので、「お猫様好き」にはたまらない一作となっています。
 3Dでモフモフな毛の質感、アメリカのアニメは凄いですね!ある意味、「ケモナーホイホイ」要素もありそうです。

 また、プスの死因の1つとして、「イカアレルギー」がありました。昔から「猫が腰を抜かす」と言いますね。流石に即死はないようですが、「ビタミンB1欠乏症」や「脚気」を引き起こすようなので、お気をつけてください。特に「生のイカ」は良くないようです。

 ちなみに、本作において「動物が言葉が話せるor 話せない」の基準は何なのか?ここはずっと謎でした。
 例えば、ママ・ルーナの家の猫達は、人間語を話しません。だけどプスやキティ、ワンコは話せるんですよね。もしかしたら、「『普通の』人間の前では話してはいけない」ルールがあったのかな?(ゴルディやジャック・ホーナーを除いて。)何だか『トイ・ストーリー』みたいですね。

③ 童話や昔話のアレンジが上手い!

 本作といい、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』といい、童話のアレンジには賛否両論あると思いますが、どちらもかなり良いアレンジでした。
 まぁ、童話のリメイクって強いですよね。一から話を作るより、元からある話をちょっと変えれば良いですからね。かのディズニーだってそうですけど。
 
 後は、「長靴をはいた猫」って東映アニメーションにもいましたが、本作とはある意味「マルチバース」かしら?

④ 色んな作品のオマージュを探すのも楽しい!

 本作は、色んな作品のオマージュがかなりあり、それらを探すのも楽しかったです。
 特に、ディズニーに対抗したネタ、日本の漫画やアニメのオマージュはかなりありました。

 プスは、『100万回生きたねこ』や『吾輩は猫である』、『ポケットモンスター』のロケット団のニャースっぽさがありました。

 ジャック・ホーナーは、『マザー・グース』の『リトル・ジャック・ホーナー』ですね。パイにがめつい奴なのも。後、彼のカバンは、『ドラえもん』の四次元ポケットか!と思わず突っ込みました。

 童話やディズニーのオマージュとしては、『ピノキオ』・『白雪姫』・『ジャックと豆の木』・『アラジン』・『シンドバッドの冒険』・『ターザン』・『ジャングル・ブック』・『ヘラクレス』・『ブラザー・ベア』・『くまのプーさん』・『ヘンゼルとグレーテル』・『ドン・キホーテ』・『メリダとおそろしの森』・『ラーヤと龍の王国』・『森のくまさん』・『カントリー・ベアーズ』・『シチリアを征したクマ王国の物語』辺りはありましたね。他にもあったら教えてください。
 後、「童話ネタ」で勝負する話は、『かがみの孤城』を思い出しました。 

 個人的に目に留まったのは、RPGと異世界冒険ですね。前者は『2分の1の魔法』、後者は『ストレンジ・ワールド』っぽさあります。
 特に、見える人によって地図が「違って見える」のは面白かったです。この視点は「本作独自のもの」でした。
 目の前に広がるのは「苦難の道」なのか、はたまた「希望の道」なのか、周りは「敵」なのか「味方」なのか…。
 見方を変えれば、考えは変わる、「求めよさらば与えられん」、キリスト教の教えでしょうか。「物事を成就するためには、与えられるのを待つのではなく、みずから進んで求める姿勢が大事だということ」かなと思います。

 後は、ママ・ルーナの家で「過去の自分の葬式」をして、「フツーの飼い猫」になろうとしたプス、この辺はディズニー実写版『クルエラ』っぽさがありました。
 ちなみに、あの家どう考えても多頭飼育崩壊でしょ。

 本作の全体的なノリは、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』的なゴールデンタイムのコメディーなアニメ寄りでした。
 特にワンコくんの挙動が、意外と品がないの草でした。発言に「ピー」が連発してたの笑いました。彼の特技は、「ギョロ目」なんですが、これが結構怖いw。しかも土壇場でやり出すので、「野原しんのすけの尻出し攻撃感」あるの笑いました。

 日本の漫画なら、地図や指名手配、賞金稼ぎや戦いや知恵で相手を出し抜く痛快さは『ONE PIECE』・『ルパン三世』・『ジョジョの奇妙な冒険第7部スティール・ボール・ラン』・『ゴールデンカムイ』辺りでしょうか。一番ハッキリとわかったのは『進撃の巨人』ですが、これは後述します。

 プスが「水晶」の中で「自分の一生」を突きつけられ、ウルフと追いかけっこするシーンは『オペラ座の怪人』の鏡のシーンっぽさがありました。

 不死鳥は『ハリー・ポッター』ですね。

「引退」したキャラがまた表舞台に立つ、という話は『インディー・ジョーンズと運命のダイヤル』とも重なります。

⑤ アクションシーンの力の入れ具合が半端ない!

 本作は、アクションシーンの力の入れ具合が半端なく、特に「巨人vsプスの戦闘」には見惚れました!
 戦闘シーンの作画には特に力が入っており、3Dと2Dを交互に使い分けてますね。『進撃の巨人』・『スパイダーマン: スパイダーバース』・『バッドガイズ』っぽさがありました。ちなみに、巨人vsプスの戦闘は「2回」ありますのでお見逃しなく。
 ちなみに、爪と皮膚の間に剣を挿すって地味にかなり痛そうなので、やられたら嫌ですね。

⑥ 声優交代や新キャラ登場はあるも、そこまで気にならず。

 
 本作は一部キャスト(日本語吹き替え版)に変更がありました。
 プスの声優は竹中直人さんから山本耕史さん、キティの声優は本田貴子さんから土屋アンナさんに。特に理由はわからなかったです。
 勿論、お二人共良かったので、そこまで気になりませんでした。よく考えると、山本耕史さんはディズニー実写版『ピノキオ』ではジミニー・クリケット役でした。

 一番良かったのは、ウルフの津田健次郎さんでした。ウルフがマジで『ゴールデンカムイ』の尾形百之助みがあり、追跡と執念と死神さが存分に発揮されていました。
 ただ本作ではメインヴィランではなく、飽くまでも「プスとの永遠のライバル」的なポジションでした。プスにとっては、2人ヴィランがいたようなものですね。皆の敵とプス自身の敵という。

 また、土屋アンナさんと中川翔子さんと木村昴さんは実際に猫を飼われているらしく、「猫ラー」です。中川翔子さんは『塔の上のラプンツェル』からのキャスティングでしょうか?

 ちなみに、原語版吹き替えにはアントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、フローレンス・ピュー、オリヴィア・コールマン、レイ・ウィンストンなどがいて豪華すぎます!こちらは配信でのお楽しみかな。

⑦ やはり童話や昔話は残酷。

 ラストシーンより、やはり童話や昔話は「残酷」ですね。
 それにしてもジャック・ホーナー救われなかったなぁ。まあ自分の欲望のために人を犠牲にしたり、共感や思いやりの心が欠落してたからかな。「サイコパス」とか言われてたし。
 このように、「悪は悪として、善の心とは相容れないもの」という教訓として描くのは童話らしいです。

 ただジャック・ホーナーが親指立てて?氷の池に落ちて沈んだシーン、何となく『ターミネーター2』の「親指溶鉱炉の『逆再生』」みたいでちょっと笑ってしまいました、笑うシーンではないけれど。

⑧ プスとウルフの「対決」が示す意味とは?

 ラストシーン、ジャック・ホーナーと戦闘中に、ウルフが現れ、プスは戦います。
 水晶に映った8度の人(猫)生と向き合います。今までの自分の行いに向き合わざるを得なくったプス、しかし彼仲間たちとの冒険で命の価値を知ったことで、もう新たな命を増やすことを願いませんでした。
 プスは「死神に勝てなくても、最後の命の為に戦うことはやめない」と、過去の栄光に「決別」し、今を生きることを選びました。ウルフは「彼を殺す価値はない」と判断し、「いつか会おう」と言い残して去っていきました。
 
 生き物である以上、「死」は避けられないものです。でも、死神は実は「悪」じゃないのかも?どこまでも足掻く、生にしがみつくプス。老猫になった姿は見たいような見たくないような。プスが捨てた剣を持っててくれた死神さん、やはり「決闘」で勝負を決めたかったのでしょう。

⑨ 結局、皆の願いって叶ったのだろうか?

 結論から言うと、星は誰も手に入れることが出来ませんでした。となると、皆の願いって「叶った」のか?それを考察するとまた面白いかもしれません。
 ここは憶測ですが、最初は「自分(達)の願いしか興味がなかった」でも冒険を続けるうちに「仲間達の幸せを願うようになった」、これが本作のキャラ達の「成長」であり、巡り巡って「願いが叶った」ことなのでしょう。(一人を除いて。)

 それにしても名前のない、家族のいないワンコくんが皆を繋ぐ役割になって、とても良い働きをしてました。「僕には名はない」なんて『犬王』の犬王かな(笑)?

出典:

・映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」公式サイト

※ヘッダーはこちらから引用。

・映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」公式パンフレット

・映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」Wikipediaページ

・ねこのきもち【獣医師監修】猫に生のイカは絶対にNG。腰を抜かすって本当? 食べてしまったときの症状と対処方法


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