ゆきちか

ゆきちか日々の書簡 07 * ゾンビとドール

コンポーザー二人の毎日のやり取りを切り取ったもの。きほん何気ない話です。今回は安野太郎さんのゾンビ音楽から、数日前に初演された森下の新曲まで。そういえばゾンビとドール(人形)はどこが違うんだろう?
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わたなべゆきこ
作曲家、ケルン在住、四歳児の母。もう少しで韓国そして日本!
森下周子

作曲家、ベルリン在住。とにかく締め切りがいくつもやばい。
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わたなべさっきょく塾の身体回エッセイについて考えてたんだけど、ちかこは安野太郎さんのゾンビ音楽についてはどう思う?前に、楽器回(わたなべ思考論「変化する楽器たち」)で少し触れたことがあるんだけども。

森下:名前は存じ上げてるけど、何をやられてるかはまだよく知らないの!!これはアルゴリズム作曲の無人演奏、ということで良いんだよね?ゆきこちゃんからはどう見えてるの?

わたなべ:私は結構安野さんの好きなんだけど、「非身体的な音楽」って、ちかこがどう思うのか興味があって。この前、ちかこの音楽が音響的インスタレーションだって話があったけど(※7月6日にPhidias Trioが初演したEtude IVのこと。詳しくは下記参照)、実はそれって、身体が非身体に向かうイメージなんだよね。そして、安野さんのは逆で、非身体が身体に向かうベクトル。それが三輪さんが提唱してる逆シミュレーション音楽の基本なんだと思うんだけどね。

森下:えーーそれはどういうこと?逆シミュレーションの音楽?ああマシンだったり人の身体ではないもの(=オブジェクト)が、人間(サブジェクト)化していくってことかしら?

わたなべ:そうそう。

森下:うーんわたしの曲は「非身体化」っていう言葉かどうかは分からないけど、オブジェクト化には興味ある。演奏家の身体を抜け殻にするというか、他の何かに乗っ取らせる状態を「doll time(人形の時間)」って名付けてて。それこそタカスギのSideshowでも、演奏家は人なんだけど動物みたいになったりするじゃない?ああいう「自分ではないもの」のイメージ。

大雑把な区分だし、今回のトリオ曲はまたそれとも少し違うんだけど。

わたなべ:doll timeって面白いね〜!

森下:えっと、このリンクで良いのかな?先日のオーディオ録音。ビデオの方が、身体性の観点では分かりやすいとは思うんだけど。

森下:今回はヴァイオリンの松岡麻衣子ちゃんをメインにしたけど、やっぱり素晴らしかった。知り合ったのはそれこそゆきこちゃんに出会ったころだから15年前くらい?数分間一人でかつ最小の動きで「もたせられる」のは流石。三人としてもそう。ゆきこちゃんの言う「オブジェクト化」「インスタレーション化」の意味では今までで一番うまくいったかも。

わたなべ:録音聞いたよ〜。面白かった!この音楽が提供しているのは、音を聞く体験なんじゃないかって思った。例えば作品を聞いて、後から思い出せる、思い出せないってそういう議論があるけど、この曲を思い出すときは、音じゃなくて、音を聞いた体験自体を思い出しそう。音響イベントを作るっていう意味ではシャリーノ的ではあるけど、シャリーノがそれを音響音色の拡張とともに行ったのに対して、ちかこはそれを身体性、そしてノーテーションでやろうとしてるのかな、と。

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森下周子「Etude IV」からヴァイオリン・パートの抜粋

森下:わーいありがと!身体性とノーテーションが特色なのかな?自分ではよく分からないけど。そういえばコンサートに来たアート関係の古い友人が、「Etude」というタイトルを「オーディエンスが空間を見る・聴く練習」の意味に捉えてた。ふふふ。

わたなべ:おお〜っ!

森下:ただProject PPPへの新作(ほんと遅くなって申し訳ない、愛季さんとかりんさんからさすがにメッセージ来てた!)では、もう少し複雑なナラティブを構築できたらと思って鋭意創作中。でもこのナラティブと、インスタレーション的なものが並存できるのか未だ不明。とにかく数日内に仕上げます...(´Д` )

わたなべ:楽しみにしてる!挑戦する同志の態度から一番勇気もらうわ〜!!わたしも頑張ろ〜!

森下:ほんとごめんなさい...(´Д` )(´Д` )(´Д` )

画像2

森下の新曲を含む「身体性」をテーマにした9月2日のコンサートはこちら。プログラム監修はわたなべゆきこ。

無料のプレイベントとして、「中堅女性作曲家サミットvol.2」を同日夕方に開催予定。

【これまでの「ゆきちか日々の書簡」】
01 * チルテレ
02 * カイロの音楽祭
03 * 日本エキス
04 *「個人的」なもの
05 * ゆきこの屈辱
06 * マルチタスク

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ふたりが講師をつとめるProject PPPの三日間のコンポジションアカデミーは2019年は9月2〜4日に開催予定。オンナ作曲家の部屋vol.2、稲森安太己によるゲストレクチャー、Vln&Vcコンサート、グループディスカッションなど。

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